現役引退のWD名古屋 近裕崇が体現する“ミスターウルフドッグス”の生き様。「年齢に関係なく、成長できるところがまだある」
前身の豊田合成トレフェルサ時代から数えること実働16年。ウルフドッグス名古屋の近裕崇が今季限りで現役生活に幕を下ろす。
チームからの発表があったのは3月26日。レギュラーシーズンも大詰めを迎え、すでに進出を決めているチャンピオンシップを含めても、場合によってはプレーできる試合数は両手で収まるほどだ。それなのに――。
当の本人はあっけらかんとしていた。引退発表後、初となるホームゲーム2連戦を終えた3月30日の大阪ブルテオン戦後の記者会見。
「うん、特に、別には(笑)。特別何か、という感じはなくて」
その言葉に、会見に同席した渡辺俊介がボケをかます。
「え、引退するんですか?」(渡辺)
「しますよ(笑)」(近)
「ほんとうに?」(渡辺)
「え、大どんでん返しとかあんの!? ないと思うけどなぁ」(近)
ベテラン2人のそんな掛け合いに、見ているこちらとしてはどこか寂しさがふくらんでしまった。とはいえ、本人の中で今はまだ“特別なこと”として捉えていないのは確かだろう。その週末、チームは大阪Bに連敗を喫した。その結果を受け止めたうえで、このように意気込んでいた。
「ほんの少しの差で負けたので。でも、そのちょっとの差が大きい。細かいところを修正して、昨日と今日の負けからしっかりと教訓を得て。僕も年齢に関係なく、成長できるところがまだあると思うので、しっかりと練習を頑張って、チーム一丸となって来週の試合に備えたいと思います」
現在37歳の、それもまもなく引退する選手の言葉とは到底思えまい。
振り返れば、出遅れから始まった今シーズンだった。リーグ開幕を控えた直前に、腰のヘルニアを患った。近自身は「職業病ですよね」と受け止めていたが…。
「めちゃくちゃ不安でしたよ。2年前ぐらいに痛めたことがあって、そのときは『うわ、これでもう終わりか』なんて思ったのですが、戻ってくることができました。そこからもう一回やってしまって…それにシーズン前でしたから、マジで最悪だと思いましたもん」
痛みを覚え始めたのは7月末だったそうで、自覚はありながらも8月を過ごし、9月に入ると限界を超えた。
「最初に休んでいたらよかったのにね。そこは賢くなかったと思います。でも、やっぱりやらなきゃ、みたいな思いがそのときは強くて」
そこにはチームの台所事業が理由にあった。WD名古屋は昨季かぎりで多くの主力選手が退団した。また夏の時期は日本代表活動や外国籍選手も帰国中といった様々な事由が重なるため、チームで活動するメンバーは数えるほどになる。ミドルブロッカーは近のほか、傳田亮太、小山貴稀と3人だけ。夏場の練習試合では、このメンツで回す必要があった。
「いちばんは、たくさん選手が替わったことが大きかったですね。ずっとチームにいるメンバーの一人として、自分がしっかりやらなければ、みたいな。そこで『僕は午後からは休みます』とは言い出しにくいじゃないですか。それに僕が出られないとなると今度は傳田がつぶれてしまうかもしれない…とか、ほんとうに色々とあのときは考えていたと思います」
いざリーグが開幕し、試合を外から見守る時間が続いたが「徐々に、ですが」(近)コンディションを整え、11月9日の日本製鉄堺ブレイザーズ戦で復帰を果たす。試合前の選手入場では「ミスターウルフドッグス名古屋、No.6!! コーン・ヒロタカーッ!!」のアナウンスが響き、長らく親しまれるユニフォーム姿のまま試合へ。以降はコンスタントに出場機会が与えられると、年が明ける頃には堂々と戦列に立つ。これにはチームの佐藤和哉部長も「さすがにもう厳しいかなと思っていましたが、そこは近でしたね。すごいです」とうなっていた。
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好調のウルフドッグス名古屋で近が輝き続ける理由
