値上がりするラーメンをあきらめて…若者、学生の救世主「油そば」渋谷・池袋・早稲田でバトル勃発中

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ラーメン「1000円の壁」が崩れて……

ラーメン業界には長らく「1000円の壁」というフレーズがあった。ラーメン1杯の価格が1000円を超えると客足が遠のくという業界の通説だ。しかし、近年は原材料費や人件費の高騰を背景に、この「壁」を超える価格帯のラーメン店が増え、1000円以上のプライスも珍しくない。中には数千円のプレミアムラーメンを提供する店も登場しているほどだ。

そんな中、コスパとタイパの良さ、そしてカスタマイズの楽しみを提供する「油そば」が、特に若者や学生に支持されている。

東京都心で急増する理由

油そばの歴史は1950年代に遡る。東京の多摩・武蔵野エリアで誕生した「汁なしラーメン」として、ラーメン文化の一翼を担ってきた。スープの代わりに醤油ベースのタレを麺に絡め、酢やラー油などの調味料で自由に味の変化を楽しむスタイルが特徴だ。

このカスタマイズ性が支持を集め、今ではその人気は全国に広がっている。各店ごとにトッピングやタレのバリエーションが異なり、飽きがこないためリピーターが後を絶たない。また、多くの店では並盛と大盛が同一価格で提供され、ボリューム満点なのも学生街や繁華街で多くのファンに愛される理由のひとつだ。

油そばがホットなエリアとして挙げられるのは、東京都心部の渋谷、池袋、そして高田馬場-早稲田ラインだ。

これらは複数の私鉄が乗り入れるターミナル駅であり、大学や専門学校、高校も多い。学生を中心に安価でボリュームのある外食が求められているエリア。

ラーメン情報サイト『ラーメンデータベース』でこれらのエリアの油そば店をリストアップしてみると、駅から500m圏内に「油そば」をメニューの主軸に据える店が、渋谷で7店、池袋で6店、高田馬場で5店確認できる。

特に高田馬場は早稲田エリアまで含めると10店に達し、多様な専門店が数多く存在した。これらのエリアは、まさに都内有数の「油田」――油そば激戦区」なのだ。

「油そば」が若者の救世主になるワケ

あらためて、油そばのストロングポイントを整理してみよう。

◇1_カスタマイズの楽しさと自由度

酢やラー油という基本調味料を使い倒し、好みに味を変えられる自由度が魅力だ。食欲や気分に応じてチャーシューや半熟卵などのトッピングを追加し、店舗ごとに特色のあるニンニクソースやマヨネーズなどで味の変化を楽しめる。このカスタマイズの幅広さが、何度通っても飽きることなく支持される理由だ。

◇2_コスパの良さ

並盛でも200g程度の麺が提供され、多くの店で並盛と大盛が同一価格という点が大きな魅力だ。1000円以下で十分に満腹感が得られるため、物価が上昇する昨今も、若者の強い味方になる。

◇3_タイパの良さ

油そばはスープがなく、つけ麺のように茹で時間が長いわけでもないため、提供が早く、スピーディーに食べられる。授業時間100分を採用する大学も増え、昼休みが短くなる傾向がある中で、短時間でしっかり食事ができる油そばは、現代の大学生のニーズに合っている。

【渋谷】渋谷で「給油」するならココ! スタンダードな正調油そば/東京油組総本店 渋谷組 

まずは渋谷から見ていこう。『東京油組総本店 渋谷組』は、都心部でチェーン展開を成功させた『東京油組総本店』の一角で、’08年のオープン以来、絶えない行列をつくる人気店だ。

渋谷駅から徒歩3分という好立地で提供されるのは、「油そば」と「辛味噌油そば」の2種類。並盛(160g)からW盛り(320g)まで同価格で、サクッと食べたい人にも、そしてガッツリ食べたい人にも支持される。その日の気分とコンディションに合わせて、お好みの量を「給油」(油組で油そばを食べること)できるのが魅力だ。

『東京油組総本店』は老舗製麺所を母体としており、小麦の風味が豊かでモチモチとした食感の麺が自慢。ラー油と酢を好みに合わせてかけ、トッピングの玉ねぎで食感に変化を加えることで、シンプルながら奥深い味わいが楽しめる。

渋谷エリアには他にも、シンプルな醤油だれの風味がたまらない『油そば 春日亭 渋谷店』や、クリーミーな卵を絡めて楽しむ『まぜそば七』、辛味噌が効いた『辛味噌 油そば 鬼に金棒 渋谷店』など、個性豊かな専門店がズラリ。

