寝かしつけがうまくいかず、子どもにイライラするのは、まだやらなければいけないことが親側に残っているときだからです(写真:kapinon/PIXTA)

発達障害の子を持つ親御さんは、知らず知らずのうちに気を張り、自分を追い詰めてしまいます。「自閉スペクトラム症」の診断を受けた3人のお子さんを持つ外科医ちっちさんの著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』より、今の生活が少しでも楽になり、親御さんが上手に子どもと接することができるようになるコツを紹介します。

何ひとつ思い通りにいかない

「愛情を持って育てれば、素直で賢い子に育つ」「子どもは育てたように育つ」。そんなふうに考えていた時期が私たちにもありました。ところが、1人目の長女が生まれ、子育てが始まって驚きました。

生まれたばかりの長女は、ものすごく神経質な子で、ちょっとでも気になるものがあるとなかなか寝ません。やっと寝たと思ったら、ちょっとした物音で起きてしまいます。

「新生児だし、新しい世界には不慣れだよな……」と思い、一度は納得しました。よく眠れるように寝具や服を見直し、お腹が空いた時間が少なくなるように授乳の間隔や量を考え、よく眠れると評判のスイングを買い、なるべく環境を整えました。

しかし、そんな試行錯誤をしても何ひとつうまくいかず、2〜3時間おきに長女に対応する生活が続きました。妻は、まとまった睡眠をとれない状況が、1年半は続きました。

「できることをやっていく」ことにした

「努力しても必ずしもうまくいくわけではない」と柔軟に考えました。「うまくいかなくても、親なのだから、子どものためにできることを見つけて実行すればいい」と割り切ったのです。「子を変えるための努力」ではなく「今の親2人が、子に対してできることをやっていく」と開き直ることにしたのです。

例1)「まだ、寝ない?」

「なら、ごみ捨てに行こう!」と、一緒にごみステーションまで行きました。なぜ、ごみ捨てなのか? 親が寝るまでにやりたいことだったからです。

寝かしつけがうまくいかず、子どもにイライラするのは、まだやらなければいけないことが親側に残っているときだからです。子どもが寝やすいように介入した上で、それでも寝ないのであれば、開き直って親側のタスクをこなすようにしました。

例2)「食事を食べない?」

「なら、ラップして置いておこう」と考えました。明日も食べなかったら捨てればいいのです。食事で大切なのは、栄養のバランスですが、1食で栄養のバランスをクリアする必要はありません。1食が偏るのであれば、数日から数週間かけて全体で栄養のバランスをとればいいのです。

例3)「泣き止まない?」

「なら、夜の河原に行こう」と考えました。泣くこと自体は別に問題ないのです。おむつや授乳がきちんとできていて、他に病気などにかかったりしていないのであれば、「別に泣いていい」と開き直りました。要するに「周りに迷惑だから、泣かれると困る」ので、夜に泣かせる場所を、昼間の散歩で探しておきました。

泣いていい場所で周囲に気兼ねなく泣かせていると、大きな泣き声が夜空に響くのが「おもしろい」と思えることすらあります。川の近くの公園が定番になりました。自宅からは少し離れているものの、街灯がきちんとあって、誰のたまり場にもなっていなかったからです。

夜の河原はしんとしていて、昼とは違う顔を見せます。子どもも、その「昼と何か違う」を感じて気分が変わるのか、泣き止むこともありました。

親が消耗しないように

「こうでなくては!」と考えすぎていたときは、親も子も身動きがとれなくなっていましたが、「できなくても、それでいい」と考えるようになってからは、お互いに楽になりました。子どもが親の思い通りに行動しなくても、あまりイライラしなくなったのです。

「子どもがどうしても○○しない。この状況を変えよう」という頑張りをやめました。親の負担になる部分をそぎ落とし、子どもの行動が変わらなくても親が消耗しないようにしました。


(外科医ちっち : 外科医)