『ちょっとだけエスパー』©テレビ朝日

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 『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)はちょっとだけわからない。よくできたおもしろいドラマであることはわかる。でもどこに向かっているのかまだわからないのと、どういうドラマなのか説明がちょっとだけしづらい。

参考:『ちょっとだけエスパー』“能力者”がさらに誕生で急展開 向里祐香&新原泰佑も重要人物に

 公式サイトには「会社をクビになり、人生詰んだサラリーマンが“ちょっとだけエスパー”になって世界を救う!」とあり、「SFラブロマンス」とも書いてある。第4話まで終わった時点では、主人公・文太(大泉洋)が「人知れず他者を救うということは己を助けること」だと気づきはじめている。そして、嘘の夫婦を演じている(?)妻・四季(宮粼あおい)とお互いのことを少しずつ知って近づいていく。だが、文太と四季がいい感じになればなるほど、文太に課せられた “人を愛してはならない”というルールが心配になってくる。そんなにくい仕掛けになっている。

 文太は第1話の冒頭で人生に絶望し飛び降り自殺を図った。それは彼のやっているゲームの内容だったが、ゲームが終わっても現実世界はやっぱりしんどい。もともと氷河期世代で、なんとか就職した会社の金を横領したせいでそれまでの人生が終了。家族や社会から見放され、再就職先を探していたところ、謎の会社「ノナマーレ」(「non amare」イタリア語で「愛さない」)への就職が決まる。

 社長の兆(岡田将生)から与えられたミッションは人知れず「世界を救う」こと。でもそれはスマホの充電を制限時間までにゼロにするというようなささやかなものばかりだった。その小さい行為がまわりまわって世界を救う、いわゆるバタフライエフェクトのようなことに文太は加担している。

 文太は青と赤のカプセルを飲んで超能力を得た。その能力は「相手に触れると心の声が聞こえる」というもの。ほんの“ちょっとだけ”の超能力。文太の他にもちょっとだけエスパーたちがいる。どこにでも花を咲かせられる・桜介(ディーン・フジオカ)、念じるとほんのりあったかくできる電磁波をちょっとだけ操れる円寂(高畑淳子)、動物にお願いを聞いてもらえる半蔵(宇野祥平)。彼らと協力して世界を救っていく。第4話のミッションがまたかなりささやかだった。「お風呂の栓を抜いておけ」「人参を食べさせろ」等々……。

 最初『ちょっとだけエスパー』のタイトルとエスパーたちが出てくる話と聞いたときは、エスパーたちが世界を救うために毎回、なんらかのミッションを、ささやかな能力で解決していく1話完結のSFヒューマンドラマなのかと想像していた。だがそうではなかった。毎回のパターンみたいなものはなく、毎回、どこに向かっていくのか予想がつかない。これはドラマとして本来良いことだと思う。

 第4話では四季がまちがって文太のカプセルを飲んで、驚きの能力が発現した。そして、第5話では、ノナマーレチームと別のエスパーチームが現れて、どっちが「ヴィラン」か、超能力バトルがはじまりそうな雰囲気だ。謎の青年・市松(北村匠海)が本格的に参入してきた。

 タイトルや宣伝ビジュアルのイメージだと、どちらかといえば、こういうシンプルな超能力で世界を救うストーリーのイメージであったが、それでは野木亜紀子が脚本を書いている意味はないだろう。やっぱり現代社会でしんどい思いをしている人たちへのまなざしをすくいとってくれることを期待してしまう。文太が就職氷河期世代という設定もあるからなおさらだ。

 題材的にはひとつ、バタフライエフェクトがポイントではあるだろう。野木亜紀子の代表作『MIU404』(TBS系)のルーブ・ゴールドバーグ・マシン(ピタゴラ装置)との親和性も感じ、ファンにはたまらないのではないだろうか。『MIU404』で伊吹(綾野剛)が言っていた「玉突きされて入った俺が、404で志摩(星野源)と組むことになって、ふたりで犯人追っかけて、その一個、一個、一個が全部スイッチで! なんだか人生じゃん! 一個一個、大事にしてえの。諦めたくねえの」みたいなことが、文太たちのささやかな行為で成立していくのだと思う。

 兆が見ている無数の枝分かれ図(ゼーレの生命の樹みたい)が正常だときっと人間はいい方向に進み、異常が起こると人間世界に災いが起こる? つまり、ともすれば悪い方向にもいってしまうこともあるが、文太たちはいいほうに連鎖させるお仕事なのだ。道路工事とか水道工事とかそういうささやかな労働をしている人たちによってライフラインが守られているように。

 それで、文太は「人知れず他者を救うということは己を助けること」という気づきを得る。でもそれを兆がたしなめる言葉が野木ドラマらしい気がちょっとだけした。

「あなたがたはちょっとだけヒーローです。ヒーローといえるほど大した力はない。あくまでちょっとほんのちょっと。ふつうの人間に毛が生えた程度です。吹けば飛ぶような3本の毛が周囲にちやほやされて偉大なヒーローだと勘違いする。名誉欲に溺れた先にあるのは破滅です」

 しんどい世の中で生きてきて、ごくまれに報われることもあるだろう。SNSでやけにバズって時代の語り部みたいになる確率が以前よりもちょっとだけ上がっているような時代だ。そこでヒーローになったように勘違いしてしまってはいけないのだと思う。あるいは誰かを神格化しすぎてもいけないのだと。

 これからの『ちょっとだけエスパー』は未確認因子が増加して、ミッションを増やさないといけなくなるかもしれない。大きな話になっていくのか、それとも、このままずっとささやかな人助けの日々が続くのか。文太のハチと円寂の電気と桜介の花と半蔵の動物と四季の風……などなどが合わさって大きな力になるときがくるのか――。

 これまでの物語で筆者が好きだったのは、線香花火。線香花火にそれぞれ名前がついていて文学的で叙情的で評判がよかった場面だ。線香花火がパチパチと落下していく炎の連鎖はノナマーレにある無数の枝分かれした図のようにも見えた。線香花火の仕組みはどうなっているのかネットで調べてみたら、数年前に線香花火の仕組みの研究のニュースがあった。

「火球を飛び出した液滴が最大8回も連鎖的に分裂しながら描く軌跡が松葉火花を形成することが判明した。通常の固体や液体は1~2回分裂すると安定するが、線香花火では孤立液滴が何世代にもわたって子液滴を作り続ける。線香花火の独特の美しさは、従来知られていた分裂現象とは異なる液滴の連鎖分裂によって生み出されていたことが明らかになったという」(※)

 こういう連鎖分裂とも関係あるのかもしれない。野木亜紀子の書くものは化学や数学の秩序然とした数式の美やロマンがあって、それはすこしひんやりして、そしてあたたかさもある。

 第4話で文太と四季がハチのネックレスとストラップを買ったときのディスプレーも枝になっていて、ビジュアル面でも仕掛けがあるんじゃないかと楽しんでいる。

参照※ https://www.t.u-tokyo.ac.jp/hubfs/shared-old/press/data/setnws_20170214105314409952431139_947388.pdf

(文=木俣冬)