地球の地殻「海と大陸」どちらが先にできたのか…じつは「水の果たした大きな役割」を考えれば、おのずと見えてくる「地球形成のシナリオ」

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私たちが暮らす地球は、豊かな恵みを与えてくれるいっぽう、地震、火山噴火などの大きな災害をもたらすこともあります。こうした大地の性質を「地質」といい、これを研究する学問が「地質学」です。

地球はおもに、マントルなど基礎をなす部分に多い「橄欖岩(かんらんがん)」、海洋の近くで多く見られる「玄武岩」、大陸をなす「花崗岩」の三つの石でできているといいます。

今回は、海と大陸の地殻が形成されるシナリオを検討しながら、三つの石がどう生まれ、どう関わっていたのかを見ていきます。原始地球が、現在の地球に至るドラマを体験しましょう。

*本稿は、ブルーバックス『三つの石で地球がわかる』の内容を再構成してお送りします。

スポンジのような鉱物

プレートが形成されて、その沈み込みが始まったことは、地球の進化のうえできわめて重要な意味をもちます。地球の内部へ、大量の水がもたらされるようになるからです。プレートが水の「運び屋」となるのです。

しかし直観的には、バケツのような形をしたものであればともかく、硬くて平べったい岩板が「水を運ぶ」といわれても、みなさんにはイメージしにくいのではないでしょうか。

じつは、SiO₄正四面体が複鎖型につながったイノケイ酸塩鉱物(角閃石など)や、平面状につながったフィロケイ酸塩鉱物(雲母など)は、物質を受け入れる隙間が大きいため、巨大な分子であるOH(水酸基)を収納できるのです。

OHは水素とくっつくことで水となります。つまり含水鉱物とは、大量の水を含むことができるスポンジのようなものなのです。玄武岩でできたプレートは、変質作用や変成作用によってこの含水鉱物を多く含むようになるために、大量の水を運ぶことができるのです。

なお、前回ご紹介したコマチアイトをつくる橄欖石が変質してできた蛇紋石も、含水鉱物です。

プレートが水を運ぶことの意味

では、プレートによって地球の内部に水が運ばれることがなぜそれほど重要なのでしょうか。岩石は水が加わると一気に融点が下がるので、溶けやすくなります。プレートが沈み込むと、ゆっくりと深さ約110kmのマントルまで到達し、持ち込まれた水がそこで周辺のマントルの融点を下げます。そのためマントルをつくる橄欖岩が部分溶融して、マグマができるのです。

こうして玄武岩質マグマや、そこから結晶分化することで安山岩質マグマができます。また、マントルの部分溶融によって直接、安山岩質マグマができる場合もあります。

島孤による大陸地殻の形成

これらのマグマが地表に噴き出して、火山活動を開始するとともに、島弧を形成するのです。

島弧とは、日本では、マリアナ海溝の北の伊豆・小笠原弧で知られる、弓形に連なる島の列です。大陸地殻のそもそものはじまりは、「島弧」の集合体であったと考えられます。

最初は海面下にできた島弧は、やがて陸上に顔を出すようになります。そして、以前の花崗岩についての記事*でも触れましたが、島弧はプレートの上にのって移動し、次々と別の島弧と衝突し、合体して、やがて大陸地殻を形成します。それは隕石が次々と合体して惑星ができるのに似ています。

これも先ほどの記事*でご紹介しましたが、北米大陸にはいまから約35億年前に形成された巨大な大陸地殻があることを述べました。それは現在の島弧と同じように、おもに安山岩からなっていて、島弧が集積してできた原始的な地殻の典型といえるでしょう。「原始的」というのは、やがて出現する大陸や超大陸とは異なる地殻という意味です。

このような地殻を「クラトン」といい、同じようなものは中国にも見られます。

*参考記事「大陸地殻と花崗岩誕生の謎」について:二転三転して解決した「花崗岩の謎」…なんと「生まれの違う」兄弟いとこが多すぎた「衝撃の事実」

地殻のなりたちと三つの石

最初の大陸がいつ、どのようにしてできたのかは、よくわかっていません。それに答えるにはまず「大陸とは何か」を定義しなければなりません。

もし大陸は「花崗岩でできた陸の塊」とすれば、いちばん古い花崗岩がそうなりますが、広い意味での花崗岩は大陸だけでなく島弧にも出てきますし、海嶺からも特殊な花崗岩(カリウムが非常に乏しい斜長花崗岩)は出てきますので、厳密な定義にはなりません。

