森保監督が“父親にも似たような心境”でまなざしを向ける。“教え子”が水戸の歴史的勝利に1Aで貢献。これからも夢や希望を与える選手に
仲間を信じて出したパスが、見事な先制点につながった。
J1百年構想リーグEAST第3節・水戸vs.千葉の23分、「(鳥海)芳樹君と目が合った」仙波大志が相手最終ラインの背後を突くロングフィードを通すと、そのボールに反応した鳥海が左足で決めた。
ところが、無情にもオフサイドのホイッスルが鳴り響いたケーズデンキスタジアム水戸。その直後だった。ゴールネットを揺らした鳥海がオフサイドポジションだったのか、VARが介入。水戸にとっては開幕3試合目で巡ってきたクラブ史上初のVAR介入にスタジアムの観衆がどよめくなか、結果的に鳥海のゴールは認められた。高精度のロングフィードで先制点を演出した仙波が、ゴールシーンをこう振り返る。
ダブルボランチの名バディである大崎航詩が「大志は1本のパスで決定機を作れる選手」と一目置く実力を存分に発揮した会心のアシスト。こうして気持ちも乗った仙波は29分、千葉の選手が連続して身体を寄せてくるなかでも、前を向いて相手をかわしながら前進し、スタンドの観衆を沸かせた。「前に推進力を発揮していくことは自分の持ち味」と仙波は言う。
ところがチームは31分に左サイドを攻略される形から失点。1−1のタイスコアにもつれ込んだ試合は、後半の45分に勝負の行方が委ねられた。
拮抗した試合展開の中で迎えた66分、CBのフォファナ・マリックが最終ラインを飛び出して前でボールを奪おうとすると、マリックが空けたスペースを仙波がすかさずカバーに回った。
前節の町田戦で26年初得点をマークし、千葉戦も1アシストを記録した仙波は、攻撃面がクローズアップされがちだが、守備面での貢献も見逃せない。「試合に勝つためにプレーすることは当たり前ですし、失点をしないためにも、そういう気付きは大事なことだと思います」。仙波はそう言って胸を張った。
1点勝負の様相を呈した最終盤の81分、仙波は2枚代えの一枠として“お役御免”となった。なお仙波の活躍を知っている水戸サポーターは、ベンチに引き上げる背番号19に万雷の拍手を捧げた。
結局、1−1のままタイムアップを迎えた試合はPK戦に突入。両チームにとって、2戦連続でのPK戦は、最終的にホームチームに軍配が上がった。「マジで勝ってくれ」とベンチから勝利を願った仙波は、5番手のキッカーを務めた板倉健太のPKを冷静に見守っていたという。
「板倉は山梨学院高でPKを蹴っていたのも知っていたので、板倉のPKは信頼しています」とは仙波の言葉だ。
PK戦負けを含む開幕2連敗スタートだった水戸にとっては、待望の百年構想リーグ初勝利。そのため、水戸の小島耕社長は「このまま1つも勝てないんじゃないか...という不安があったなかでも、こうして1つ勝てたことでクラブの雰囲気がもっと良くなる」と安堵していた。
ちなみに、この日の初勝利は、昨季のJ2最終節で勝って優勝を決めた時以来となる勝ち星だった。仙波は言う。
「前回の勝利は優勝を決めた試合でしたし、僕の中でケーズデンキスタジアム水戸はとても良いスタジアム。そのスタジアムでJ1の水戸として初勝利できたことはとても嬉しいです」
J1の水戸として新たな歴史の1ページを刻んだこの日、ケーズデンキスタジアム水戸には日本代表の森保一監督が視察に訪れていた。森保監督にとって、仙波は広島の監督を務めていた際、ユースの一員として練習参加していた“教え子”と言っていい1人。自身の視察試合で1アシストをマークする働きに、森保監督はこう言って目を細めた。
