福山雅治&堤真一、大泉洋&松田龍平、大沢たかお&玉木宏…男たちが錯綜する「冬のサスペンス映画」5選【厳冬の映画案内】
冬らしい寒さが続き、ついつい笑顔が少なくなってしまう今日この頃。本来の冬とはつらく厳しい季節であることを実感する時期だろう。日本映画の世界では、男たちが錯そうする傑作サスペンスは冬が登場する作品に多い。今こそ観たい「冬のサスペンス映画」を、映画解説者の稲森浩介氏が紹介する。
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真実を追究する苦悩
〇「容疑者xの献身」(2008年)
東野圭吾のミステリー、「ガリレオ」シリーズの映画化作品。一話完結のドラマ版「ガリレオ」(フジテレビ)第1シーズンは、本作公開の前年に放送されている。主人公の天才物理学者・湯川学(福山雅治)が解決した時の決め台詞とポーズは、子供も真似するほどの人気だった。

しかし軽妙なイメージのドラマと違い、映画版は重いテーマを提示している。
12月のある夜、中学生の娘を持つ花岡泰子(松雪泰子)の家に、元夫が押しかけ暴力を振るう。泰子と娘は耐えきれずに、思わず元夫を殺してしまった。隣に住む数学教師の石神(堤真一)は、2人を救うために様々な工作をする。担当刑事・内海薫(柴咲コウ)は、湯川に相談するが、湯川と石神は大学時代の同級生だった。
湯川が真相に近づいた時、石神と雪山に登るシーンがある。遭難を覚悟するほど激しい吹雪の中、石神は湯川を見つめ何かを伝えたい表情をする。それは「俺の心が、お前にはわかるか」と訴えているようだ。
堤真一の巧みな演技
映画版の成功の一つは、この石神に堤真一を起用したことだろう。当初「かっこよすぎる」という声もあったそうだが、くたびれたコートにマフラーを巻き付けて猫背で歩く姿は、いかにもさえない男だ。堤は人生にはもう希望を持てないが、何かを残したいと思う人物を巧みに演じた。
福山はテレビ版と違う湯川の役に、「現場に入ってひとり逡巡していた」という。そして、真実を追求することが「答えを出せないまま投げかけとして終わっていることに気づき、映画でやる意味が理解できた」と語っている(「キネマ旬報」2008年10月下旬号)。
ラストに泣いた人も多いと聞く。東野圭吾の映像化作品の中で最高作との評価にも納得だ。
大泉洋と松田龍平のバディ映画
〇「探偵はBARにいる」(2011年)
お互いのモノマネをするほど、福山雅治と大泉洋の仲の良さは有名だ。ドラマ(TBS)の映画版として昨年公開された「映画ラストマン-FIRST LOVE-」は、福山は全盲のFBI捜査官、大泉は刑事というバディもの。だが大泉のバディものといったら、外せないのがこの作品だ。
北海道・ススキノにあるバーを連絡先にする探偵(大泉洋)と相棒兼運転手の高田(松田龍平)。そこに女性から依頼の電話がかかってきた。気軽に引き受けた探偵は、翌日何者かに拉致されて、雪の中に生き埋めにされてしまう。何とか脱出したが、高田と不可解な事件に巻き込まれていく。
物語の中心となるのが、実業家の夫(西田敏行)を惨殺された沙織(小雪)だ。高級クラブ経営者の沙織は、やがて裏世界のボスの息子と再婚することを決意する。結婚式の小雪の演技に大注目だ。
大泉が作る絶妙なバランス
テンポの速いアクションシーンが心地よい。2人は雪に覆われたススキノの街中や、降りしきる雪の小樽港などをとにかく走り回る。得体の知れない団体の建物に乗り込んだのはいいが、絶体絶命となり雪原をスノーモービルで逃げ回るのも見ものだ。
ところで、ハードボイルドというと、レイモンド・チャンドラーの小説に出てくるフィリップ・マーロウが有名だ。今作の探偵もマーロウと同じくギムレットを飲む。しかし、演じるのは大泉洋だ。大泉が演じることによって、東映伝統のコミカルなバディ物「トラック野郎シリーズ」(1975〜1979年)の要素が入り、絶妙なバランスの作品に仕上がっている。
大好評だった本作は、続けて「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」(2013年)、「探偵はBARにいる3」(2017年)と制作された。こちらもお勧めだ。
漫画を模倣する一家惨殺事件
〇「キャラクター」(2021年)
菅田将暉主演のダークサスペンス。「SEKAI NO OWARI」のフロントマン、Fukaseの映画初出演が大きな話題になった。
ある初冬の夜、漫画家のアシスタント・山城圭吾(菅田将暉)は、訪れた住宅街で一家殺人の現場と犯人・両角(Fukase)を目撃する。警察には犯人のことを告げずに、両角をモデルにした漫画を発表すると大ヒットとなり、恋人(高畑充希)と結婚し夢を実現するのだが……。
両角は、山城の作品をそっくり模倣した殺人を実行するようになる。最初は乗せてもらった車の中で一家4人を惨殺。冷たいみぞれが降る中、谷底の車の引き上げを見つめる刑事たち(小栗旬、中村獅童)がいる。画面全体が冬を象徴するブルーやグレーのトーンで統一され、作品の重さと冷たさが心に伝わってくるようだ。
この後両角は山城の前に現れ、こう言う。「先生が描いたものを、リアルに再現しておきましたから」と。話し終えた後に首をカクカクさせる仕草、妙に優しげな喋り方、人を殺す前の虚無的な目、サイコパスとはこういうものかと思わせる不気味さだ。これほどまでに殺人鬼に成りきれるFukaseに驚く。
それに対して菅田は「山城は、よくある映画の主人公っぽくない主人公。地味だし、自分から派手な動きをしない。今回は、引き算の芝居に徹底しようと思ってやってたんですよ」と語っている(「映画ナタリー」2021年6月8日)。菅田が作品と人物を、自分の中に取り入れて演じていることがよく分かる言葉だ。
類い稀な才能同士が、奇跡的に出会った作品かもしれない。
一体何が起きたのか?
