左から小島慶子さん、岩波明さん、沖田×華さん

写真拡大

2026年2月25日放送のNHK『あさイチ』のテーマは「大人の発達障害 当事者は 職場は 家族は」。当事者の直面するリアルな悩み、支える家族の向き合い方などについて放送します。そこで、発達障害について当事者と精神科医が語り合った『婦人公論』2019年3月12日号の記事を再配信します。*****この特性については、本人はもとより周囲にも知識や情報が届かず、苦悩を抱えたままの当事者も少なくありません。そこで、ADHDであることを公表したエッセイストの小島慶子さんとトリプル発達障害の漫画家・沖田×華さんが、精神科医の岩波明さんを聞き手に、当事者の生きづらさと、発達障害をとりまく現実について語り合った座談会を2回にわたって掲載します。前編に続き、後編では職場でのトラブルやパートナーとの衝突などについても語っていきます(構成=篠藤ゆり 撮影=浦田大作)

【写真】アナウンサー時代、苦悩もあったと語る小島慶子さん

* * * * * * *

<前編よりつづく>

過剰な集中力がもたらすパワーと、切れたときの反動

小島 ただ、興味のあることが掛け算になると、マイナスもプラスになることがあるんです。あるラジオの生番組では、聴取者から電話を受け、ゲストに話を聞き、スタッフから差し込まれるメモをさばき続けるという超マルチタスクでした。でも面白かったし、気が散る特性がプラスに働き、どんなに白熱した議論でも隅々に目配りして収拾できた。お陰さまで、それが評価されて大きな賞もいただけて。(笑)

岩波 過剰集中のスイッチが入ると、パフォーマンスが一気に上がることがありますからね。

沖田 2018年に、7本の連載を抱えていたのですが、過剰集中でサクサク仕事が進むので、「この状態がずっと続いてほしい!」と、楽しくやっていたんです。でも住んでいるマンションの大規模修繕工事が始まると、一気に脳が壊れて、字も書けなくなってしまって。

小島 わかります! 私も大規模修繕の時、恐怖心や過呼吸などのパニック障害の発作が起き、うつ気味にもなり、結局引っ越しました。

岩波 音が一番苦手でしたか?

沖田 音もそうですし、工事の人の気配や部屋の薄暗さなどで、無意識のうちにペースが狂っちゃうんですかね。電話もかけられなくなり、やっとのことでLINEで編集者に「なんか死にたくなったんですけど」と送ったりして(笑)。そんな状態を、当事者の間では《メルトダウン》と呼んでいるようです。

小島 私も2人目の子どもを産んだ後、不安障害を発症して、パニック発作とともに、一時的に字の読み書きができなくなりました。それと肛門から脳にかけて脊髄がムズムズする感じがして、我慢できず部屋の中をぐるぐる歩き回ったりして。

知識はあってもコミュニケーションがとれない

沖田 実は私、中学生の時にアスペルガー症候群の疑いがあると言われたものの、障害のことは大人になるまであまり理解できていなかったんです。小島さんも言っていたように、私も性格の問題だと思っていて。でも、漫画家になる前に看護師として働いていた時、周りとコミュニケーションがまったくとれなくて、これはおかしいなと思い始めたんです。

小島 看護師同士のですか?

沖田 はい。国家試験も受かったし、仕事はできると思っていたんですよ。でもそれは大きな間違いで、看護師というのは、ひとつの団体なんですよね。そのコミュニティの中に入っていかないと仕事ができないということに気がつかなかったんです。

小島 なるほど。知識があってもね。

沖田 看護師のコミュニティからは弾かれるし、医師からは無能扱いされる。ASD特有の、抽象的な指示が理解できないというのは、医療従事者としては致命的でした。

岩波 ケアレスミスも多かったのですか?

沖田 一度覚えたことは、どんなに都合が悪くても、そのやり方でないとだめ。それで、わざとやっていると誤解される。小学校の時に二次障害で特定の場面で話せなくなる場面緘黙症が出たのですが、病院でもそれが出てしまい、師長さんに呼ばれると石みたいに固まって声が出ない。頭の中には言葉もあるし、謝らなきゃいけないとわかっていても、一切喋れなくなるんです。

岩波 重い自閉症の人だと、すべての動作が止まる「カタトニア」という症状が出ることもあります。

沖田 それもありました。でも周りからは、無視している、開き直っていると思われる。この仕事を辞めたら生きていけないと思い込んでいたので、自殺を試みたのですが死にきれず……。でもそこから憑き物が落ちたようになって、自分にとってラクな生き方をしたいと思い、次に選んだ仕事が風俗でした。

小島 風俗もコミュニケーション能力が必要なのでは?

沖田 マニュアル通りにやれば大丈夫です(笑)。お客様をとにかく褒める。そして「いらっしゃいませ。ご指名ありがとうございます〜」と言えばいい。仕事さえすれば感謝されますし、働いている人たちはみんな源氏名なので、本当のことは言わなくてもいいし、なんてラクなんだろうと思いました。

夫にだけは完全に理解してほしい

岩波 パートナーの方との関係は、いかがでしょうか?

