●信頼を失った社内でカメラを回したDも参加
昨年の大規模組織改編で制作体制を再編したフジテレビが、次の一手として35歳以下のクリエイターによる組織横断プロジェクト「WALTZ(ワルツ)」を立ち上げた。ドラマ、情報、バラエティとジャンルの違うメンバーが中心となって形にした第1弾の番組が、『だったらコレもエモくない?』(21日・28日10:25〜 ※関東地区ほか)だ。

「WALTZ」の座長であり番組の総合演出を務めるのは、『新しいカギ』『Aぇ! groupのQ&Aぇ!』と、若い世代の支持を集める番組を手がける田中良樹氏。新たな座組での制作スタイルに感じたメリットや、再生・改革を進めるフジテレビにおけるプロジェクトの意義を聞いた――。

『だったらコレもエモくない?』に出演する(左から)猪狩蒼弥、佐野晶哉、ゆうちゃみ、なえなの、一ノ瀬美空、伊集院光、岡部大、三上真奈アナ (C)フジテレビ

○「これからのフジテレビを熱く語っていた人たち」が集結

フジテレビは昨年7月、一連の事案を受けて編成・バラエティ部門を解体する大規模な組織改編を実施。制作部門を、第1スタジオ(ドラマ・映画)、第2スタジオ(情報・バラエティ)、第3スタジオ(同)に再編し、従来の担当ジャンルの垣根を越えた様々なプロジェクトが立ち上がった。

その中の一つが「WALTZ」。「35歳以下の制作チームでコンテンツを作る」というミッションのもと座長に任命された田中氏は、第1〜3スタジオから均等に2人ずつ選出するメンバー構成とした。

人選の基準は、「成り立ちの経緯として必ずしもポジティブではない部分があるからこそ、会社のこれからをポジティブに考えていくプロジェクトにしたほうがいいと考えて、日常の雑談の中で、自分よりも会社を“主語”にして、これからのフジテレビについて熱く語っていた人たちを集めました」(田中氏、以下同)

集結したのは、第1スタジオから宮崎暖氏(プロデューサー/『明日はもっと、いい日になる』など)と佐藤孝樹氏(プロデューサー/映画『爆弾』『口に関するアンケート』など)、第2スタジオから佐藤良賢氏(ディレクター/『Mr.サンデー』『遺影はコレでお願いします』など)と関口実佑氏(ディレクター/『サン!シャイン』など)、そして第3スタジオから田中氏(総合演出)と飛田将斗氏(演出/『新しいカギ』『AI実験バラエティ シンギュラ』など)という6人だ。

おのずと面識のある人を選んでいったが、唯一、直接会話したことがなかったのは、関口氏。彼女は「信頼を失ったフジテレビの内側でカメラを回したい」という思いで制作したセルフドキュメンタリー『当事者たち。 〜フジテレビ入社4年目の記録〜』を手掛けた人物で、「会社を主語に語る」象徴的な人選と言える。

「WALTZ」ロゴも制作 (C)フジテレビ

○最初に決めたルールは「地に足がついたもの」

こうして集まったメンバーで番組作りを進めるにあたって最初に決めたルールは、「尖ったものを第一にせず、地に足がついたもの」。

「他のプロジェクトのメンバーに比べて年次が低い中で、“尖ったもの”が求められているかもしれない。ただ、これまでにない新規性はもちろんありながらも、“若さ”を言い訳にせず、会社を担っていくいい時間帯(=ゴールデン・プライム帯)を目指せるものをしっかり作っていこうという話をしました」

週1〜2回ペースで打ち合わせを重ね、第1弾として発表した企画が、『だったらコレもエモくない?』。いま思い返すとついつい笑ってしまうが、当時は本気で日本を揺るがした社会現象をドラマ化し、当時を生きた芸能人が令和の芸能人たちにそのエモさをプレゼンするという番組だ。

意識したのは、「WALTZ」の名刺代わりになる番組で、情報セクションが持つニュースアーカイブを交えながらドラマを作り、スタジオバラエティとしてそれを見るという構造に。「誰が見てもドラマ、情報、バラエティという3つの分野が絡み合っていると分かるものにしました」といい、総合演出として各要素が均等に3分の1となることを心がけた。

例えばドラマにおいては、制作会社のイーストが参加し、“再現VTR”ではない本格的なクオリティに仕上げることで、他のジャンルとのバランスを確保。「世代間ギャップ」を楽しむ番組が近年増えている中、「本格ドラマ」という切り口で独自性も生んだ。

午前帯の関東ローカル番組としてはかなり予算をかけているのではないかと想像するが、「1本を1日で撮って、ロケ場所も工夫して費用をかけず、美術チームもコストを抑えるなど、いろんな工夫をしているので、そこまで制作費はかかっていないんです」と明かす。

一方、情報番組が持つアーカイブ映像をバラエティで使用する際は、“笑い”が目的になると捉えられ、許可のハードルが高いという。だが今回は、企画の立ち上げから情報の制作者が入ることで意図が明確に伝わり、使いやすくなるというメリットがあった。