〇「去年の冬、きみと別れ」(2018年)
芥川賞作家・中村文則の原作を映画化。最後まで真相が読めないストーリーが話題になったサスペンス映画だ。
ルポライター耶雲恭介(岩田剛典)は松田百合子(山本美月)との結婚を控えながら、目の見えない女性が焼死した未解決事件を追っている。その事件の元容疑者は著名な写真家・木原坂雄大(斎藤工)。恭介が木原坂に近づき真相を追う一方、木原坂は美しい百合子に目をつけ、2人をしだいに追い詰めていく……。
現在の舞台は冬ではない。しかし、湖面に雪が降りしきる場面が度々出てくる。これは誰の回想なのか。そしてタイトルの「去年の冬、きみと別れ」とは何のことか。第2章から始まる凝った構成に戸惑いつつ、引き込ませる手際、伏線の張り方は熟達している。原作の魅力を映像に昇華させた脚本の勝利だろう。
最後にモノローグで、「去年の冬、きみと別れ」の後に続く言葉が語られる。それを聞いて、初めてタイトルの意味が理解できるという仕掛けだ。
主人公・耶雲恭介役を演じる岩田剛典は、「三代目 J SOUL BROTHERS」のパフォーマーだが、役者としての評価も高い。今作は、ずっと悩みながら演じたというほど難しかったという。
昨年11月には岩田の主演映画「金髪」が公開された。校則に反抗して金髪にしてきた生徒と対峙する教師役だが、自分がすでにおじさんであることを自覚する姿を好演している。今、最も楽しみな役者のひとりだろう。
雪山の攻防戦
〇「ミッドナイトイーグル」(2007年)
原作者の高嶋哲夫は、日本原子力研究所に勤務していたという異色の経歴の持ち主だ。
元戦場カメラマンの西崎優二(大沢たかお)が偶然撮影したのは、米軍のステルス型戦略爆撃機「ミッドナイト イーグル」だった。北アルプス・見岳沢で消息を絶った同機は、特殊爆弾を搭載していた。西崎は新聞記者の落合(玉木宏)と共に、落下地点の雪山へ向かうが、爆弾を奪おうとする某国の工作員たちに銃で攻撃される。2人は自衛隊員の佐伯(吉田栄作)と共に何とか墜落地点に到達するのだが……。
北アルプスの攻防戦は最大の見せ場だ。雪に覆われたステルス戦闘機を砦に、工作員たちと交わす銃撃戦の臨場感には思わず身を乗り出してしまう。この撮影のためにスタッフ、キャスト共に、雪山での山岳訓練を積み重ねたという。
また、内閣総理大臣(藤竜也)を中心とする安全保障会議の部屋から、西崎たちと交わす映像のやりとりが面白い。果たして自衛隊の特殊部隊は彼らを救出できるのかと緊迫感が高まる中、西崎は総理大臣に驚きの提案をする。
某国を北朝鮮と読めば、現実と符号が一致する。公開当時に、北朝鮮の核問題を話し合う「6カ国協議」が開かれ一時合意したが、アメリカの金融制裁を理由に休会されている。その後の北朝鮮の核への道はご存じだろう。また、最近話題になっている「非核三原則」を想起させるテーマも織り込まれている。
政治サスペンスは、細かい辻褄合わせをすると矛盾が出てくるものだが、映像化不可能と言われた原作の映像化に拍手を送りたい。
稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集
デイリー新潮編集部