小島 私が夫と出会ったのは20代の頃なのですが、当時は携帯電話が出始めたばかりで、電波が安定していなかったんですよ。しょっちゅう電波が切れるのでイライラして、「もういらない、こんな電話!」と道に叩きつけたことがありまして……。すると彼は黙って、壊れた携帯電話を拾ってくれたんです。後で謝ったら、「慶子の落とした携帯電話を拾うのは俺の仕事なんだと思った」と。

沖田 なんじゃそれ。(笑)

小島 親からも、「お前は失敗作」だとか言われていたので、感激しましたね。だから、結婚するならこの人しかいない、と思ったんです。

岩波 病院に来るのは逆のパターンが多く、だいたい妻が夫を連れてきて、「この人は私の言うことを何も聞いてくれない、どこかおかしいに違いない」と言うのです。

小島 身近な人がアスペルガー症候群であることで、心身に不調をきたしてしまう「カサンドラ症候群」が話題になりましたよね。夫は私がADHDだと診断されてから、本をたくさん読んで知識を増やしてくれています。それでも時々、私が口頭での連絡を覚えられないことを忘れて、口頭で予定を伝えてくることがある。悪気がないとわかっていても、なんでわかってくれないのと、ついしつこく怒ってしまうこともあります。

岩波 攻撃的になるのも、ADHDの特性のひとつですが、それを理解し、耐えているわけですね。(笑)

小島 夫にだけは、私を完全に理解してほしいと過剰な要求をしてしまう。彼への甘えでしょうね。ただ、今のところはこんな私を面白いと言ってくれるので、ありがたいです。

料理は夫が担当する理由

沖田 私は言われたことは、言葉通りに受け取ってしまうのですが……。夫と暮らし始めた時、「いてくれるだけでいい」と言うから仕事以外何もしなかったら、ある日「食器くらい洗えよ!」と怒られてびっくりしたことがあります。「何もしなくていいって言ったじゃん!」って。(笑)

岩波 それまでは彼がやっていたのですか?

沖田 はい。料理も全部彼です。「ごちそうさま」と言って食器を放置し、さっさと仕事に戻っていました。ある日、レトルトのカレーを温めてみろと言われてやったら、鍋に入れたお湯の量が少なすぎて、袋が熱で溶けてぐちゃぐちゃに。それ以来、「もうしなくていい」ということで決着しました。

小島 私は料理はできるのですが、2時間くらいかかってしまうんです。ADHDの特性で、とっ散らかってしまい、段取りが組めないんですね。そこである時期から、うちも夫が料理を担当するようになりました。

沖田 私の場合、自分は料理ができないくせに、今日はカレーだと言われていたのにうどんが出てきたりすると、ちゃぶ台をひっくり返してしまう。(笑)

岩波 決まったことが変わることが苦手なんですね。

沖田 はい。でもどう考えても私のほうが悪いので、謝るところから始めようということになりました。

小島 えらい!

沖田 あと私は人間関係でいつもトラブルを起こすので、同業の夫に仕事でやってはいけないことを教えてほしいとお願いしたんです。それをノートに書いて、その通りにしたら、人間関係もうまくいき、仕事も途切れないようになりました。

ニューロダイバーシティという考え方

小島 今私が住んでいるオーストラリアでは発達障害に関してもオープンで、公立のハイスクールでも、発達障害がある子はテストの時間をプラス15分もらえます。それに対して、誰も不平等だとは言いません。目が悪いから眼鏡をかけるのと同じ、という認識なんですね。

岩波 一般に欧米の学校は個別指導が徹底していて、日本みたいに画一的に授業をやるのは明らかに時代遅れになっています。帰国子女の方がよく言うのは、外国の学校にいた時は普通だったのに、日本の学校に入ったとたん不適応になった、と。

小島 学校と専門家の連携ができていて、診断がついたら、その子に合った学習方法を指導してくれるクリニックもある。日本みたいに、親が右往左往することは少ないと思います。

岩波 発達障害の人に聞いてみると、小学校でいじめられた人が3分の1から半分くらいいる。だから学校が抱えるいじめの問題を減らすためにも、こういう分野をしっかり考えていく必要があります。日本社会は画一性を求める傾向が強いので、個性のある人間が排除されるようなところがありますから。

小島 日本は「察する」ことに重きを置く文化だと言われていますよね。夫には「察しろというのは私にとって暴力なんだよ」と言っています。

沖田 察するとか、無理無理! ただ、ほかのことは何もできないけど、自分の専門分野だけは優れているという人も多いですよね。

岩波 歴史に名を残すような偉人たちが、ADHDやASDの人であるケースは多いです。ただ当事者のご家族の中には、うちの子は発達障害だけど、特別な能力もない。だから、褒めるような言い方はしないでくれ、という意見の方もいます。

小島 それはよくわかります。症状は人によって幅がありますし、表れ方も違いますから。最近欧米では、発達障害をニューロダイバーシティ(脳の多様性)と捉えようという動きもあります。だから決して単純化はできない、ということを理解してもらいたいなと思っています。