●若い世代に「テレビって面白いな」と感じてもらいたい
21日放送の1週目で取り上げたのは、2004年を舞台にした「MD(ミニディスク)」。35歳以下のチームである「WALTZ」が制作するからには、昔世代の基準を「昭和」や「平成初期のバブル期」ではなく「2000年代前半」にすることで、同系統の番組よりも年齢ギャップを縮め、“エモさ”を追求した。

ドラマパートで描かれたのは、男子生徒(大西利空)がオリジナルのプレイリストのMDを作って、女子生徒(莉子)に思いを伝えるというストーリー。一般アンケートでMDにまつわるエピソードを募集して脚本化を進めた。

そして28日放送の2週目に登場するのが、1999年を舞台にした「ノストラダムスの大予言」。「番組を次につなげるために、幅広い題材で展開できるということを見せたいという議論の末に、MDの青春とは対極的なものを選びました」と狙いを明かす。

『新しいカギ』で多くの生徒たちに接し、次世代に向けたコンテンツ作りに常に取り組んでいる田中氏。その意識は、スタジオのキャスティングにも表れている。

「これまでの番組だと、ベテランがいてZ世代がいじられる構図が多かったと思うのですが、今回は若い5人を画面の中心に置いて、岡部(大)さんや伊集院(光)さんが謙そんしながら伺いにくる、みたいな構造にしています。若い世代に“テレビって面白いな”と感じてもらいたいという思いは、このプロジェクトにもあります」

(C)フジテレビ

○遠慮なく意見をぶつけ合う場に

ジャンル混成プロジェクトの肝は、完成形だけでなく途中の議論にもある。全体の編集を進めるにあたって、ドラマから「あそこは切らないでくれ」、情報から「こういうやり方でやったほうがいい」など要望が出てくると、「結構遠慮なくディスカッションしました」と意見をぶつけ合った。その結果、「ドラマや情報がこういう考え方で作ってるのか、というのも分かってきて、従来のこうしたプロジェクトよりも相互理解が進み、より“一緒に作った”感覚があります」と手応えをつかんだという。

互いの現場を見学するのも、新鮮な体験に。「バラエティの僕と飛田がドラマの現場に行って“全然違うんですね!”と驚いたり、バラエティのスタジオでドラマの宮崎や情報の佐藤が目をキラキラさせながら見てくれたり、その感じも素敵だなと思いました」と、リスペクトが深まる機会にもなったようだ。

制作スタイルが違えば、メンバーのスケジュール調整もひと苦労。ドラマは、連ドラが入るとなかなか時間が取れず、情報は急な事件・事故が発生してやむを得ず会議をキャンセルすることがあったのに対し、「バラエティは僕らの年次だとある程度自分の裁量でスケジュールが立てられるので、飛田が“バラエティ、めちゃめちゃ暇みたいですね”と言いながら会議室に2人しかいない時もありました(笑)」と振り返った。

●誰もが「一度は会社に残るか、出るかを考えた」
談笑する猪狩蒼弥(左)と佐野晶哉 (C)フジテレビ

今後の展開としては、現在5〜6本の企画が進行中。第1弾は「WALTZ」として象徴的な番組を発信するために「3ジャンル均等」にこだわったが、「今進めているのは、ドラマ出身でめちゃくちゃバラエティっぽい企画を出したり、バラエティや情報出身から“こんなドラマってどう?”という案が出たり、自分の普段の属性を意識せずにアイデアを出し合っています」と、より本質的にジャンルの垣根を取っ払ったスタイルになっていくようだ。

一連の事案を経て、フジテレビ社員の制作者たちは「一度は会社に残るか、出るかを考えたと思います」というが、3つのスタジオ体制になって垣根を越えたコンテンツを作る道筋ができたことで、「“いろんなことができるんだ”という気持ちになったんです」と空気の変化を語る田中氏。現在放送中の連続ドラマ『東京P.D. 警視庁広報2係』を、ドラマセクションではない第3スタジオのプロデューサーが作っているのも、一つの事例と言える。

この変化によって、「辞める/辞めないではなく、もう一つの選択肢が作れるチャンスだと思うんです。もしかしたら、WALTZがチームとして大きくなって、半分会社を飛び出て外と組むという可能性もゼロではないし、それができる会社になっていきそうな気がしています。僕らがそれを証明できてもいいし、他のチームで自発的に発生してもいいと思うので、そういうロールモデルを作っていければ」と力を込めた。

田中良樹氏

●田中良樹1991年生まれ、埼玉県出身。早稲田大学卒業後、14年にフジテレビジョン入社。『アウト×デラックス』のADを経て、『BACK TO SCHOOL!』『関ジャニ∞クロニクルF』演出、『さまぁ〜ずの神ギ問』『ホンマでっか!?TV』ディレクターなど、数々のバラエティ番組制作に携わる。2024年に放送された『FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』では同期の杉野幹典氏とともに総合演出を務めた。現在は『新しいカギ』の総合演出、『Aぇ! groupのQ&Aぇ!』の企画・総合演出を担当する。