「薬を飲みたがらない」「ものを盗られたと訴える」など、認知症の親の言動に対し、イラッとしてつい口に出てしまうひと言。それらをポジティブ変換できれば、介護も少しラクになるはず。ここでは、介護ライター・老年学研究者の島影真奈美さんに、認知症の親とのコミュニケーションのコツを教えてもらいました。

ストレスが言葉の圧に。親にも自分にも優しく

「認知症の親とのコミュニケーションにおいて、言葉選びはとても重要です」と話すのは、介護ライターの島影真奈美さん。

「私たちにも、なんとなく『信じてもいい人』と『信じられない人』っていますよね。介護をしていくうえでは断然、『信じてもいい人』と思われた方がいい。言葉を選ぶ努力が多少、手間だったとしても、結果として介護する側がラクになるんです」(島影さん、以下同)

大前提となるのが、相手を不快にさせる、侮辱する言葉は使わないということ。そして、なにか行動を促したいのであれば、本人がどうしたらやりたくなるかを考え、ポジティブな気持ちを引き出す言葉を選ぶことが肝要、とも。

「認知症の方たちって、観察力がすごいんですよ。五感をフル活用しながら、ままならない日常の不安や困り事を乗り越え、毎日サバイブしている。『どうせわからないだろう』という態度は即座に察知されていると思った方がいい」

とはいえ、こちらがストレスを抱えていると、どうしても負の感情が“圧”として出ることも。

「一方的な我慢は要注意です。介護をしていたら、イライラや怒りの感情だって生まれます。その感情を親と自分、一対一の関係のなかだけで解消するのは難しい。受け止めてくれそうな人がいたら頼ってしまいましょう」

そして、すでに親とのコミュニケーションで、「あんなこと言わなければよかった」と後悔や自責の念を抱いていたとしても、「ドンマイ!と自分をねぎらってあげてください」と島影さん。きつい言葉を口にして、落ち込むのは親以上に子どもの側。これまでのことは後悔せず、これから、できる範囲で言葉を選べばいいと言います。

「長く生きているだけあって、親も意外と負けていません。親を大事に思う気持ちとイライラは混在するものです。ムカッ!としてしまう自分を許すことも大切です」

そしてもし、きつい言葉を言ってしまいそうになったら、その状況から離れるのも1つの方法。

「カフェでケーキを食べてひと息ついてもいい。親に対して優しくする以上に、自分に優しくしてあげましょう。“最優秀親子賞”など目指す必要なんてないのですから」

介護のよくあるシチュエーションの「言い換え辞典」

感情にまかせてつい出てしまうきついひと言、ポジティブ変換してみませんか? 島影さんに介護の場面での「言い換えのコツ」を聞きました。

●ものを盗られたと訴える

×「なに言ってるの!だれも盗ってないよ!」
〇「いつから見当たらないの?」

「盗まれた」を「見当たらない」に言い換えて意識をそらす作戦。一緒に探して、ものがないことへの不安を和らげてあげましょう。

●気分が落ち込んで「早くお迎えが来てほしい」と言う

×「私の方こそ、死にたいよ…」
〇「どうしてそう思ったの?」

リアクションに困るときには質問で返してみましょう。聞いているだけなので失敗がなく、聞いてもらった親も満足します。

●薬を飲みたがらない

×「飲まないと、どんどんボケるよ!」
〇「そのお薬飲むと、よく眠れるらしいよ!」

薬を飲んでもらえればいいわけで、医師ではないので真実を説明する必要はありません。介護では「ウソも方便」が大事。

●鍵をすぐになくす

×「しっかりしてよ!どこに置いたの!?」
〇「かわいい鈴でもつけようか」

責められていい気持ちになる人はいません。失敗を失敗と思わせずに、次のアクションにつなげる言葉をかけてあげましょう。

●同じ話を何度も繰り返す

×「その話、何度目?(怒)」
〇「その話、今日10回目だよ〜(爆笑)」

関係性がいいのであれば、ツッコむのもアリ。笑いながら言って、つられて親も笑顔になって2人で大笑いできたらいいですよね。

●確認のため何度も同じことを聞く

×「さっき言ったじゃん!」
〇(一緒にいるなら)「ここに書いておくね」

基本は毎回、同じ答えを返せばいいのですが、それがストレスなら対策を。うまくすれば、質問の頻度が減るかもしれません。