休みの日、一日中寝てすごしてしまう習慣からどうしたら脱却できるのか。中医学の観点から相談に応える漢方家の櫻井大典さんは「平日、遅くまで仕事をしていたら、休日はぐったりするのは当然。一週間で帳尻を合わせることが大事」という――。

※本稿は、櫻井大典『こころゆるませ漢方養生』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

CASE4
「寝て終わってしまう休日を、楽しくアクティブに過ごしたいです」

仕事はやりがいがあり、夜遅くまで働く日も多いですが、充実していて楽しいです。
同じように休日も楽しく過ごしたいと考えているものの、いざ休みの朝を迎えるとなかなか起きられずに、寝て終わってしまうことがよくあります。
一日を無駄にした気分にもなるので、買い物へ行ったり、アウトドアを楽しんだりと、もっとアクティブに行動したいです。
休日のレジャーを楽しむためには、どうすればよいでしょうか?

■休日にぐったりするのは当然のこと

これは土台、無理な話です。平日、夜遅くまで仕事をしていたら、休日はぐったりするのは当然。そもそも無理な生活をしているのです。もっとシンプルに考えましょう。

まず、休日というのは、そもそも“休む”日です。現代ではなぜか、休みの日も動かなきゃいけないと思っている節がありますが、休むときはちゃんと休む。これがとても大事で、ちゃんと休むからこそ、しっかり働けます。

休みの日の使い方をざっくり言うと、体を動かす仕事をしている人は、あまり動かず体をゆっくり休ませること。逆に、ずっと座りっぱなしの仕事をしている人は、適度に動くことがよいです。よく動いて(「陽(よう)」)、よく休む(「陰(いん)」)、いつでも「陰」と「陽」のバランスをとることが大事なわけです。一週間で大体の帳尻が合うような生活習慣を心がけるのがよいと思います。

休日に買い物に出かけたいならば、平日の仕事の時間を減らす、働き方を朝型にシフトし、平日の夜にたっぷり睡眠時間を取るなど、基本の勤務時間で収まる仕事の仕方に変えていくことも大事です。仕事とは、自身の体調管理も含みます。休むこともスケジューリングしたうえで、効率のよい働き方を模索しましょう。

写真=iStock.com/Anton_Herrington
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Anton_Herrington

■老化現象は「腎」の疲労が引き起こす

また、仕事にやりがいがあり、楽しく充実していることはよいことですが、夜遅くまで仕事をすることは、ちょっと危険です。なぜなら、過労は五臓の「腎」に過大なダメージを与えるからです。

「腎」は、成長や発育、生殖を司る臓器で、ホルモンや遺伝についても深く関わりがあります。体のさまざまな機能と密接に関わっており、いわゆる“老化現象”は、この「腎」の機能が低下したことによって起きる症状です。

中国古代の医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』では、女性は7の倍数、男性は8の倍数の年齢のときに、体に大きな変化が訪れるという記述がありますが、「腎」の機能は、女性の場合では28歳をピークに、男性では32歳をピークに、以降はなだらかに下降していくとされています。

しかしながら、その年を迎えなくとも、過労や座りっぱなしで歩かない、夜更かしなどの日々を続けていれば、「腎」にひどくダメージを与えますから、その衰えはもしかしたらピークを待たずして訪れるかもしれません。相談者の方も、実際、休日に起き上がれないほど働いているわけですから、すでに「腎」が相当なダメージを受けていると思われます。

「腎」の機能が低下すると、疲れやすくなったり、冷や汗が止まらなかったり、食欲が出なかったりと、さまざまな不調が表れます。また、今は若さゆえのエネルギーでそのダメージが目立った症状としては表れず、本人に実感はなくても、本格的な老化現象を迎えたときに症状が激しく表れ、人よりも辛い状況になる可能性は高くなります。

写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs

「腎」は、「精(せい)」という、生命力の根源であるエネルギーを蓄える袋でもあります。

その「腎」がダメージを受ければ、袋は小さく硬くなり、たくさんの「精」が中に収まることはできません。

つまり「腎」が弱るということは、命を燃やすためのエネルギーがどんどん減ってしまうということ。

「腎」の機能低下は誰しもに訪れ、そのスピードは人それぞれですが、できるだけゆるやかにすることは可能です。少し先の未来を思い浮かべて、無理は控え、「働く」(「陽」)と「休む」(「陰」)のバランスを大事にしてください。

CASE5
「睡眠時間は毎日しっかり7時間取っています。

でも、なぜか日中眠くなり、集中力が続きません」

毎日、ほぼ深夜1時までには寝て、朝8時前後に起き、11時頃から仕事を始める、というスケジュールです。
7時間、もしくはそれ以上睡眠を取っている日もあるのですが、午前中は頭がぼんやりとして集中力が続かず、午後2時すぎからようやく調子が乗ってくるという感じです。
朝から活発に働くための秘訣はありませんか?

