御徒町駅近くの強奪現場

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 上野に羽田、香港と相次いだ巨額強盗事件には、やはり“内通者”がいた。まだまだ謎の多い事件だが、金(きん)の取引に関して運搬されていた現金が狙われたとみて間違いあるまい。背景を読み解くカギは、上野・御徒町(おかちまち)周辺でうごめく金密輸グループとその拠点の存在である。

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【写真を見る】密輸グループの拠点も近くにあるという御徒町の強奪現場

 一連の事件の幕が開いた1月29日は奇しくも、金1グラムあたりの店頭小売価格が3万248円まで上昇し、史上最高値を記録していた。

 東京の御徒町一帯は日本有数の宝飾問屋街で、数多くのジュエリーショップが軒を連ねる。そのうちの一軒の店長に聞くと、

「あの日は、仲間と“ひょっとしたら4万円台もあるんじゃないの”なんて話していたんですよ。まさか、夜になってあんな事件が起きるとはねえ」

御徒町駅近くの強奪現場

 午後9時半、御徒町至近の上野の路上で4億2300万円が強奪され、襲撃犯は車で逃げる途中にひき逃げ事故を起こして車を乗り捨てている。30日未明の羽田空港では1億9000万円の強盗未遂。そして同日午前9時50分ごろ(現地時間)、香港中心部の上環(ションワン)で5100万円が奪われたのだった。

「これらの現金はすべて金の取引に関係しているとみられています。ですが、羽田から香港に運ばれた、あるいは運ばれようとしていた現金が、どこでどのような取引を経たものかについては、判然としません」

 と、社会部記者。

「警察に対し、羽田の被害者は“現金は金を売却して得た。毎日のように日本円を香港に運んでいる”と言っています。上野の被害者も“日本円を香港に運び、両替する仕事をしていた”と話す一方で、“誰のものかは言いたくない”と口にしていますから、誰もが、現金はいわくつきなのではないかと勘繰りますよね」(同)

 疑いはすぐに“確信”へと変わった。

「31日、香港警察が、日本人二人から5100万円を奪ったとして男女6人を強盗容疑で逮捕しました。起訴されて2月2日の初公判に出た4人のうち、3人が日本人男性でした」(同)

上野に金密輸グループの一大拠点が

 3被告は無職の下村桂吾(23)と山口将人(28)、会社員の鈴木悠介(27)で、

「被害を訴えた日本人二人のうちの一人が鈴木被告です。香港警察は、彼が現金運搬情報を犯人側に漏らしていた“内通者”だったと明かしました。羽田の強奪未遂現場にいた鈴木被告はそのまま香港へ飛んでいた。内通者がいるのですから、ピンポイントの襲撃も可能なわけですよね」(前出の記者)

 鈴木被告は、上野から羽田、香港と続く強盗の連鎖すべてに関与していたのか。

「警察は、鈴木も上野の事件になんらかの形で関与していた可能性があるとみています。そして一連の事件は、現金が香港に運ばれている点や、上野も羽田も催涙スプレーで襲うという同じ手口である点から、同一グループが別々の実行役を立てたとみています。襲撃犯の車が暴力団関係者の名義だった事実と併せて捜査中です」

 先のジュエリーショップ店長が声を潜めて明かす。

「内通者が分かったのはよかったけど、日本国内では誰一人として逮捕されてないし、事件解決は道半ば、いや、そこにも至ってないでしょ。この数年、組合関係者のあいだでも問題になっているのですが、金の価格が高騰する中、密輸などで不正に利ザヤを得ている連中がいる。実を言うと、この界隈には“金密輸グループ”の一大拠点があるんです」

 この一大拠点に関する情報は本誌(「週刊新潮」)の「コンフィデンシャル」欄で複数回扱ってきた。あらためて、金密輸グループの実態をご紹介しよう。

1日に50キロ以上

 一大拠点とされる店舗は、御徒町のジュエリーショップが立ち並ぶ一角にひっそりとたたずんでいる。木を隠すなら森の中との言葉通りだ。ショーケースに宝石の類いはほとんど陳列されていない。その代わりに、横付けしたワンボックスカーから重そうなバッグを運ぶ男たちが頻繁に出入りしている……。

 経営者は40代の中国人男性。警視庁から数年来マークされている人物である。

 この中国人経営者は過去、盗品等有償譲り受け容疑と組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の疑いで逮捕され、不起訴となった経歴がある。金貨や金地金などを盗品と知りながら買い取ったとの容疑だが、不起訴の理由は不明だ。

 で、彼は一体どんなことをしているのか。

 警視庁の幹部によれば、

「金の価格は世界共通です。課税対象にしているのは日本や韓国など数カ国のみなので、密輸した金を日本国内で買い取り業者に消費税10%込みの価格で転売すれば、その分が利ザヤとなる。これで荒稼ぎしているのが、中国人経営者の金密輸グループなのです」

 同グループは中国人犯罪組織内でも最大勢力とのこと。その手口を本誌記事から引くと、

「グルになった香港などの旅行会社が“これを持って行けばツアー代金を割引する”と観光客を誘い、銀メッキで偽装した金のアクセサリーなどを日本に密輸させる」(同)

 空港に着いた観光客から、中国人経営者の部下が金を回収し、

「中国人観光客らが持ち込んだアクセサリーや金粉などを延べ板状に“焼き直し”してから、貴金属買い取り業者に転売していた。その大口の転売先が、同じ御徒町にある業者でした」(同)

 金の“仕入先”である旅行会社などに消費税10%の半分を手数料として渡しても、ぼろ儲けだという。店舗に持ち込まれる密輸された金は1日50キロ以上で、1日の儲けは当時のレートでゆうに2000万円近くにもなる計算だ。

日本の暴力団が潤っている側面も

 中国人経営者はその資金で都内の不動産を物色し、中国人観光客向けの白タク営業まで始めた。しかもその車はベンツという豪華版。

 先の警視庁幹部が語る。

「今回の事件は、こうした“土壌”がある御徒町の近くで起きました。中国人犯罪組織と関係を保っている日本の暴力団が、金の密輸で潤っているとの側面もある。その恩恵に与れなかった暴力団や、それに準ずる海外の組織が犯行を企てた可能性も視野に入れるべきでしょう」

 金の密輸、脱税で得た“裏のカネ”を毎日のように海外へ運んでいたのだから、いつ何時、情報を入手した組織から狙われてもおかしくない状況だったろう。日本と香港をつなぐ犯罪捜査は緒に就いたばかりだ。

「週刊新潮」2026年2月12日号 掲載