仲野太賀

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豊臣秀長となる主人公・小一郎

 NHK大河ドラマの新作「豊臣兄弟!」(日曜午後8時)が第2回を迎える。後に豊臣秀長となる主人公・小一郎に扮しているのは仲野太賀(32)。やがて豊臣秀吉となる兄・藤吉郎は池松壮亮(35)が演じている。脚本はTBS「半沢直樹」(2013年)の八津弘之氏(54)が書いている。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 小一郎は1540年に生まれた。鉄砲伝来の4年前、キリスト教が伝わる10年前だった。藤吉郎は3歳年上。兄弟は農民出身ながら、武士として出世街道を大驀進する。

仲野太賀

 メガバンクを舞台にした「半沢直樹」とはまるで違う世界。もっとも、同じ八津弘之氏が脚本を書いているのだから、共通項はある。物語の痛快性と意外性、テンポの良さだ。

 第1回後半。尾張国清州を拠点とする織田信長(小栗旬)の足軽・藤吉郎は、コワモテの織田家重臣・柴田勝家(山口馬木也)に盗みの疑いを掛けられる。故郷・同国中村で盗みの過去があることから疑われた。藤吉郎は道徳心に欠けている。おまけに調子がいい。これは怪しまれる。

 勝家の怒りに震え上がった藤吉郎は真犯人探しを約束し、小一郎とともに丹羽長秀(池田鉄洋)邸の厠に張り込む。小一郎が盗人は次に丹羽邸を狙うと睨んだからだ。丹羽はやはり織田家の重臣である。

 2人が丹羽邸を見張ったのは闇夜の晩。そこへ1人の男がやって来た。織田家の食事や家政を預かる台所方の横川甚内(勝村政信)だった。横川は「見回りだ」という。

 いつも横川に食事の余り物を分けてもらっている藤吉郎は平身低頭。少しも疑わなかった。だが、小一郎は不審の目を向ける。

「見回っていたのなら、なぜ、明かりを持っていないのですか?」

 小一郎は藤吉郎より慎重な性格で洞察力も勝っているようだ。横川は実際に敵であり、程なく刀を抜く。現役の農民だった小一郎は腰を抜かさんばかりに驚いた。あわや斬られそうなところで藤吉郎が割って入り、逆に横川を斬り倒した。

 口ばかり達者で頼りにならないように見えた藤吉郎が小一郎を救ったのは痛快だったし、藤吉郎の良き理解者に映った横川が敵だったのは意外だった。善人面をした上司が敵で、最後は半沢直樹が叩きのめす構図と重なり合った。

2人の愉快な掛け合い

 小一郎の存在がなかったら、藤吉郎は盗人の汚名を着せられたまま。一方、腕が立ち、妙に度胸がある藤吉郎がいなかったら、小一郎の命はここまでだった。兄弟での初仕事。この物語は2人で難局に立ち向かうバディものでもある。また2人の掛け合いも愉快でコメディとしても面白い。

 横川は信長暗殺を狙う美濃の大名・斎藤義龍(DAIGO)が放った間者だった。義龍は信長の正室・濃姫の兄で、2人は義兄弟なのだが、激しく敵対していた。なにせ戦国時代。義龍は実父・斎藤道三とも戦い、敗死させている。信長も尾張国の支配権を争った異母弟・織田信行を謀殺したばかりだった。

 藤吉郎が斬り殺した横川の懐には信長の京での足取りを義龍に知らせる書状が入っていた。将軍・足利義輝への謁見のため、信長は上洛していた。義龍の陰謀は信長が先に知っていたため、藤吉郎と小一郎は褒美の対象にならなかったものの、信長のおぼえが良くなったのは確かだった。

 このエピソードの前に小一郎の家族の紹介は済んでいた。どの大河も第1回は主要登場人物の紹介があるため、どうしても進行がスローになりがちだが、それが避けられていた。中村を野盗が襲うエピソードを前半に入れたことがアクセントになり、テンポの良さを感じさせた。

 小一郎の家族はやさしい母・なか(坂井真紀)、気丈な姉・とも(宮澤エマ)、天然気味の妹・あさひ(倉沢杏菜)。あさひは後に徳川家康(松下洸平)の正室になる。

 藤吉郎は盗みを犯し、中村に居られなくなったため、8年前に家を出ていた。小一郎と家族3人は1日1食の貧しい生活を強いられていた。

 それを見越した藤吉郎は小一郎に甘い言葉を並べ、侍になるよう誘う。「おまえを迎えに来たんじゃ。喜べ、ワシの家来にしてやる」。本当に調子がいい。だが、小一郎は平和主義で「争わずに済むなら、それに越したことはない」と考えているから、侍には向きそうにない。

