結果を出せる営業マンは、何が違うのか。戸板女子短期大学服飾芸術科の安東徳子教授は「世代にあわせた言葉選びが重要だ。かつては喜ばれた“鉄板の営業トーク”が、顧客によっては喜ばれるどころか、拒絶されているケースさえある」という――。
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sayuri Inoue

■38歳ベテラン社員の悩み

「最近、お客様に言葉が届いていない気がするんです」

38歳のウエディングプランナーAさんは「どうしていいか分からない」といった表情でこう話し始めました。Aさんは都内にある結婚式専用のゲストハウスに勤務して18年になるベテランです。

カップルと一緒に結婚式を作り上げていくのがウエディングプランナーの仕事ですが、もう1つ重要な仕事があります。それは「新規接客」。まだ会場が決まっていないカップルに自社の式場に決めていただくための営業業務です。

Aさんはこれまで月間成約率60%前後を維持しており、営業成績は常に上位でした。しかし、不調に陥ってからは成約率34%まで落ち込む月も出てきました。

結婚式の多様化や少子化、非婚化などを言い訳にしたいところですが、Aさんがそう思えないのは後輩ウエディングプランナーの存在があるからです。入社5年目、25歳の彼女は新規成約率60%前後をクリアしているのです。

「お二人の夢をすべて叶える式を提案できたという自負はあります。でも、なんだか響かないんです」。

■5年前の営業トークが響かなくなった理由

私はホテルやウエディングなどホスピタリティ業界に携わる傍ら、大学や専門学校で30年近く学生たちと接してきました。その中で観察、分析してきた世代価値観の蓄積や、専門分野であるウエディング業界での営業支援、社員教育等の知見を活かし、「無形・高額」商品を扱う業界へのコンサルティングも行っています。対応業種は海外旅行や不動産、生命保険、病院、葬儀などです。

5〜6年前頃からでしょうか。ウエディングだけでなく、特に20〜30代をターゲットにするエステサロンや新婚旅行などのクライアントからも「ベテランの営業マンが不調に陥っている」「今まで通りの営業トークがお客様に響かない」といった声が聞かれるようになりました。

そんな時、私が伝えるのは「ターゲットが変わっていることに気づきましょう」ということです。

2020年、20〜30代人口の中心はミレニアル世代(1981年〜1994年頃生まれ)でした。しかし、2025年現在はミレニアル世代とZ世代(1995年〜2010年頃生まれ)に分かれています。

ウエディングのメインターゲットである20代前半〜30代後半を対象にした分析では、2020年、ミレニアル世代対Z世代の比率は、およそ9:1。それが2025年は4:6にまで変化しています。この年代を対象にしたほかのビジネスも近い数字になるでしょう。

図表=安東徳子作成

生まれた時からスマートフォンやインターネットに囲まれ、日常的にSNSを活用してきた“デジタルネイティブ”であるZ世代の価値観や消費行動は、新しい技術が次々と生まれる中でデジタルに順応しながら育ってきた“デジタルアダプター”であるミレニアル世代とは大きく異なります。

5年前はミレニアル世代向けのトークで通用していましたが、2025年の現在はまず相手がZ世代か、ミレニアル世代かを確認するところから始めなければいけません。

■Z世代に使ってはいけない5つの言葉

Z世代の価値観を考えると、営業トークで使うべきではない言葉があります。代表的なものがこの5つです。

(1)ご要望は全部叶えられます
(2)特別にお値引きします
(3)皆さん、選ばれます
(4)プロにお任せください
(5)〜らしく〜しましょう

一つひとつ見ていきましょう。

1つ目の「ご要望は全部叶えられます」は、なぜNGなのか。

それは不確かな時代に生まれ育ったZ世代は「完璧な商品、完璧な企業など存在しない」という冷静な目を持っているからです。さらに親世代の多くは就職氷河期世代に当たります。努力しても報われないという経験をしてきた親の影響で、「夢みたいな話なんて現実にはない」という感覚を持っていることも背景にあるでしょう。

