日本に女性起業家が少ない理由は…「投資家」と「理系」が示す意味
20年以上にわたりメディアという現場から、ジェンダー平等・共働き家族応援・ダイバーシティ経営などのテーマで取材発信してきたジャーナリストの羽生祥子さん。2023年には政府の「女性版骨太方針2023」を検討する有識者会議のメンバーのひとりとして、政策提言にも関わってきた。
実はその女性版骨太方針で、「女性起業家の育成・支援」について政府は推進の意欲を掲げ、女性が起業しやすい環境を作り、人数を増やしていこうとしている。とはいえ、10月17日にはスイス・ジュネーブの国連欧州本部で国連女性差別撤廃委員会の日本に対する対面審査が行われ、多くの指摘がなされているのも事実だ。では日本で女性起業家の育成や支援になにが足りないのか。
5月に開催された「Cartier Women’s Initiative」は、女性起業者支援のために、優れた世界の女性起業家を表彰したという。その現場を取材した羽生さんがレポートする前編「日本人は…?「世界の女性起業家支援プログラム」でみた「3つのすごさ」」では、いま世界ではどんな女性起業家が活躍しているのかをお伝えした。このプログラムで世界各国の女性起業家が表彰もされたが、日本人はゼロ。後編では、日本における女性起業家育成の課題と、希望についてまとめる。
以下、羽生さんの寄稿。
日本からの起業家は見当たらなかった…
前編でお伝えしたように、韓国・中国・タイ・シンガポールなど、アジア各国は世界的な女性起業家プログラム「Cartier Women’s Initiative」でもしっかりと存在感を出し、受賞者も輩出している。しかし残念なことに、日本からの起業家は見当たらない。なぜだろうか?
日本の女性起業家をとりまく環境と、政府の推進策
総務省の「就業構造基本調査」(2017年)によると、日本の起業家のうち女性の割合は27.7%となっている。この数値は世界と比較すると特に低いわけではないが、事業内容や規模で、男女差が大きいことが指摘されている。日本政策金融公庫の調査月報(2023年6月)では、「サービス業」で起業している女性は、男性より15ポイント以上高いことが指摘されている。さらに、販売先が法人(企業)であることは、男性起業家の場合は約4割だが、女性の場合は2割未満。つまり、販売相手は「一般個人」となるケースが多い。このため、ビジネスの規模や、事業展開に限界があるといえる。
こういった実態を見据え、政府も女性起業家の育成を推進しようとしている。内閣府による「女性版骨太方針2024」の2つ目の柱に、「女性起業家の支援」が挙げられた。具体的には、「ロールモデルの創出・育成」、「ネットワークの充実」、「資金調達への支援」と、多岐にわたる。
この中でも私が着目するのは、資金調達への支援だ。
データと共に実態を見てみよう。
資金調達に、大きな男女ギャップ。資金調達額はわずか2%
金融庁が2022年7月に発表した調査レポートによると、全国の企業に占める女性社長比率は約14%だが(これも多いとは言えないが…)、女性社長または創業者の企業が手にした資金調達額は、全体のわずか2%と、著しく少ない。
投資をされる側だけではなく、投資家サイドにも男女格差がある。女性が代表を務めるVC(ベンチャーキャピタル)は、なんと1%だ。このアンバランスが、実は投資家へのパワハラやセクハラといった問題にもつながっていることが同資料において指摘されている。例えば以下のような男女格差があるという。
●スタートアップにおける男性コミュニティの間だけで情報が回る
●女性起業家を支援する女性メンターが少ない
●女性起業家への投資家によるセクハラが蔓延
●投資判断をする際、女性起業家には後ろ向きな質問が多く寄せられる
同じ「顧客」に関する質問でも、男性にはプロモーション的な質問(例/顧客獲得の方法は?)をするが、女性には予防的な質問(例/顧客維持の方法は?)をする傾向があるそうだ。
評価のされ方や投資判断が不明瞭であり、男性投資家による偏見は、前編でレポートした「Cartier Women’s Initiative」での対話でも実際によく聞かれた。だからこそ、世界を挙げていま、女性起業家を後押しするコミュニティや、育成プログラムがさかんなのだ。これから日本においても、金融庁をはじめ、経産省の「J-Startup」プログラム等で、女性起業家の育成環境や投資環境を改善していってほしい。
さて、世界の起業家アワードを目の当たりにして感じた日本の壁は、もうひとつある。それは、「理系女性の少なさ」だ。
「女性は理系が苦手」って、それどこから来た?
日本に女性起業家が少ない理由は、もうひとつ、「理系のスキルを持った女性が少ない」ことだと分析する。それは、拙著『ダイバーシティはなぜ進まない?性別ガチャ克服法』でも指摘し、大きな反響(驚き、落胆、疑問などなど)を頂いた。
主なOECD加盟国の高等教育機関の卒業・修了生に占める女性割合を「自然科学・数学・統計学」と「工学・製造・建築」の分野で比較し、表にした。「工学・製造・建築」に関しては平均も28%と高くないが、日本は16%。「自然科学・数学・統計学」の分野での平均値は54%と、実に半分以上となっている。しかし日本では、27%とかなり低く、韓国の49%と大きく差を付けられている。
こういった実態を見ると、「女性は理系が苦手」という考え方は一体どこから来たのだろうか? と疑問に思う。それはきっと、学校教育の場や、家庭内で、教師や親から「理系の職業は男性が就くもの」と刷り込まれてしまった“性別ガチャ”という面もあるのではないだろうか。
日本も“リケジョ”などのキーワードで、理系女子学生を増やす機運が高まってきた。大学でも女子枠を設け(その手法はまだ賛否両論あるけれども)、女子高校生の理系進学実績が徐々に増えてきていることは希望でもある。
スタートアップの事業内容において、特にこのデジタル時代は理系の専門知識や、興味関心が求められていることは確かである。それに加え、事業展開をしていく中で、数字を読む力は不可欠だ。理系の知識やスキルを持った女性が増えれば、それに応じて起業チャンスも増えると期待したい。
日本マーケットは世界の起業家から大人気! その利点を生かす未来を
ここまで、世界の女性起業家が集まる「Cartier Women’s Initiative」から現状や課題を考えてきた。最後にひとつ、明るい希望となるエピソードをご紹介したい。
CWIの受賞者たちをインタビューしていると、多くの人が「日本のマーケットに着目している。TOKYOに進出したい!」と熱っぽく語るのだ。日本は消費者のセンスが高く、商品のクオリティも高い。だからこそ、自分の実力を試すためにも、いつかは東京マーケットを目指すと……。
女性起業家というプレイヤーが日本でも徐々に育ち、世界へ発信する力が伸びたあかつきには、なお一層「日本に進出してみたい」という世界からの起業家が呼び込める。そんな日を望みながら、起業家のひとりとして自分も経験を積んでいきたい。