 小一郎が生まれた年は戦国時代の真っ只中。毛利家当主の毛利元就と尼子家当主の尼子晴久が安芸国吉田(広島県安芸高田市)で「吉田郡山城の戦い」を始めたころだった。

 それから時は流れ、第1回の時代設定は1559年だから、小一郎は19歳。中村にいたころから揉め事を解決するのが得意で、のちの豊臣政権でも優れた調整役となる。家康らクセのある外様大名を抱えた豊臣政権にとって、欠かせない存在となる。

 秀吉が1585年に関白となると、秀長は大和国(奈良県)、紀伊国(和歌山県全域と三重県の一部)、和泉国(大阪府南西部)を与えられ、郡山城(同県大和郡山市)の主となった。もちろん秀吉の一番の重臣だった。

 ただし、それまでの兄弟は苦難続き。秀長は秀吉の政務を補佐しただけでなく、長宗我部元親を相手にした同年の「四国攻め」では10万を超える軍勢の総大将を務めた。秀吉の代理だった。

戦国青春グラフティの一面も

 序盤は戦国青春グラフティの一面もある。別の男との結婚が決まった小一郎の片思いの相手・直(白石聖)とはどうなるのか。直は裕福な士豪・坂井喜左衛門(大倉孝二)の娘。身分差と貧富の差で今の小一郎ではどうにもならない。ただし直も小一郎に気があるようだ。一波乱ありそう。

 藤吉郎と寧々(浜辺美波)の恋もある。寧々の父・浅野長勝(宮川一朗太)は織田家の家臣で、なぜか藤吉郎を気に入る。母・ふく(森口瑤子)は理解がある。こちらは本人たち次第だ。

 この物語の小一郎は真面目。デビュー20年目で32歳の仲野は実直な役を得意としてきたから、ハマっている。Vシネマでのヤクザ役を十八番としてきた父・中野英雄(61)とは大違い。面白い親子だ。

 仲野は日本テレビ「初恋の悪魔」(2022年)の警察事務職員・馬淵悠日やNHK連続テレビ小説「虎に翼」(2024年)の夜間大生・佐田優三などでも真面目。また、仲野にはデビュー間もないころから体に哀愁が染みついている。

 どんなに笑っていても奥底に悲しみがある。特に佐田優三がヒロイン・猪爪寅子(伊藤沙莉)を残し、戦地に向かうエピソードは出色だった。背中が泣いていた。

 哀愁はいくら稽古を積んでも簡単には出せない。仲野独特の持ち味だ。常に死と隣り合わせになる戦国の物語では存分に生かされるに違いない。

 池松壮亮は仲野より3歳年上の35歳。仲野と同じく真面目な好青年役が多かったが、今回は口先八丁の人たらし。

「ワシはみんなから好かれたいんじゃ」

 もっとも、池松が演じると、どこか真面目に見える。そこを制作側も狙ったのだろう。だから横川に襲われた小一郎を捨て身で助けたエピソードもすんなり受け入れられた。池松が演じてなかったら、第1回にして藤吉郎は多くの視聴者に嫌われたのではないか。

 仲野の小一郎と名バディになりそう。ちなみに2人は私生活でも仲が良い。

 第1回の視聴率は個人8.2%(世帯13.5%)。昨年の大河「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」の第1回は個人7.3%(世帯12.6%)だったから、上回った。もっとも、高視聴率大河になるかどうかを現時点で判断するのは早計だろう。

 今年は裏番組が精彩を欠いたからだ。日テレ「ウルトラマンDASH2026」が個人7.0%(世帯9.6%)で気を吐いたくらい。既視感のある番組ばかりだった。1か月くらい様子を見ないと視聴率の行方は分からない。

 第1回は番宣も多すぎた。元日放送の「歴史探偵」(木曜午後9時)が豊臣を特集したくらいなら理解の範囲内だが、放送開始直前の「ダーウィンが来た!」(日曜午後7時30分)まで新大河とのコラボだったのには驚いた。

 受信料の支払いを市民に義務付けている有料放送のNHKが、金を取って見せる番組が連続ドラマ小説や大河の宣伝でいいのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部