高橋文哉が語る「"周りの評価"との向き合い方」
©2024「あの人が消えた」製作委員会
デビューから5年、メディアで見かけない日はないほど出演作が続く新鋭俳優・高橋文哉。『仮面ライダーゼロワン』を経て、瞬く間にエンターテインメントシーンの第一線に駆け上がった若きスターは、凛とした佇まいの落ち着いた言動から、静かなエネルギーと自らへの自信が全身にみなぎっていた。
そんな高橋が、多くの出演オファーが舞い込むなかで、脚本のおもしろさに惹かれて出演を決めたのが、ドラマ『ブラッシュアップライフ』で演出を務めた水野格がオリジナル脚本・監督を務める『あの人が消えた』(9月20日公開)だ。
次々と人が消えてしまう謎に包まれたマンションを舞台にした作品で、社会性を帯びながらも、名作洋画を思わせるトリッキーなストーリーテリングで観る者を唸らせる。鬼才クリエーターたちのクリエイティブを結集した野心作だ。
芸達者な個性派俳優が揃った本作は、主演を務めた高橋にとって、キャリアの壁を感じる学びと成長の場になったという。高橋の内に秘める大事な思いに迫った。
俳優を目指したきっかけ
――今まさに大活躍中ですが、俳優を目指したきっかけを教えてください。
とくにきっかけはないんです。『仮面ライダーゼロワン』でデビューしましたが、当時は俳優になりたいという強い気持ちはあまりなくて。
ご縁があって事務所に入り、俳優のお仕事を続けていくうちに、「これが自分の仕事だ」と思うようになりました。
――調理師の資格をお持ちの一方で、俳優の道に進まれましたよね。芸能界への憧れなどもあったのでしょうか。
仮面ライダーを演じたとき、子どもたちがすごくキラキラした目で見てくれたり、街中で「応援しています」って声をかけていただいたりするようになって。
最初はその感覚が不思議だったのですが、自分が誰かの憧れや目標になることがうれしかったですし、心地よさもあって。次第に「この仕事いいな」と思うようになり、俳優という仕事のおもしろさや、魅力を感じるようになりました。
――俳優デビューから9月でちょうど5年になりました。競争の厳しい芸能界で、いまの成功につながった要因をどう考えますか?
運だけです。周りを見ても、自分自身を振り返っても、人との出会いなど、本当にいろいろな運が重なって今があると思っています。そのなかで、幅広い役の仕事をさせていただいて本当にありがたいです。
――運を引き寄せるのも芸能界で生き残っていくうえで大事な要素であり、それも実力かもしれません。
地元の友人の間でも、「運では文哉に勝てない」と言われています(笑)。
――これまでに挫折のような経験もありますか?
細かいことはたくさんありますが、いろいろな人との出会いや、さまざまな形の助けがあっていまの自分があると思っています。
『あの人が消えた』への出演決めた理由
――出演作が途切れず、仕事のオファーも多いと思います。そのなかから、人気漫画原作などの大規模な予算をかけるエンターテインメント大作ではなく、小規模な作家性の強い作品である『あの人が消えた』を選んだ理由を教えてください。
たしかに公開規模はそれほど大きくない映画ですが、オリジナルの脚本を読んだときに、強烈なおもしろさを感じました。この作品に主演として呼んでいただけたことが本当にうれしかったです。
脚本と監督の水野さんは『ブラッシュアップライフ』を拝見したときから一緒にお仕事をさせていただきたいと思っていましたし、共演者の方々のお名前を見て、とにかく楽しそうだと思いました。
©2024「あの人が消えた」製作委員会
――水野さんらしい、裏の裏の裏まである重層的なストーリーです。ある名作洋画を思わせます。
撮影現場で監督とその洋画を見ながら、合せ技のような感じでやりたい、みたいな話をしていたことがありました。気づく人がどのくらいいるか気になります(笑)。
――叙述トリックによるカタルシスがあり、もう一度見て細部を確認したくなる作品でした。
僕はそういった物語がひっくり返されるタイプの作品が好きです。自分たちが見ていたものが真実ではないと気づいたときの驚きや失望感は、心を揺さぶります。本作にはそういう要素があり、そこには「いま生きている社会の目の前にある現実がすべて真実かと問われたら、決してそうではない」というメッセージがあります。
悔しい思いがいい経験に
――本作からの学びはありましたか?
非常に秀逸なトリックのある物語ですが、そのために、会話の演出やカメラワークをあえてダサく撮っていて。監督はそこにすごくこだわっていました。そういう撮影を間近でさせていただいたのは初めての経験だったので、いろいろなお話をしたことも含めて、とても勉強になりました。
――共演には個性的な俳優の方々が並びました。
これまで同年代や年下の方との共演が多かったのですが、ここ2年ほどでガラッと変わっています。本作でも上の世代の方々とご一緒させていただいて、みなさんの芝居の厚みを知りました。たくさん悔しい思いもしましたが、それがいい経験になりました。
©2024「あの人が消えた」製作委員会
――悔しい思いとは、どんなことですか?