コンディションを取り戻したことは前提として、近が今のチームでなお重宝される理由の一つには、その安定感抜群のパフォーマンスがある。指揮するヴァレリオ・バルドヴィン監督は言う。
「彼はコートの中で、多くの経験値をチームに還元してくれます。技術面でいえば、サーブはとても効果的で安定しています。ブロックに関しても、状況を読む能力にたけていますので、多くのシチュエーションでブロックタッチをとることができる。そうして我々に攻撃のチャンスをもたらす働きをしてくれています」
ミドルブロッカーというポジション柄もあるだろうが、決して派手なプレーがあるわけではない。豪快な打球やとんでもないジャンプ力、俊敏性やスピード感…どれもおそらくは今の近のステータス一覧には記されていない。けれども、バルドヴィン監督のWD名古屋が追求するのが「安定性」だからこそ、近というピースは欠かせないのだ。それは本人も理解している。
「チームとしては高いジャンプやアタックを備える選手が必要な場面もあるのですが、それ以上に堅実なプレーを求めている部分があります。その点も自分の今のプレースタイルと割とフィットしているのかなと思います。だって『あと10㎝高く跳べ』と要求されても、絶対に無理ですからね!?(笑)」
「ミドルブロッカーでいえば得点は傳田にワンちゃん(王 東宸)、小山と、僕の対角の選手がとってくれるので。それにチームとしても代々、オポジットやアウトサイドヒッターがたくさん得点してくれるので、僕個人としては『自分はアタックで点数を取らなくてもいい』くらいに思っています。ただ、少ない本数でも上がってきたボールは絶対にミスせずに決めればオッケーかなと」
「その代わり、バルさん(バルドヴィン監督)から言われているのは、『ネットから20~30㎝の高さのボールに関しては確実にブロックへ』。チームとしてもサーブとブロックの戦術があって、それをきちんと遂行することを。それをやらなければ、僕はもう試合に出られないと思いますからね。それが自分のプレースタイルですし、チームにも求められているものです」
陰日向に咲く。ニミル・アブデルアジズの迫力満点のアタックとサーブ、深津英臣の魔法ようなトスワーク、水町泰杜の弾けるようなパフォーマンスと表情…。今季のWD名古屋を象徴するそれらのすぐそばで、近もまた彼にしか出せない輝きを放っている。
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大阪B戦の観客席にいた年配の男性が口にした言葉…
ふと、その姿を見ると、試合でも練習でも両足にはがっちりとサポーターを施しているのがわかる。「ほんとうは何もつけずにプレーしたいんですけどね。こればかりはしかたがないです」と近は言う。それもすべては「コンディションを100%整えるのが絶対条件なので」。そうしてコートに立ち、自分の役目を果たしていくのだ。
3月30日の大阪B戦は第4セット、近がサービスエースを奪った場面で、観客席にいた年配の男性が口にした。
「まだ引退するのは早いよ~」
そんなファンの思いや声は、近にも届いている。
「今日は家族も来ていましたし、僕の知り合いは土日とも、それに夏場に実習でお世話になったTGロジスティクスの方々も100人くらいで応援にきてくれたので。自分の引退がどうとか関係なく、パワーをもらえました。ですが、いい結果を出せなくて残念です」
「特にアタック面に関して決まらなかっただけに、どうやって決めるか。決まらなくてもいかに自分たちに有利な状況に持っていくか、はもっともっとできると思います」
応援に応えたい、そしてチームのために自分ができることを。その願望が、“DARE TO CHALLENGE=成長しよう”を掲げるチームにおいて、「成長できるところがまだある」という言葉につながっているのだろう。
すべての戦いを終えてユニフォームを脱ぐ、そのときがきても。近裕崇選手、あなたはミスターウルフドッグス名古屋だ。
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