さらに、’22年にセンター街に登場した『日本油党 渋谷総本部』では、定番の油そばに加え、「ブラックジャンク油そば」「釜玉油そば」、さらには「たらこバター釜玉油そば」など、ユニークなメニューが揃う。

【池袋】スープも加えた新感覚油そば、追い飯をつけて完食!/油そば 鈴の木

続いての注目エリアは池袋だ。池袋は、学生や若者を中心に油そばの人気が高く、複数の名店が軒を連ねている。

その中でも、’22年にオープンした新鋭『油そば 鈴の木』は特に注目されている。主力メニューの「辛まぜそば」(900円)や「醤油」(800円)に加え、ユニークな「TAM<卵art麺>」(800円)など、リーズナブルな価格設定が高校生や大学生に支持されている。

SNSでバズることが多い店主・りゅう社長は「池袋は家賃が高いのですが、チャーシューを削ることでリーズナブルな価格を実現しました。時代に合わせて自由なやり方で支持をいただいています」と語る。

『鈴の木』の油そばは、麺の下に鶏豚スープをひそませた「スープ油そば」のようなスタイルが特徴で、中太麺のモチモチ感とスープの絡みが絶妙。ラーメンのように「すする」楽しさもある。丼を渾然一体にして味わうためにも、食前に箸で十分にかき混ぜたい。「下からガッツリ混ぜるようにお願いします!」(りゅう社長)。

ラー油や酢に加えて、ニンニクやマヨネーズなどの豊富なトッピングで味変を楽しめ、締めの「追い飯」(150円)で最後まで満足できる。

その他、池袋には渋谷エリアで紹介した『東京油組総本店』が東西に2店あり、『油そば 春日亭 池袋』も池袋本店、東池袋店を構えている。『油そば専門店 油楽道』は、ノーマル油そばが650円でライスとスープが付くため、コスパが抜群だ。競争の激しいエリアでそれぞれの個性が光る。

【早稲田】これぞワセメシ! 油そば専門店の元祖/東京麺珍亭本舗

1997年に早稲田鶴巻町で創業した『東京麺珍亭本舗』は、日本初の油そば専門店として知られ、長年「ワセメシ」(早稲田大学周辺の食事)として学生たちに愛されてきた。現在は鶴巻町本店をはじめ、西早稲田店、高田馬場店(理工キャン店)と、早稲田〜高田馬場エリアに3店舗を展開している。

同店がモットーとするのは、油そばの肝になる「タレと麺に真剣に向き合う」こと。使用する自社製麺は、北海道産小麦粉をベースにブレンドされており、茹で上がりは「プリプリモチモチ」の食感。濃厚なタレが絡み、シンプルながらも力強い一杯が魅力だ。

店舗が強調するのは、酢とラー油を「かけて」から「混ぜる」というステップ。最初にかき混ぜると丼内の温度が下がり、常温のラー油と酢がなじみにくくなってしまうのだ。アツアツのまま、麺とタレ、酢&ラー油の絶妙なマリアージュを楽しもう。

高田馬場〜早稲田ラインでは、学生たちが「学会」と呼ぶ『武蔵野アブラ學会 早稲田総本店』が濃厚なタレとのパンチ力で行列をつくり、大阪発祥の『きりん寺』も存在感を発揮。ボリューム満点の「カツのせ油そば」を擁する『かつの花』、焼き油そばで複数店舗を展開する『麺爺』など、個性的な油そば専門店も要チェックだ。

現在、油そばの人気は、渋谷や池袋、早稲田といったエリアにとどまらず、全国に広がり続けている。油そばはカロリーがラーメンの約2/3、塩分量は半分程度と、ヘルシーさでも優位性がある。

今後はさらに健康に配慮した業態やメニューが登場し、男子学生のみならず、女性にも支持される可能性がある。コスパとタイパ、そして個性豊かなメニューで競い合う「油そば激戦区」のアツい戦いは、今後もますます盛り上がっていくだろう。

取材・文・写真:佐々木正孝
キッズファクトリー代表。『石神秀幸ラーメンSELECTION』(双葉社)、『業界最高権威 TRY認定 ラーメン大賞』(講談社)、『ラーメン最強うんちく 石神秀幸』(晋遊舎)、『ソラノイロ 宮粼千尋のラーメン理論』(柴田書店)などのラーメン本を編集。ラーメンを愛し、「ラーメンの探求マインドは変態であれ、振る舞いは紳士であれ」がモットー。