「みんな同じ」は錯覚! 高市氏圧勝の裏にあるSNSの罠と、身を守る3つの自衛策
スマホを開けば、自分と同じ意見や好みの動画ばかりがあふれる日々。「みんな同じ考えだ」と安心していないだろうか? 実はそれ、あなたが正しいからではなく、SNSのアルゴリズムが生み出した『フィルターバブル』という見えない檻に閉じ込められているだけかもしれない。
第一生命経済研究所・副主任研究員の郄宮咲妃氏の解説をもとに、私たちの思考を操るSNSの危険な仕組みと、その罠から抜け出すための具体的な対策に迫る。
見えない檻『フィルターバブル』
ネット検索やSNSなどは、アルゴリズム機能が利用者の好みやニーズを判断して「見たい情報」を優先的に表示し、「関心のない情報」を遮断するという。このように自分が興味のある情報だけに触れる状態が『フィルターバブル』だ。
総務省の情報通信白書(令和5年/2023年)も、次のように指摘している。
《アルゴリズム機能で配信された情報を受け取り続けることで、利用者は興味のある情報だけにしか触れなくなり、あたかも情報の膜に包まれたかのようなフィルターバブルと呼ばれる状態となる傾向にある。このバブルの内側では、自身と似た考えや意見が多く集まり、反対のものは排除(フィルタリング)されるため、その存在そのものに気付きづらい》
さらに同白書は、SNSなどで自分と似た興味や関心を持つ利用者が集まる場のコミュニケーションで、自分と似た意見が返ってくることを指摘。特定の意見や思想が増幅していく状態を『エコーチェンバー』と呼ぶとしている。
何度も同じような意見を聞くことで、それが正しく、間違いのないものであると、より強く信じ込んでしまう傾向にあるという。
第一生命経済研究所・副主任研究員の郄宮咲妃氏は、こうした情報環境について次のように警鐘を鳴らす。
「偏った情報が見えるのにとどまらず、偏りが徐々に形成されるので利用者が自覚しにくい。快適な情報環境と受け止められやすく、情報接触の範囲が狭められていても気づきにくい」
さらに、こうした「心地よい空間」では、極端な意見が広がりやすい側面もある。郄宮氏はネット上の心理について次のように話す。
「ネットの世界では、情報の内容を信じている人と、炎上させようと面白がっている人がいるのではないでしょうか。SNS上で反応が欲しいので刺激的な言葉となり、あえて強い意見や反論を投稿する人がいるかもしれません」
高市氏圧勝と切り抜き動画
こうしたSNSの影響は、政治の世界だけでなく、健康食品などの商品販売にも及んでいる。いずれも、YouTubeなどの「切り抜き動画(ショート動画)」が拡散され、ネット空間で存在感を増しているのだ。
今年2月8日の衆院議員選挙は、高市早苗総裁の率いる自民党が歴史的な圧勝をおさめた。民意の結果と言えばそれまでだが、その背景の一つに、《SNSをジャックした高市首相》という報道も出ている。
衆院選挙結果については、メディアでさまざまな検証がなされている。毎日新聞は2月17日のオンライン版で、〈高市氏による『情報空間のジャック』(専門家)はなぜ起きたか〉、などを報じた。そこでは、YouTubeなどで「切り抜き動画」が次々に拡散されたことなどを取り上げている。
朝日新聞も2月22日のオンライン版で〈2年で10倍に拡大した選挙動画の世界 突出する高市氏〉などと報道。
それによると、選挙ドットコムの調査で、1月27日〜2月8日に選挙関連動画としてYouTubeに約9万本が投稿され、再生回数は約28億回に上ったという。特に、以下の点が指摘されている。
・個人別で高市氏に関する動画が4.5億回と突出
・政党や候補者が投稿した動画は全体の2割に満たず、それ以外の「第三者(サードパーティー)」が8割を占める
選挙期間中に推し活のように、ひいきの人についての切り抜き動画が次々に拡散され、選挙結果に影響したのではないか、というわけだ。
このような「切り抜き動画」とアルゴリズムによる影響は、政治という大きなテーマにとどまらず、私たちの身近な日常生活にも入り込んでいる。
こうした切り抜き動画の影響について、郄宮氏は、健康食品の販売促進活動につながっているのではと感じることがあるとして、次のように語る。
「子育てをしている友人に会って話していると、インスタ(グラム)やショート動画で『癇癪(かんしゃく)持ちの子どもにはこの健康食品がおすすめ』と流れてきたことがあるなどと、特定の健康食品を紹介されることがあります」
ショート動画は、ある部分だけを切り取っており、短く、強いメッセージ性がある。一方で、その前後につながる部分のあることが多く、それらも含めて全体として見ることで、総合的な判断が可能になる。
郄宮氏は次のように話す。
「忙しくて時間がなく、時短になるショート動画に頼ってしまうときもあります。そうしたとき、発信者がどういう人なのかといったショート動画の特性や問題点に、果たして自分自身や利用者がきちんと気づけているのか、不安を覚えることがあります」
郄宮氏はレポートで、ネット空間のこうした状況について、フィルターバブルで情報検索の負荷が下がり、安心感や納得感を得られやすいと指摘する。一方で、異なる視点や反証に触れる機会が持続的に減少し、社会に対する理解が単純化されるリスクがあると分析している。
自衛のための「3つの対策」
ネット検索やSNSのこうした特性を理解したうえで、郄宮氏は利用者側の「セルフ・ガバナンス」が大切になると訴える。具体的には以下の通りだ。
1_「反論」「限界」「別の説明」を含む検索も試みる
2_SNSの情報に頼るだけでなく、元の情報(一次情報)にも目を向けてみる
3_SNSなどで強く反応した投稿はすぐ拡散せず、ワンクッションおいてみる
SNS利用をめぐっては、各国が対策に動いている。豪州は昨年末、法律で16歳未満のSNS利用制限に乗り出した。新規アカウントの作成や既存アカウントの保有を制限するもので、違反すると、運営企業には罰金が科せられる可能性があるという。スペインの首相も同様の方針を表明したと報じられるなど、欧州でも若年層を対象に規制の動きが出ている。
さらに、欧米の規制動向について、郄宮氏は次のように語る。
「米国では政治とSNSとのかかわりについて、大規模な行動データを用いた研究が蓄積されており、規制を導入する州が増えています。EU(欧州連合)は、もっと包括的な規制を進めています」
欧州の規制では、ネット利用者の断片的な情報から対象の特徴などを推測するプロファイリングについて、利用者が適用の拒否を選択できる。
郄宮氏は、日本についても次のように話す。
「金融教育などと同じように、SNS利用についても学校教育などに取り入れていくことが望ましい」
さまざまな見方や意見にも触れられるように、SNSの特性を理解して適切に利用するよう、心がけていきたい。
取材・文:浅井秀樹