■“何時間眠るか”よりも、“何時に寝るか”が重要

中医学で睡眠について語るときは、実は睡眠時間よりも、何時に眠ったか、という時刻が重要になってきます。図表1を見てください。

一日の時刻とその時間に活発に働く臓器の関係性を表した、中医学の考え「子午流注」

これは、時刻と、その時刻に活発に働く臓器の関係を表した、「子午流注(しごるちゅう)」と呼ばれるものです。

なかでも重要なのは23時から深夜3時。図を見ると、23時から深夜1時は六腑の「胆(たん)」が該当していますね。

「胆」という臓器は消化器官の一つで、消化の最終段階を行う場所です。つまり、ここで「胆」が活発に働くことで、体に栄養を補給し、日中疲労した体の修復を行うわけです。でも、この時間に体が起きて活動していると、エネルギーがそちらにも使われますから、「胆」は全力で働けません。修復したいのに栄養が足りない、という状況が起こるわけです。

だから23時に起きている=活動しているのはよくない。できればその前の時間帯、21時からすでにリラックスし、体が眠りに向けて準備している状態が望ましいです。

この時間に該当する「三焦(さんしょう)」という六腑は、体内の水分調節を行うリンパ管のような働きをする場所で、水を流して掃除をする、みたいなイメージです。そして、「胆」の次は、五臓の「肝(かん)」の時間帯。前の記事にも登場していますが、「肝」は「血(けつ)」を貯めておくタンク、でしたよね。この時間に、「血」がつくられ、「肝」に貯められるわけです。

櫻井大典『こころゆるませ漢方養生』(扶桑社)

つまり、21時から23時の間で、余分な水を流して体内の浄化を済ませ、23時から深夜1時の間に消化・吸収の最終段階を終えて体に栄養が補給され、深夜1時から3時までに栄養を蓄えたきれいな「血」が「肝」に貯められる、というスケジュール。

21時から深夜3時までは、いわば体内のメンテナンス時間なのです。そのいずれかの時間帯でも起きているのであれば、臓器の働きは鈍くなりますから、体は修復されないまま朝を迎えてしまいます。相談者の方の眠る時刻を見ると、中医学の観点から言えば、睡眠が取れていない、という判断になります。

さらに言うと、23時に「胆」が消化の最終段階をするわけですから、逆算すると夕食は18時までに済ませておくことが理想です。

■できる日だけでも、理想の時間割を

とはいえ、これは理想の話。僕も22〜23時に寝るように努めていますが、難しい日もあります。また、夜勤など、お仕事の都合でどうしてもこの時間に眠ることはできない方がたくさんいらっしゃることも、日々実感しています。そういう場合は、休みの日だけでも「子午流注」の時間割に沿って睡眠をとることをおすすめします。

ちなみに子どもの場合は、より自然に近い存在なので、子午流注により厳格に則って21時までの就寝を目指すのがよいでしょう。ただし、しっかり昼寝をしている場合は、多少遅くなるのはしょうがないことです。22時頃までの就寝を目指しましょう。

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櫻井 大典(さくらい・だいすけ)
漢方家
国際中医専門員、日本中医薬研究会会員。漢方薬局の三代目として生まれ育つ。カリフォルニア州立大学で心理学や代替医療を学び、帰国後はイスクラ中医薬研修塾で中医学を学ぶ。中国の首都医科大学附属北京中医医院や雲南省中医医院での研修を修了し、国際中医専門員A級資格を取得。これまで年間数千件の健康相談を受け、のべ4万件以上の悩みに応えてきた。相談者の話をじっくり聞き、不調の根本的な理由を探し、相談者の体質やライフスタイルに合わせたアドバイスをしている。Xで発信されるやさしいメッセージと、簡単で実践しやすい養生法も人気を集め、フォロワー数は18万人を超える。
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(漢方家 櫻井 大典)