〈年金月10万円・貯蓄60万円〉83歳女性、56歳息子の同居提案に救われたはずが…わずか2ヵ月で聞いた「信じ難い言葉」
高齢期に一人暮らしを続けることが難しくなったとき、子どもとの同居は現実的な選択肢の一つになります。内閣府『高齢社会白書(令和6年版)』によれば、65歳以上のいる世帯のうち単独世帯は年々増加しており、特に女性の単身高齢者の割合は高い水準にあります。経済的・生活的な不安を背景に、親子同居を選ぶ家庭は少なくありません。しかし同居は、単なる生活支援ではなく家計や役割、距離感の再編を伴います。その調整がうまくいかない場合、関係の歪みが表面化することもあります。
年金月10万円・貯蓄60万円の一人暮らし
「息子が一緒に住もうと言ってくれたときは、本当にありがたかったんです」
そう語るのは、地方都市に暮らしていた和子さん(仮名・83歳)です。
和子さんは夫に先立たれ、15年ほど一人暮らしを続けてきました。年金は遺族年金を含めて月約10万円。貯蓄は約60万円まで減っていました。
持ち家の古い一戸建てに住んでいましたが、固定資産税や修繕費、光熱費の負担は重く、「いつまで一人で暮らせるのか」という不安を感じていたといいます。
総務省『家計調査(2024年)』では、高齢単身無職世帯の消費支出は月平均約15万円とされ、年金だけでは不足が生じやすい構造が示されています。和子さんの生活も、まさにぎりぎりの水準でした。
転機は、56歳の長男・健一さん(仮名)からの電話でした。
「母さん、一人じゃ大変だろ。うちに来ないか」
健一さんは独身で、郊外の分譲マンションに一人暮らしをしていました。会社員として働いており、経済的には安定していました。
「もう限界かなと思っていたので、ほっとしました」
和子さんは自宅を売却し、息子宅へ移りました。同居にあたり、生活費として月5万円を息子に渡す約束をしたといいます。
同居当初、和子さんは「迷惑をかけないように」と家事を担いました。食事の準備、洗濯、掃除。息子が働いている間、家を整える役割を自ら引き受けたといいます。
「お世話になる身だからと思って」
しかし生活のリズムや価値観の違いは徐々に表れ始めました。
健一さんは仕事後に外食をして帰ることが多く、用意した食事が手つかずのまま残ることもありました。生活時間帯も合いません。
「気を遣っているつもりでも、どこか噛み合わない感じがありました」
わずか2ヵ月後、掛けられた言葉
同居から2ヵ月ほど経ったある日、健一さんが言いました。
「母さん、生活費足りないんだよね。5万円じゃ光熱費も食費も増えるし、正直きつい」
さらに続いた言葉は、和子さんにとって衝撃でした。
「正直、来てもらったら少しは楽になると思ってたんだ」
和子さんは言葉を失いました。
「そんなふうに思われていたんだとショックでした」と振り返ります。
健一さんは、同居によって家事や生活費の面で負担が軽くなることを期待していました。一方、和子さんは生活面を支えてもらう側になるつもりでいました。つまり同居に対する前提や負担認識が、親子で異なっていたのです。
親子同居では生活費分担が曖昧になりやすい傾向があります。和子さんの場合、年金10万円のうち5万円を生活費として渡していましたが、残りは医療費や日用品で消え、余裕はありませんでした。
その後、健一さんは生活費の増額を求めるようになりました。和子さんは「払えない」とは言えず、わずかな貯蓄を取り崩して応じました。
「迷惑をかけている気持ちが強くて…」
助けてもらうはずだった同居は、いつしか遠慮して暮らす関係へと変わっていきました。
親子同居は本来、支え合いで成り立つものです。しかし期待や負担の認識がずれたまま始まれば、その関係は容易に歪みを生むことがあります。
経済的な不安を背景に選ばれる同居であっても、それが安心につながるとは限りません。「助けてもらえるはずの関係」もまた、条件が整わなければ負担になり得る--それが高齢親子同居の難しさなのかもしれません。
