ルフィ事件の藤田聖也被告

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 2023年1月、東京都狛江市の住宅に駆けつけた調布警察署の署員が目にしたのは、凄惨な暴力の痕跡が刻まれた90歳女性の遺体だった。女性は両手首を結束バンドのようなもので縛られ、頭部から血を流して倒れていた。司法解剖の結果、全身に打撲の跡が確認され、左肘は骨折、左腕は皮膚の一部が剥がれていた。殴られただけでなく足で踏みつけられていたことも判明した。(全2回の第1回:一部敬称略)

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 家の中では引き出しの中身が散乱しており、複数の犯人が強盗目的で侵入したことは明らかだった。ただでさえ強盗殺人は許しがたい凶悪事件だが、狛江市の犯行は文字通り鬼畜の所業。高齢女性に対する残虐極まりない暴力に国民の怒りが爆発した。

ルフィ事件の藤田聖也被告

 実は千葉県警からの情報提供を受けて、調布署員は女性の自宅を訪れていた。千葉県警は大網白里町の強盗致傷事件で自衛官の男を逮捕すると、携帯電話に狛江市の住所が記録されていることを把握した。狛江市の強盗致死事件と大網白里町の強盗致傷事件における“点と線”がつながったことで、“ルフィ”広域強盗事件の全容が解明されていく。

 2月5日、“ルフィ”事件で特殊詐欺グループの幹部だった藤田聖也被告の裁判が東京地裁で行われ、検察は「社会に大きな不安と恐怖を与えた、過去に例のない凶悪で重大な事件」と断罪。無期懲役を求刑した。

 藤田被告は仲間と共謀して1都3県で7件の強盗事件に関与し、約1億円を強奪。被害者は死者1人、負傷者5人にのぼった。

「闇バイト」を利用した強盗事件の裁判や逮捕が相次いでいる。2月9日、強盗の実行役を担い、強盗致傷などの罪に問われていた26歳の男性被告に対し、埼玉地裁は懲役14年の判決を下した。

「闇バイト」の非道な暴力

 被告は他の男たちと共謀し、24年9月と10月に発生した2件の強盗事件に実行役として関与。男女2人にケガを負わせた。判決では個人情報を安易に指示役に送ったことや、警察に相談しなかったこと、そして報酬ほしさに強盗事件に関わったことが厳しく非難された。

 首都圏で闇バイトによる強盗が相次いだ事件をめぐっては、警視庁などによる合同捜査本部が2月6日、無職で20代の男4人を強盗致死と住居侵入の疑いで再逮捕したと発表した。

 2024年10月、男たちは横浜市青葉区の住宅で工具を使い、窓ガラスを割って侵入した。住人の70代男性に対して指示役が「暴力を振るえ」と命じると、男たちは顔や上半身を殴打。次第に男性は動かなくなったという。

 遺体で発見された際、男性は手と足を縛られ、口にテープを貼られていた。住宅からは現金約17万円やネックレスなどが奪われた。

 なぜ、凶悪非道な「闇バイト」による事件が全国各地で相次ぐようになってしまったのか──。その疑問に答えたのが『闇バイトの歴史「名前のない犯罪」の系譜』(藤原良著・太田出版)だ。

 著者の藤原氏は長年、反社会的勢力の取材を積み重ね、月刊誌などで多数の記事を執筆してきた。『山口組対山口組』、『三つの山口組』、『M資金』(いずれも太田出版)といった過去の著作でも一貫して、いわゆる“アウトロー”のリアルな生態を描き出してきた。

「闇の職業安定所」

 なぜ「闇バイト」による凶悪犯罪が横行しているのか取材を依頼すると、藤原氏は「2007年に名古屋市で発生した『闇サイト殺人事件』について、改めて検証する必要があると思います」と言う。

 藤原氏の指摘を紹介する前に、闇サイト殺人事件とはどのような犯罪だったのか、振り返っておきたい。担当記者が言う。

「この事件で逮捕されたのは神田司・元死刑囚と、堀慶未・死刑囚、川岸健治・受刑者の合計3人でした。神田は2015年に死刑が執行されています。堀は『闇サイト殺人事件』では無期懲役でしたが、その後にパチンコ店の夫婦を殺害した強盗殺人事件と、69歳女性の首を絞めてケガを負わせた強盗殺人未遂事件の関与が発覚し、2019年に死刑が確定しました。川岸は2011年に無期懲役が確定しています」

