photo:深刻化する「闇バイト問題」Jonas Leupe(unsplash)

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 SNSやインターネットの掲示板に仕事の内容を明らかにせずに高額な報酬の支払いを示唆するなどして強盗の実行者を募集する、いわゆる「闇バイト」。

 「ルフィ」と名乗る指示役らによる一連の強盗事件が報じられたことをきっかけに、身近な社会問題として世間に知られるようになった。そんな中、6つの事件で起訴された強盗事件の実行役のリーダー格・永田陸人被告の手記が、『つけびの村: 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館)で知られるノンフィクション作家・高橋ユキ氏のX(旧Twitter)の投稿によって公開され、注目を集めている。この手記から読み取れる永田被告の深層心理について、これまでに筆跡関連の書籍を手がけている日本筆跡心理学協会の根本みきこ氏に話を聞いた。

▪️筆跡が示す性格と深層心理

 「私たちは幼少期に一人の先生から習った字を練習し、それが脳内に定着します。しかし、誰一人として先生と同じ文字形にはならず、書き方は徐々に変化していきます。このことから、文字には書き手の個性や性格が表れていると考えられます」と根本氏は語る。フランスでは「筆跡診断士」は、弁護士などと並ぶ権威ある専門家として認知されており、筆跡から書き手の性格や深層心理が表れるとされている。

 根本氏が永田被告の手記を解析したところ、ある特徴が浮かび上がったという。

 「文字が小さく、大きさが変わらない点が特徴です。これはコツコツ型で、同じ作業を繰り返すことを苦にしない性格を示しています。また、手先が器用で細かい作業が得意なタイプです。一方で、へんとつくりの間が広めに取られており、これは社交的な性格や人間関係の良好さを表しています。人付き合いの良さが筆跡に表れています」

 また、過去に世間を騒がせた犯罪者の筆跡と比較しても、永田被告の筆跡には特徴的な点があるという。

 「字と字の間が広いことから、マイペースであることが伺えます。急がされることに対してストレスを感じるタイプです。過去の事例として、酒鬼薔薇聖斗や『頂き女子りりちゃん』の筆跡と比較しても、永田被告の字間は広く空いています。これは、時間と空間に余裕を必要とする性格を示しており、急かされるとパニックになったり、ストレスを強く感じる傾向があることを示唆しています」

▪️手記に見える人身掌握の巧妙さ

 筆跡だけではなく、手記の内容から永田被告が人身掌握に長けていることが読み取れると根本氏は話す。

 「彼の文章構成は非常に計算されています。最初は『皆様』と語りかけることで読み手の対象の間口を広げ、具体的な説明の際には『貴方』を使用することで親密度を高めています。そして、最後のまとめ部分では一般向けの口調に切り替え、冷静に受け止めてもらうよう誘導しているのです。人の心理をよく理解しており、そのような教育やアドバイスを受けたか、あるいは書籍などで学習した可能性が考えられます」

 また、手記には「闇バイトは自分には無関係である」という認識の危うさについて触れている部分もあり、根本氏はそこに重要な示唆があると指摘する。

 「永田被告は犯行前に『中途半端に知識があって聞く耳を持たなかった』と書いています。この言葉からは、本来は相手の立場に立ってものを考えられるごく普通の人物であったことが伺えます。しかし、環境や心身の状態、運や縁、タイミングといったさまざまな要因が重なった結果、このような事態に至ったのでしょう。人は誰しも魔が差すことがあり、追い詰められた結果、他に手段がないと思い込むこともあります」

 最後に根本氏は「これは他人事ではない。私自身、非常時でも良心に従い、心ある判断を下せる人でありたいと思います」と語ってくれた。現代は日常の中で常に自らの判断を問い直し続けることが求められているのかも知れない。

(文=リアルサウンドブック編集部)