“鉄道アニメ”の源流と『ミルキー☆サブウェイ』の新しさ 『銀河鉄道の夜』などから辿る
『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』が絶賛上映中の一方で、3月7日にNHKのEテレでアニメ映画『銀河鉄道の夜』(1985年)が放送される。どちらも「鉄道」が登場するアニメだが雰囲気は正反対。それでいて次々に起こる出来事に引っ張られ、スリリングな体験を共有している気にさせられる。ほかにも『銀河鉄道999』(1979年)や『海底超特急マリン・エクスプレス』(1979年/以下、マリン・エクスプレス)などがある「鉄道」アニメを振り返って『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』(以下、ミルサブ)の面白さの源流を考えてみたい。
参考:『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』なぜヒット? “ショートアニメ劇場化”の成功例に
2月20日から25日まで新潟市で開催された新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)で、「手筭治虫レトロスペクティブ」として上映された作品の中に、長編アニメ作品『海底超特急マリン・エクスプレス』があった。手筭治虫が原案と製作総指揮を務め、1979年8月に放送されたTVスペシャルアニメで、ロサンゼルスから日本へと向かって出発した海底横断鉄道マリン・エクスプレスが暴走を始め、これを止めようと敵対していた乗客たちが協力し合うシーンが登場する。
まるで『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』を思わせるシチュエーション。列車を暴走させたのも、『ミルサブ』のO.T.A.M.(オータム)ちゃんのような制御ロボットで、暴走を止めようとする人たちを妨害するところも一緒だ。それどころか、トイレに閉じ込められたり、閉まる扉に顔を挟まれたりといった『ミルサブ』で見たようなシチュエーションも登場する。
『ミルサブ』は、キャンディーズの1977年の楽曲「銀河系まで飛んで行け!」が使われたり、昭和のドライブインに置いてあったレトロ自販機が登場したりして、当時を記憶している年配者の懐かしさを誘った。コンピュータに制御された未来の鉄道で異常な事態が次々に起こる展開への懐かしさも、『マリン・エクスプレス』を見た記憶が頭のどこかに残っていたからかもしれない。若い人も、『マリン・エクスプレス』を見ることで『ミルサブ』から漂う懐かしさの理由を感じ取れるだろう。
一方で『ミルサブ』は、セリフが重なって会話が聞き取りづらくなることを厭わず、展開をギュッと圧縮し、短い時間で『マリン・エクスプレス』のようなスペクタクルを繰り広げてみせたところに目新しさがあった。会話自体もダラダラと喋る若い人たちの口調を絶妙に表現して、しっかりとした会話劇に馴れた耳に新しさを感じさせた。もし今後、『マリン・エクスプレス』がリメイクされることがあるとしたら、『ミルサブ』で更新された鉄道パニックものの印象を踏まえた演出面の刷新が行われるかもしれない。
■宇宙×鉄道のロマン、『銀河鉄道999』の拡張性 鉄道パニックものの映画には、佐藤純彌監督の『新幹線大爆破』(1975年)やアーサー・ヒラー監督『大陸横断超特急』(1976年)、 ジョージ・P・コスマトス監督『カサンドラ・クロス』(1976年)といった作品があって、『マリン・エクスプレス』もその系譜に連なる。『ミルサブ』も半世紀という時間を超えて、新たに名前を連ねた作品と言える。
同時に『ミルサブ』は、『マリン・エクスプレス』と同じ1979年8月に劇場公開された長編アニメ『銀河鉄道999』のような、宇宙と鉄道の組み合わせを半世紀ぶりに見せてくれた作品でもある。『銀河鉄道999』は言うまでもなく松本零士の漫画を原作にした長編アニメで、前年に放送が始まっていたTVシリーズの好評を受け、夏休み映画として作られた。
TVシリーズは、宇宙を旅する銀河超特急999号に乗って機械の体をもらえる星に向かう星野鉄郎とメーテルが、立ち寄る星での出来事を1話から時に複数話を使って描く連作形式になっていた。『ミルサブ』のように、列車の中だけが舞台になるエピソードもあったが、映画はもっぱら鉄道の外での出来事がストーリーの中心。鉄郎が母親を殺した機械伯爵を見つけ出して復讐を遂げようとするスリリングな冒険と、999号の終点にある星で行われていた恐ろしいことを暴くスペクタクル展開で楽しませた。
松本の別の作品『宇宙海賊キャプテンハーロック』や『クイーン・エメラルダス』のキャラクターや世界を取り込んで、松本ファンにちょっとしたお祭り気分を感じさせる映画にもなっていた。多彩な作品を描き続けてきた松本の作品だからこそ描けたとも言える。『ミルサブ』がシリーズを重ねて登場人物が増えていけば、いつかはオールスターキャストのようなお祭り作品を作ることができるかもしれない。そのラストに「さらばマキナ、さらば銀河特急ミルキーサブウェイ」というナレーションがついていたら、募る懐かしさもキャンディーズや自販機を超えたものになるだろう。
宇宙を行く鉄道のアニメでは、『銀河鉄道999』の元にもなった宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』を原作にした杉井ギサブロー監督『銀河鉄道の夜』(1985年)も忘れてはいけない作品だ。キャラクターが人間ではなく漫画家のますむらひろしが描く猫になっている点が特徴で、宇宙を旅する鉄道というファンタスティックなモチーフを、さらに童話的なものにしている。
こちらは列車の中でさまざまな出来事が起こるが、『ミルサブ』のように他の乗客と戦ったり、何者かの妨害に挑んだりといった展開はない。ジョバンニという少年が、親友のカムパネルラという少年と暗い宇宙を静かに進んでいく列車の中で言葉を交わしたり、乗り合わせた乗客から話を聞いたりしていった先で訪れる、永遠の別離という悲しみに浸り、幸いのために生きていくことの大切さを知る。そんな映画になっている。
細野晴臣が手がけた音楽もエキゾチックで、シティポップやアイドル歌謡が流れる『ミルサブ』とは正反対。『ミルサブ』のようなアクションもなく、『マリン・エクスプレス』や『銀河鉄道999』のような冒険もない。それでも、見れば学校で父親の仕事をからかわれても落ち込まず、活字拾いの仕事をして稼ぎ、母親のために牛乳を取りに行くジョバンニの健気さに惹かれてしまう。丘の上に眩しい光と共に現れた銀河鉄道に驚き、乗り込んだ列車の中で繰り広げられる優しい出来事に心を洗われ、作品として忘れられなくなってしまう。
映像自体にも見どころが豊富だ。例えば「天気輪の柱」という、原作には登場するが、現実には存在しないものをどう描くかで、杉井監督は原作者の宮沢賢治が生まれた花巻の空に、お盆のころに立つ天の川を参考にした。絵の具の代わりにガラスの粉をふりまき、光を当てて乱反射させて撮影したという星空は、CGでは再現できない煌めきを放つ。フル3DCGの『ミルサブ』が列車や美術で妙なリアルさを再現しているとしたら、『銀河鉄道の夜』はアナログ技術の挑戦が詰まった作品。見比べていろいろと感じ取るのも面白い。 (文=タニグチリウイチ)