もし島弧が衝突合体してできたものが大陸であるとすれば、二つ以上の島弧ができたときが大陸の起源ということにでもなるでしょうか。

はっきりしているのは、大陸は大陸地殻からできているということです。

すでに述べたように地殻には大陸地殻と海洋地殻があり、それぞれ陸と海をつくっています。陸地も海底も地続きなのだからそこに区別などはなく、もしも海水をすべてとっぱらってしまえば、地球は全部、ひとつながりの陸になるというわけではありません。二つの地殻はまったく別ものなのです。

そのことは、それぞれの地殻の成因を見れば納得できると思います。

海の「玄武岩地殻」、大陸の「花崗岩地殻」のできかた

まず海洋地殻は、マントルの橄欖岩が部分溶融してできた玄武岩質マグマが、海嶺から噴き出し、薄く広がって固まることでつくられます。

これに対して大陸地殻のほうは、もう少し手間がかかります。プレートの沈み込みによってできた玄武岩質マグマから結晶分化した、もしくはマントルから直接、部分溶融してできた安山岩質マグマは、地表に噴き出して島弧をつくります。島弧は集積して、最初の大陸をつくります。

この大陸にプレートが沈み込んだり、衝突したりして高温になると、大陸は再び溶けて、膨大な量の花崗岩となるのです。

以前の花崗岩についての記事でも述べましたが、「水がなければ多くはつくられないことから、地球ならではの石が花崗岩」と述べたように、このときも水が重要なはたらきをします。こうして、花崗岩からなる大陸地殻ができたと考えられています。

そして二つの地殻の配置は、大陸地殻が、海洋地殻の上に乗っかっているという関係にあります。

「地球の構造」は三つの石の均衡で成り立つ

それぞれの密度を比較すると、大陸地殻は2.7g/cm³くらいで、海洋地殻は3.0g/cm³くらいです。これは石でいえばまさに、花崗岩と玄武岩の密度に相当しています。そして、マントルをつくる橄欖岩は密度が3.3g/cm³です。したがって地球の構造としては、橄欖岩の上に玄武岩が乗り、その上に花崗岩が乗っている状態が、重力的にいちばん安定します。

このような状況を「アイソスタシー」(地殻均衡)といいます(図「アイソスタシー」)。言い換えれば、大陸地殻と海洋地殻はこの配置で安定しようとしているわけです。

原始地球から現在の地球への「進化の帰結」

もういうまでもなく、〈原始地球で起きた、衝撃の「隕石の重爆撃期」と、引き寄せられてきた「地球の材料」〉で述べたヒプソグラムからわかる地球の特異な2極構造も、大陸地殻(海抜0〜1000m)と海洋地殻(水深4000〜5000m)がいずれも20%以上を占めていることからきています(図「地球の地形のヒプソグラム」)。

これが原始地球から現在の地球への、進化の帰結です。そこには、三つの石がそれぞれに、きわめて大きな役割を果たしていたのです。

三つの石によって、地球にはほかの惑星にはない特徴ができあがりました。まず層構造が生まれ、プレートがつくられ、プレートテクトニクスが起きて、水が大循環して地球の内部へと運ばれるようになりました。水は生命をつくる一方で、地下深くに運ばれることによって島弧をつくり、島弧が衝突・集積することで大陸が誕生しました。私たち人間を含めた、多くの地球生命が住める場所ができたのです。

三つの石が地球を特別な星へと進化させたのです。

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地球の成り立ちには、「水」が大きな役割を果たしてきましたが、その役割の大きさは、地球の材料です石(鉱物)の特徴的な構造を知ると、より深く理解できます。次のシリーズでは、石のサイエンス「鉱物と結晶の世界」についての解説お届けします。

三つの石で地球がわかる――岩石がひもとくこの星のなりたち

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