日本時間1997年10月15日17時43分、アメリカ・フロリダ州のケープカナベラル空軍基地(当時)から「Titan(タイタン)IV-B」ロケットが打ち上げられました。搭載されていたのはアメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)の土星探査ミッション「Cassini-Huygens(カッシーニ・ホイヘンス)」の探査機「Cassini(カッシーニ)」です。


【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」を搭載して打ち上げられた「Titan(タイタン)IV-B」ロケット(Credit: NASA)】

カッシーニは土星とその環や衛星を詳しく観測するために開発されたNASAの探査機です。全長は6.8mで、地球から遠く離れた土星を探査することから直径4mの高利得アンテナを備え、電源には放射性同位体熱電気転換器(Radioisotope Thermoelectric Generator: RTG)を採用。科学機器としてカメラ、分光計、宇宙塵分析器、磁力計、レーダーなどが搭載されていました。これらの機器類に加えてカッシーニには、濃い大気を有し、生命が存在する可能性も指摘されている土星の衛星タイタンに着陸するESAの着陸機「Huygens(ホイヘンス)」も搭載されていました。


【▲ 打ち上げ前の振動試験・熱真空試験を受ける土星探査機「Cassini(カッシーニ)」(Credit: NASA)】

地球を旅立ったカッシーニは、金星で2回(1998年4月と1999年6月)、地球で1回(1999年8月)、木星で1回(2000年12月)のスイングバイ(※太陽を公転する惑星などの重力を利用して軌道を変更する方法)を実施。打ち上げから7年後の日本時間2004年7月1日に土星を周回する軌道へ入ることに成功しました。


【▲ 土星を周回する軌道に入る土星探査機「Cassini(カッシーニ)」の想像図(Credit: NASA/JPL)】

日本時間2004年12月25日には翌年1月のタイタン着陸を目指してカッシーニからホイヘンスが分離。タイタンの大気圏に突入し、パラシュートを展開して降下したホイヘンスは、日本時間2005年1月14日にタイタンの表面へ軟着陸することに成功しました。2024年9月現在、ホイヘンスはタイタンに着陸した唯一の探査機であり、降下中や着陸後に撮影・取得された貴重なデータをもたらしました。


【▲ 着陸機「Huygens(ホイヘンス)」のカメラで撮影された土星の衛星タイタンの表面(Credit: NASA/JPL/ESA/University of Arizona)」】

一方のカッシーニも、土星の環の複雑な構造をはじめとする土星系の新たな知見につながるデータを次々ともたらしました。ホイヘンスが着陸したタイタンにはメタンやエタンの湖が存在していて、水が循環する地球のように炭化水素が循環する世界であることが判明。別の衛星エンケラドゥスの南極周辺からは水の氷のプルーム(水柱、間欠泉)が噴出しており、氷でできた外殻の下に内部海が広がる可能性も示されました。内部海には生命が存在する可能性も指摘されており、エンケラドゥスはタイタンとともに地球外生命探査の観点から大きく注目される天体となっています。


様々な科学機器による観測のかたわら、カッシーニは土星や衛星の画像を数多く取得しました。幅の広い環を持つ姿が独特の美しさを感じさせる土星はもちろん、様々な衛星もまた一般の人々の心を捉えています。その一部を改めてご紹介しましょう。


【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した土星。2016年4月撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)】
【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した土星。2013年7月撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)】
【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した土星とその衛星タイタン。2012年5月撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)】
【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した土星と真横から見た環、衛星ディオネ。2005年9月撮影(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】
【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した土星の衛星タイタン。2012年5月6日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)】
【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した土星の衛星エンケラドゥス。2005年7月撮影(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】
【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した土星の衛星ミマス。2010年2月撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)】
【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した三日月形に輝く土星の衛星タイタン(右)、レア(左上)、ミマス(左下)。2015年3月撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)】
【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が土星を周回しながら撮影した地球と月(狭角カメラの画像をトリミング・拡大処理したもの)。2013年7月撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/SSI)】

2017年4月、カッシーニのミッションは数か月間にわたる「Grand Finale(グランドフィナーレ)」と呼ばれる最終段階のフェーズに入りました。グランドフィナーレは土星にそれまでになく接近し、未知の領域だった土星本体と環の間を合計22回通過する軌道を飛行しながら観測を行うとともに、地球の微生物が付着している可能性があるカッシーニを最終的に土星に突入させてミッションを終了させるべく計画されました。前述の通り土星の衛星には生命が存在する可能性が指摘されており、推進剤が尽きて軌道を制御できなくなったカッシーニが衛星に衝突して万が一にも汚染してしまうことがないようにするためです。


【▲ 土星本体と環の間を通過する土星探査機「Cassini(カッシーニ)」の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

グランドフィナーレを通じて土星の磁場や内部構造に関する新たなデータを取得し、その近くから雲や環を撮影したカッシーニは、日本時間2017年9月15日に土星の大気圏へ突入。最後の信号は日本時間同日20時55分に受信され、打ち上げから20年にわたる歴史的なミッションは終了しました。カッシーニが残したデータは今も研究が進められており、今後も土星やその衛星についての知られざる事実を私たちに伝えてくれることでしょう。



【▲ 土星探査機「Cassini(カッシーニ)」のグランドフィナーレを紹介した動画】
(Credit: NASA/JPL-Caltech)


 


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NASA - Cassini-HuygensESA - Cassini-HuygensNASA/JPL - Photojournal

文・編集/sorae編集部