 3人はネット掲示板サイト「闇の職業安定所」で知り合い、詐欺や空き巣など何らかの犯罪行為で金銭を手に入れようと合意した。

「下見をしたりしましたがうまくいかず、3人は若い女性を拉致して金銭を奪うことを決めます。07年8月に名古屋市内の路上で帰宅途中だった31歳の女性会社員を拉致。手錠をかけて口を粘着テープで塞ぎ車の中に監禁しました。約6万2000円とキャッシュカードとハンドバッグを強奪し、カードの暗証番号を教えるよう女性に迫りました。しかし女性は拒否。そこで堀が包丁で脅します」(同・記者)

嘘だった暗証番号

 だが女性は嘘の番号を教えた。神田と堀は暗証番号を手に入れたと判断し、殺害を決意する。女性に乱暴しようとした川岸を制止し、堀が金槌で女性を殴打したり、堀と神田がロープで首を締めたりして女性を殺害した。直接の死因は窒息死だった。

 男たちは女性の遺体を山林に遺棄。その後、預金を引き出そうとした。ところが暗証番号が合致しない。女性が伝えた嘘の番号だけでなく、誕生日なども入力してみたが、結果は同じだった。

「3人は『再び女性を拉致し、暗証番号を聞き出した上で殺害する』ことを決め、解散します。しかし川岸は死刑になることを恐れて愛知県警に電話をかけ、『女性を拉致して金を奪い、遺体は遺棄した』と自首しました。愛知県警が川岸の身柄を確保して簡単な事情聴取を行い、遺棄現場に向かうと女性の遺体が発見されたのです」(同・記者)

 その後、県警は川岸に堀へメールを送信させるなど捜査に協力させ、川岸、堀、神田の3人を強盗殺人と死体遺棄の容疑で逮捕した。

 2022年から23年にかけて全国各地で発生した“ルフィ”広域強盗事件では、特に22年10月に狛江市で発生した強盗殺人事件が、そのあまりにも残虐な犯行で注目を集めた。

集団心理の恐怖

「実行役の男たちは90歳の女性に対して情け容赦のない暴行を振るいました。女性の全身に打撲の跡が確認されたほか、左肘が骨折し、左腕は皮膚の一部が剥がれていたのです。東京地裁では“ルフィ”事件で特殊詐欺グループの幹部だった藤田聖也被告の裁判が続いています。今年2月5日には検察側が『社会に大きな不安と恐怖を与えた、過去に例のない凶悪で重大な事件』と無期懲役を求刑しました」(同・記者)

 このようにして闇サイト殺人事件と“ルフィ”広域強盗事件など闇バイトによる強盗事件を振り返ってみると、「インターネットを利用して面識のない人間が集まり」、「極めて残虐な暴行に及ぶことがある」という共通点があることに気づく。

 藤原氏は「注目すべきポイントの一つに、『集団になると、どんな残虐なことでも可能になる』という人間心理があります」と言う。

「最も分かりやすい例が暴力団でしょう。一人なら怖じ気づいてしまう犯罪や暴力的な行為でも、集団の力を借りると心理的なハードルが一気に下がります。犯人が一人で住宅に侵入した場合、住人と遭遇すると暴力を振るうより逃げるケースが多いはずです。ところが、一人なら逃げるような人間でも3人や5人の犯行グループを作ると、まさに“数を頼んで”残虐な暴力を振るってしまうのです」(同・藤原氏)

リアルとネットの違い

 未成年の非行グループから軍隊まで、共通した人間心理を挙げることは可能だろう。ナチスドイツによるユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)を思い浮かべた方もいるかもしれない。

 犯罪グループに集団心理が働いてしまうにしても、インターネットを介して出会うと“残虐性”が加速する傾向が強い、と藤原氏は指摘する。

 なぜ残虐性が加速するのか、第2回【「犯罪経験に乏しい素人だからこそ歯止めがきかなかった」 ルフィ事件の実行犯が「90歳の被害女性をバールで殴る」異様かつ凄惨な暴力に手を染めた理由】では、同じ犯罪者グループでも出会いが“リアル”と“バーチャル”では異なる心理状態になる背景をお伝えする──。

デイリー新潮編集部