それは内緒です(笑)。本作に限らず、いろいろな作品でけっこうあるんです。先輩方の芝居を見て、台本に対する自分の解釈との違いを痛感したり、その芝居ってどうしたら思いつくんだろうと思わされたり。みなさんの“当たり前”という固定観念を捨てることの能力の高さが身に沁みました。
――本作は、サスペンスでありながら、ホラー的な要素や、コメディタッチの笑いのエッセンスがあり、時代を映す社会性も内包しています。この作品がいまの社会に伝えることをどう考えますか?
僕らの世代も含めて当事者たちにはそれぞれ自分の考えがあり、やるべきことを見つけてようとしている。特に若い世代はそうは見られないこともあるのかもしれませんが、いまが時代の変わり目であって、世代によって見え方が違ってくる。そんななかで、そこにちゃんと順応していきながら、生きている、ということでしょうか。
本作の主人公のように、コロナ禍で人生が変わって屈辱的な思いをしている人もいるかもしれない。それでも人の役に立ちたいと社会に向き合う。いまの生活や仕事に満足していなくても、やらなくてはいけないことはあるし、やっても納得がいかないこともたくさんある。それでも、生きているなかで幸せを見つける能力は誰にでもあるものなので、諦めてほしくない。僕はそういうことを伝えていると思います。
――お芝居をするときに心がけていることはありますか?
“生きる”ことですかね。演じる者と書いて演者ですけど、演じたくない。その場で息をしていたい。そのために必要なのは、事前準備がすべて。事前の練習期間でしっかり準備を重ねていくことが、現場で息をして、いい芝居になると考えています。
――具体的にはどういう準備をされていますか?
役の人となりをすべて理解しようとします。その間の生活すべてにおいて、この役柄だったらどう考えて、何をするかをその時々で当てはめて、自分に問いかけます。そこで感じたこと、生まれたものを現場で生かす。そういう引き出しを持っておくことで、役柄の余白を作ることを意識しています。
――常に役を意識する生活になりそうですが、オンとオフの切り替えはどうしていますか?
ほぼないです。だからといって、ふだんの僕が役になっているかというとそうではない。とくにオンオフの切り替えは意識していませんが、カメラの前でセリフを発した瞬間からスイッチが入る感じですかね。
ただ、暗い役柄を演じてる期間は口数が減ったり、その逆もあります。最近は『伝説の頭 翔』(テレビ朝日系)でヤンキーを演じているから、つい眉間にしわを寄せちゃったり、日常のコミュニケーションにドラマで演じた伊集院翔が入っていたり(笑)。そういう影響はありますね。
――シリアス系の重い作品などは、撮影が終わっても役が抜け切れないことはありませんか?
それはありません。終わればすぐに切り替えます。
息の長い俳優になりたい
――エンターテインメントシーンの第一線を走る高橋文哉さんが芸能界で生きていくうえでの“野望”を教えてください。
このお仕事を辞めないことだけですね。息の長い俳優になって、ずっとお芝居を続けていきたいです。
――いま目標にしていることはありますか?
たとえば、来年こんな作品に出たい、こういう作品で主演をやりたいとか、5年後にはこういう立ち位置にいて、このくらいのポジションになりたいとか、心のなかで思っていることはたくさんあります(笑)。
――この5年を振り返ると、その軌跡をどう見ますか?
自分が目指していた道ではないです。想像を大きく超えて上を行っているので。いまはそこに順応していくのに精一杯です。
――ご自身への世の中の評価は気にしますか?
それを気にしなかったら、この仕事をやる意味がないと思っています。いい評価を受けるためにやっていますが、一方で反対の評価も、自分を見てもらえなければ出てこない。なので、自分のために周りの目を気にするというより、そういう仕事なんだと思っています。
ネガティブなことを言われても気にしない
――エゴサもしていますか?
SNSももちろん見ていますし、周りの人からの言葉も耳にします。でも、僕はポジティブなタイプなので、ネガティブなことを言われても、あまり深くは気にしないです。そのなかで直せるところは直します。「そう感じる人もいるのか」と参考にするという感じです。
――そこから学ぶことや得ることもありますか?
ありますが、ネットやSNSの声は、世の中のごく一部の意見でしかないので。僕を悪く言う人が1割で、よく言ってくれる人が9割だと思っているので、その人たちのためにがんばりたいと思っています。
――芸能界で輝き続けるためにいまやるべきことは何ですか?
これをやれば仕事が増えるとか、人気が出ると思ってやっていることはひとつもありません。常に新鮮な姿を見ていただきたいと思っています。
(武井 保之 : ライター)