写真提供:『虎に翼』スピンオフ『山田轟法律事務所』/NHK

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2024年前期にNHKで放送された伊藤沙莉主演・連続テレビ小説『虎に翼』。数々の困難を乗り越え、日本初の女性弁護士となった伊藤演じる主人公・猪爪寅子の奮闘を描いた同作は話題を呼び、橋田賞や放送文化基金賞、ギャラクシー賞を受賞するなど、高い評価を得ました。その『虎に翼』のスピンオフ「山田轟法律事務所」が26年3月20日に放送に。同ドラマについて、脚本を手掛けた吉田恵里香さんにお話をうかがいました。

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スピンオフができるなら、最初の主人公はよねかなって

『虎に翼』のスピンオフドラマについては、本編の脚本執筆時から「できたらいいな」と感じていました。

実際、依頼されれば、ドラマに出てくる登場人物たちの誰でもスピンオフを作ることができるぞ!という気持ちで書いていましたし。

その中でも土居志央梨さん演じる“よね”は、本編の主人公“寅子”といろいろな意味で“対”になる存在と認識していて。そして『虎に翼』自体はリーガルエンターテイメント。

なので、もしスピンオフを手掛けられたなら、最初の主人公はよねかな、とぼんやりと思っていました。

ドラマ放映後には、講演会などを通じて視聴者の方から直接感想をもらうことがあったんですが、「よねと轟の活躍をもっと見たい」とよく言っていただいたという体感があり。

一方で、終戦直後の混乱の中、よねと轟がタッグを組むに至るまでにはこんないきさつがあったんだよ、ということもいずれ描きたかった、というのもあって。

それらの思いが、今回のドラマへと繋がりました。

よねは寅子と違う世界を見ることができた

ドラマでは描くことができなかった、寅子の目に映らなかった問題が、実は本編にもたくさんあったのだと思います。

そして視聴者側からすれば、寅子が知らないことは、視聴者も知らないまま。

たとえば戦後、生きるために体を売らざるをえなかった女性がいた。でも作品の構造上、彼女たちと寅子の生きる世界を交わらせるのは難しく、本編ではほとんど触れることができませんでした。


写真提供:『虎に翼』スピンオフ『山田轟法律事務所』/NHK

『虎に翼』は憲法14条「法の下の平等」をテーマとしたドラマです。

だからこそ、憲法14条にリンクしながらも、本編では取りこぼした部分を今一度描くことに、今回のスピンオフの意味があると思いましたし、自分に課した課題でもありました。

15歳で姉が身売りされ、田舎から逃げてきたよねは、寅子と違う世界を見ることができた存在。そのよねの目線を使うことで、何にスポットライトを当てるべきか? 

あらためて考えながら、今回のストーリーを紡いでいきました。

15分の中で話を組み立てていく本編に対し、72分1本という長尺にしたことで、本編では描けなかった部分まで、丁寧に描くことができたように感じています。

「正しく怒る」ということ

今回のドラマは「正しく怒る」「正しく不機嫌でいる」がキーワードです。

一般的に、怒って声をあげるのって、ネガティブに受け取られがちじゃないですか? 「怒ったら負け」みたいな謎の理屈が、日本の社会には根深く存在している気がしていて。

でも私はそうではなく、怒ることの価値とか、なぜその人が怒ったのかという経緯や構造までもう少し目を向けてもいいと思っていて。怒ることをやたらとネガティブに扱う社会に、どこか暗いものを感じています。

実際、『虎に翼』本編でも、ずっとそのことを主張してきました。


写真提供:『虎に翼』スピンオフ『山田轟法律事務所』/NHK

それでも怒ることに対してのネガティブな感情は、今も社会にしっかりと残存している。

ただし油断すると、怒りは暴走して、独りよがりになったり、誰かを踏みつけることにもなりかねない。

だからこそ、必要なのは「正しい怒り」。

そんなメッセージが伝わるといいな、と思っています。

よねだって怒りたくて怒っているわけじゃない

本編でもスピンオフでも、よねは正しく怒ろうと努めてきたわけですが、でも彼女だって、別に怒りたくていつも怒っていたわけじゃないんです。

立ち上がらざるをえない状況に置かれたから、立ち上がる。怒らざるをえないからこそ、怒る。


写真提供:『虎に翼』スピンオフ『山田轟法律事務所』/NHK

そうした、本編だけで表現しきれなかった、よねが正しく怒るまでの過程。今回のスピンオフは、そこをより深く描いた物語です。

ちなみに土居さんとはスピンオフ決定後にお会いしたのですが、そのタイミングに土居さんが出演されていた別の作品の話をしてしまい、考えてみれば、今回のドラマの話はほとんどしませんでした(笑)。

ただ、土居さんは作品をとても大事にしてくれる方で、「土居さんだったらやってくれるだろう!」という気持ちはあって。

ですので本作に関しては、しっかりとディスカッションした、というより、私の一方的なラブレターというか…。

こんなよねが見たい!土居さんが見たい!という純粋な気持ちで書きました。

視聴者の皆さんへ

スピンオフは、本編そのものが応援をいただいたり、支持を得ていない限り、実現できないものです。しかも『虎に翼』は、本編が終わってから、もう2年近く経っている。

それでも今回実現できたのは、今も作品を支持してくれている皆様のおかげと思っています。本当に感謝の思いしかありません。


吉田恵里香さん。写真提供:『虎に翼』スピンオフ『山田轟法律事務所』/NHK

一方で「日に日に世界が悪くなる」じゃないけど、やっぱり現実の日々にはつらいことがたくさんある。

この先、歴史の教科書が作られたなら、もしかすると今は第三次世界大戦の真っただ中と記されるのかもしれない。それくらい、平和とか平等とかが遠のいていきかねない世の中だからこそ、抗ったり、踏ん張ったりしなければならないんじゃないか、と思っていて。

脚本家として、もちろん面白く楽しんでもらえる作品を書くのが大前提ではあるのですが、それでも私は、今しんどい思いをしてる人に寄り添えたり、声をあげる力になる作品を描けたらいいな、と考えています。エンタメの力を、私は信じているんです。

『虎に翼』については映画化も控えていますが、スピンオフよりさらに先の公開。なので、待っていただいている皆様も、それまでお互いに健康で、心を削りすぎず、それでも声をあげるときにはあげていただいて…。

それでいて、楽しみに待っていただけたら嬉しいです。


提供:『虎に翼』スピンオフ『山田轟法律事務所』/NHK