私はセールスをする上での差別化を「ミレニアル世代にはトップメリット、Z世代にはボトムメリット」と表現しています。つまり、ミレニアル世代にはメリットから、Z世代にはデメリットから伝えるのが効果的だということです。

図表=安東徳子作成

ミレニアル世代のお客様は多少予算をオーバーした提案でも、要望が叶えば満足していただくことが多く、結果的に予算が上がるケースも少なくありませんでした。

しかし、Z世代は違います。

相手への配慮を大切にする彼らは嫌な顔こそ見せませんが、そんな提案をした途端、心の中では「この会社に頼むことはないな」と静かにジャッジしています。

もし、Z世代にウエディングのプランを提案するなら「その予算であれば、ご希望されている3つのうち2つは実現できます」「2時間半の披露宴ですべては難しいので、一緒に考えましょう」とできないことをはっきり伝えるほうが信頼を得られます。

■おトク感よりも“納得感”

私がZ世代を理解するキーワードとして挙げている1つが「正直」です。前述した「完璧な商品などない」という価値観を持つ彼らに対しては、正直であることが前提になります。

そういう意味で、使うべきではない2つ目の言葉は「特別にお値引きします」です。

曖昧な特別感に嘘っぽさを感じ取るだけでなく、自分だけ特別扱いされることを喜びません。当然、誰にでも言っていそうな営業トークやステマ(ステルスマーケティング)などにも拒否反応を示します。これはおトク感よりも自分に合っているか、納得できるかを大事にしていることも理由です。

写真=iStock.com/CHARTCHAI KANTHATHAN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHARTCHAI KANTHATHAN

3つ目の「皆さん、選ばれます」は、実はミレニアル世代には響く言葉でした。例えば披露宴の招待客を40人と考えているカップルに対して、「一生に一度ですので、お呼びしたい方は招待されたほうがいいですよ。他の皆さんもそうされています」と伝え、60人用や80人用の会場も見ていただくのはよくあることでした。

しかし自分らしさを大切にするZ世代は、「みんな」という漠然とした価値基準で動くことや同調圧力を嫌います。「普通は〜です」もNGです。これは「多数派の論理」が通用しなくなったことも大きいでしょう。平成のファッションアイコンといえばキムタクこと木村拓哉さんでしたが、今は共通アイコンも細分化されています。Z世代にとっては「普通って誰の普通?」という感覚です。

Z世代は来店前にしっかり情報収集していることから、希望している40人向けの会場に絞ってご案内したほうが信頼につながります。また、多くの人に選ばれていることを魅力として伝えたいのであれば、具体的な事例を示すことが大切です。そこに共感できれば、納得感を得ることができます。

■「プロに任せたい」とは思っていない

4つ目は「プロにお任せください」です。

売る側は「安心してほしい」「頼ってほしい」という意図でも、Z世代は「上から目線」「自分たちは外された」とさえ感じてしまうことがあります。

自分に関わる大切な事柄は理解、確認したい意識が強く、そもそも「お任せしたい」という意識は薄いのです。また「上から目線」には特に敏感なのが特徴です。

求めるのは対等でフラットな関係なので、好まれるのは「一緒に考えましょう」という寄り添いのスタンスです。保険営業なら「まずはお話を聞かせてください」、旅行やウエディングであれば「お二人にぴったりなプランを一緒に考えましょう」から始めるほうが好印象です。

5つ目の「〜らしく〜しましょう」は、すでに配慮している方が多いかもしれません。ウエディングでは「一生に一度の結婚式らしく」や「花嫁さんらしさ」といった表現が使われてきましたが、Z世代にとっては「固定観念の押し付け」に過ぎません。ジェンダー感覚も柔軟なので、「男性らしい」「女性らしい」も当然NGです。「お二人らしい」「○○さんらしい」など、自分基準の表現に変換しましょう。

