「フロンクス」はスズキ車の概念を変えるか?
2024年10月16日、正式に発売となったフロンクス。価格は254万1000〜282万7000円(写真:スズキ)
日本に輸入されているクルマのブランド別登録台数ベスト3と聞かれたら、クルマにくわしい人は、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンと答えるだろう。
たしかにJAIA(日本自動車輸入組合)が発表した、2023年の統計ではそうだった。しかし、今年になって異変が起きている。
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同じJAIAが発表した2024年4月の統計で、ホンダがメルセデスを抜いてトップに躍り出たのだ。その後も5月と7月はホンダが首位で、6月と8月も2位につけている。
ホンダはかつて、「アコードワゴン」をアメリカから輸入していた時代にも、輸入車ブランドNo.1になったことがあった。今回の首位獲得は中国製「オデッセイ」もあるが、メインはインドで生産される「WR-V」だろう。
そのWR-Vのライバルになりそうな車種が、同じインドからやってくることになった。7月に日本仕様の情報が公開され、10月16日に発売されたスズキ「フロンクス」だ。
バレーノとは異なる日本での競争力
ボディサイズは全長3995×全幅1765×全高1550mmで、同4325×1790×1650mmのWR-Vと比べるとひとまわり小柄だが、同様にライバルと考えられるトヨタ「ヤリスクロス」と日産「キックス」はこの2車の間に入るので、この4台を比較するユーザーは多いと思われる。
同クラスのライバルとなるトヨタ「ヤリスクロス」(写真:トヨタ自動車)
スズキがインドで大きな成功を収めていることは、クルマ好きでなくても知っている人は多いだろう。日本でもかつて、コンパクトハッチバックの「バレーノ」をインドから輸入して販売していた。
バレーノは、インドだけでなくヨーロッパ市場もターゲットとしただけあって、1.2リッター自然吸気と1.0リッターターボがあるうち、とりわけ走行性能重視の後者を積んだモデルは走りのレベルが高く、お気に入りの1台だった。
【写真】スズキの概念を変える?フロンクスのデザインを見る
しかし、全長4m未満である一方で、幅は5ナンバー枠を超えており、ターボエンジンは当初、燃料がハイオク指定であるなど、輸入車のネガな部分もあわせ持っていたこともあり、我が国での販売は伸び悩んだ。
その点フロンクスは人気のSUVだし、ライバルたちも多くが3ナンバー幅だから、車幅がネックとなることはないだろう。1.5リッター自然吸気のエンジンスペックはWR-Vと同じで、燃料はレギュラーガソリンだ。
2WDと4WDをラインナップし、どちらも6速ATと組み合わせる(写真:スズキ)
価格次第ではあるが、ここまでの内容を見る限りでは、フロンクスの競争力はそれなりにあると判断できる。
個性を出そうという意志のあるデザイン
スタイリングは、角張ったWR-Vとは対照的で、低くて流れるようなプロポーションだ。これは、スズキがフロンクスを「クーペSUV」と位置づけたことが大きい。ホンダで言えば、さらに大柄にはなるものの、「ヴェゼル」に近いキャラクターと言える。
オフィシャルサイトで紹介されているデザイナーのコメントでも、バックドアを大きく傾斜させたクーペスタイルとして、「スタイリッシュで都会的なイメージを表現した」としている。
それでいて前後のフェンダーまわりは明確に盛り上がっており、フロントはヘッドランプ、リアはサイドシルから線をつなげて、ボディ全体での一体感を演出。さらにリアにはブリスターフェンダー風の処理も加えている。
横一直線につなげるリアコンビランプなど、トレンドを取り入れたデザイン(写真:スズキ)
個人的には、もう少し要素を少なくしてほしいところだが、にぎやかなデザインを好む日本人が多いことも事実。SUVらしいブラックのフェンダーアーチをつけてはいるものの、このフェンダーラインはクーペ的で、かなりダイナミックな雰囲気だ。
フロントフェンダーからつながる前面は、SUVらしい力強さを醸し出す大きめのグリルの上にシルバーのラインを入れ、そこからLEDを用いた細めのデイタイムランニングランプにつなげて、下にヘッドランプをまとめる。
ランプの配置は三菱自動車のSUVを思わせるものの、シルバーの細いラインでヘッドランプをつなげるなど、その中で個性を出そうという意志を感じさせるデザインだ。
リアは、最近のトレンドでもある左右をつなげた横一文字のコンビランプと、その下のボリューム感あるフェンダーやバンパー、かなり上まで立ち上がったグレーのアンダーガード風処理で、クーペの豊かさとオフローダーのたくましさがうまく両立していると思った。
シックなカラーを揃えるモノトーンボディカラー仕様(写真:スズキ)
ボディカラーは2トーン5色、モノトーン4色で、後者が無彩色とブルーのシックなラインナップなのに対し、ブラックルーフとした前者はブラウン、レッド、オレンジなどの暖色系を多く揃えているところがおもしろい。
インテリアはまず、ブラックとボルドーのカラーコーディネートに目が行く。クーペSUVとしての「たくましさや豊かさを表現した」とのことだが、これまでのスズキ車にはあまり見られなかった配色だ。
上質感を演出するボルドーのカラーが特徴的なフロンクスのインテリア(写真:スズキ)
ファブリックとレザー調のコンビとしたシート、高輝度シルバー塗装を採用したインパネ、ドアやセンターのアームレストに入れたステッチを含めて、このクラスではかなり高級感を目指した仕立てに映る。
ただし、インパネはブラック、ボルドー、シルバーに加えてピアノブラックも入れており、分割線も多く、ややビジーにも感じる。スイフトのインテリアにも言えることだが、もう少し整理が行き届けば落ち着きが出て、上質感が伝わりやすいだろう。
凝った形状のインストルメントパネルは、ややデザイン過剰に感じる部分もある(写真:スズキ)
このクラスの日本車の中には、フロントに比べてリアのドアトリムの仕立てを簡素にする車種もあるが、フロンクスはリアのドアトリムにもボルドーを奢っており、造形も凝っていて、こだわりが感じられる。
これまでのスズキとはちょっと違う
このフロンクスはインドで、NEXA(ネクサ)というネットワークで販売される。NEXAは、インドにおけるスズキのプレミアムな販売ネットワークだ。
バレーノもモデルチェンジで質感を高めているようで、これまでのスズキとは違うマーケットを狙っていることがわかる。ダイナミックでクオリティにも配慮したフロンクスのデザインは、それにふさわしいと感じた。
つまり「安価で便利」という、これまでのスズキのキャラクターとはちょっと違い、付加価値でアピールする車種ということになる。ブランドの故郷である日本で、この立ち位置がどのように評価されるか、興味深い。
【写真】スズキ「フロンクス」全ボディカラーを見る
(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)