■成約率を取り戻した40歳が封印した言葉

今後は20〜30代をZ世代が占めます。営業手法を変える必要がありますが、営業成績がよかった人ほど、従来通りのやり方に固執しがちです。

「ハネムーンなら、人気はハワイやヨーロッパです」「せっかくですから思い出を作りましょう」「ハネムーンは一生に一度のものですから、ホテルもラグジュアリーにしたいですね」……旅行会社のハネムーン提案営業では、未だにこんな問いかけをしている営業マンもいます。

カップルがミレニアル世代なら「結婚式は少規模にしたから、旅行は奮発しちゃおうか」という流れになることはよくありました。一方、Z世代の場合、しっかりと検討した上で最終的にラグジュリーホテルを選んだり、予算を上げたりすることはありますが、初めから「ハネムーンだからラグジュアリーホテル」は通用しません。

“人気は”“せっかくだから”“一生に一度だから”は、どれもZ世代が「決めつけ」と感じるワードです。

大手旅行会社の男性社員で、入社16年目・40歳のBさんも、変化に気づかず、スランプに陥っていた一人です。カウンターセールスマンとして主にハネムーンのプラン提案や手配を行っていますが、スランプの時期はお客様が「家に帰って検討します」と、その場で契約に至らないケースが急増。ハネムーンなどの成約率は40%〜60%が一般的ですが、一時期は成約率20%まで落ち込みました。

しかし、トークを“Z世代対応”に変えて以前の成約率を取り戻すことができました。

今はお客様が来店すると、「お二人がご納得できる行き先を選びたいですよね。いろいろなご提案ができますので、ご希望を聞かせてください」からスタート。

相談の結果、カンボジアのアンコールワットを選んだカップルには「現地に長くいられるプランがいいかもしれません。その分、ホテルやお食事は少し抑えるのも一つですね」と、歴史好きの二人に合わせた日程を提案しました。

過去によく使っていた「私は〜だと思います」「これまでご担当したお客様は〜でした」は封印。「不安に感じられることはありますか」という問いかけをしながら進めます。「お客様と同じ目線で旅行への不安を共有、時には先読みしながら情報をお伝えすることで、信頼していただくことが増えました」と語っていたのが印象的でした。

■初回の提案は90分に抑える

実はトーク以外でも絶対に変えるべきことがあります。無駄を嫌い、自分の大切なことに時間を使いたい「タイパ(タイムパフォーマンス)重視」のZ世代に、長い接客は致命的です。

ウエディング業界では新規接客(初回提案)に3〜4時間かかることは珍しくありませんが、私は「無駄な順番・無駄な話し方・無駄な話の内容」を排除した「90分接客」を提唱しています。

人間の集中力が続く時間は15分、45分、90分と言われます。業種によっては45分を目安にするといいでしょう。ヒアリングに時間を割き、優先順位を見極めた上で絞り込んだ提案ができるかどうかが成否を分けます。

コンサルティングの際、「Z世代って面倒くさいですね」と言われることもあります。実際、これまでの手法が通用せず、「ついていけない」と退社してしまう営業マンもいます。

しかし、お客様の世代に合わせて営業手法を変えるのは、これまでも行われてきたことです。実際、冒頭のウエディングプランナーAさんも世代別接客スキルを習得した後は、かつてのように成約率60%台を維持しています。特にZ世代は価値を感じたものにはお金を惜しまない傾向があるため、むしろチャンスでもあります。

今はまさにミレニアル世代とZ世代の交代時期。次はα世代も控えています。世代の違いを捉え、柔軟に変化していけるかどうかで、営業マンの成果、そしてやりがいも大きく変わってくるでしょう。

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安東 徳子(あんどう・のりこ)
ウエディング研究家、戸板女子短期大学服飾芸術科教授
一般社団法人日本ホスピタリエ協会代表理事、株式会社エスプレシーボ・コム代表取締役、NPO法人TOKYOウエディングフォーラム理事、日本社会学会正会員。著書に『誰も書かなかった ハネムーンでしかできない10のこと』(コスモトゥーワン)、監修に『世界・ブライダルの基本』(日本ホテル教育センター)など。
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(ウエディング研究家、戸板女子短期大学服飾芸術科教授 安東 徳子)