今、スポーツバイクを買おうと思っている人なら、誰もが一度は気になるのがグラベルバイクだ。ロードバイクのようなスタイリングに、MTBより少し細いタイヤをセットし、速さと快適性を両立。アドベンチャーライドやツーリングといった競技色の強くない使い道も人気のひとつとなっている。



○オルベア社グラベルのフラッグシップモデル「TERRA M20i TEAM」

今回試乗した「TERRA M20i TEAM」は、オルベア社が手掛けるグラベルバイクのフラッグシップモデルだ。同社はスペイン・バスク地方にある総合完成車メーカーで、モンドラゴングループの傘下にある。



同グループ全体の売り上げは約1兆5800億円(2021年)と大きな規模を誇り、金融、工業、小売り、教育産業において優秀な人材を抱えている。過去にはグループ内から複合素材のスペシャリストを招聘し、カーボンフレームの設計やデザインをさせたこともある。日本ではスペインの中規模メーカー的なイメージがあるが、子ども用自転車から最高級スポーツバイクまで幅広いラインナップを誇る。

さて、最近はロードバイクもワイドタイヤ対応モデルが増え、ちょっとした未舗装路もカバーするようになった。ツール・ド・フランスでもグラベル区間が設定されている日もあるし、問題なく走っている。だが、それはプロの話。当然ながら得意分野ではない。

テラはグラベル専用のジオメトリーとパーツチョイスして、2023年にはフランスの自転車専門誌でグラベルバイク・オブ・ザ・イヤーを受賞したこともある。テラシリーズのフレームはカーボンとアルミがあり、「TERRA M20i TEAM」は軽さと高い剛性を誇る“OMRカーボン”の上位モデルが採用されている。

先日発表された2025年モデルは、機能性に大きく影響を与えるコンポーネントパーツに、シマノがリリースしたばかりの“RX825 GRX Di2”を搭載。これは昨年、発表された機械式変速の“RX820”シリーズの上位モデルで、無線方式の電動変速システムを搭載したグラベル系コンポの最高級モデルである。

グラベル系のライダーは機械式変速を選択する人が多い。トラブル時は機械式の方がなんとか対処できそうだし、転倒や石や岩にぶつける可能性を思えば、コストは安い方がいい。そう考えれば、当然とも言える。だが、価格が同じであれば、電動変速システムのメリットは小さくないどころか、かなり大きなアドバンテージがあるのも事実である。

ロードバイクにDi2が登場した当初は、電動変速システムなぞ不要という意見が多数だった。だが、最早プロロードレースでは、ほぼ100%電動である。機械式では競技で勝てないなんてこともないだろうが、電動式のほうが安楽だし、変速自体も速くて確実だ。短い時間や距離なら機械式でも差を感じないだろうが、その差はエスカレーターと階段ぐらいは違う。

フレアハンドルに対応した形状のコントロールレバーは、手に馴染みやすい形状が採用されている。

オフロードでもチェーンが安定するようにチェーンスタビライザーを装備

チェーンラインを変更し、タイヤクリアランスと泥はけ性を向上させたチェーンホイール

○持っても、乗っても軽快

グラベルバイクの魅力は懐の深さである。アドベンチャーライド的なイベントも増えているし、ひとりでゆっくり走るツーリングバイクとしても活用できる。当然、自転車通勤だってできるし、用途は自由自在。それゆえ、初心者にとって、バイク選びは的が絞りにくいとも言えるが、そこまで厳密に考えなくてもいい。

「TERRA M20i TEAM」の第一印象は、軽さだ。車重も軽いが、重量以上に機敏に動く。直進安定性はしっかりとあるが、ハンドリングのシャープさも失っていない。この気持ち良さは上位モデルの美点で、安価なモデルとの大きな違いだ。

転がり抵抗の小さい純正タイヤのビットリア・テラーノ

タイヤは“ビットリア・テレーノ ドライ 38C”がセットされている。このタイヤ、チューブレスレディというタイヤの内側にチューブのないタイプで、乗り心地がいい。空気圧の下限は2.5barというから、ママチャリよりも空気圧は低い。

トレッドの中央部分は魚の鱗のようなデザインで、転がり抵抗が小さい。ぬかるんだ路面ではグリップやトラクション不足を感じるだろうが、多くの人は舗装路を走っている時間の方が長いだろうし、標準タイヤとしてはいい選択だろう。

700×38Cというサイズも新鮮で面白かった。タイヤのサイズというと横幅ばかり気にしがちだが、太くなれば直径も大きくなる。ロードバイクよりも明らかに大きな外径寸法のホイールは、転がり始めるとジャイロ効果も大きく巡航性がいい。

タイヤ重量は450gとロードバイクと比べると重いが、オフロード用タイヤでサイズを考えれば、かなり軽い部類と言えるだろう。さらに外径寸法が大きい分だけ、ちょっとした路面の凹凸を越えるときのショックが小さい。試乗時は空気圧を3.0barにしたが、メーカー推奨指定空気圧の下限、2.5barでも走行感は重くないだろうし、さらに乗り心地もいいはずだ。

700×45C or 650×50Cタイヤに対応するフレームクリアランス。

フレームのジオメトリーで特徴的なのは、荒れた路面でも快適性を失わないようにホイールベースを長めに、BBドロップを大きめにしている点だ。そして、長めのトップチューブに短いステムを組み合わせ、ハンドリングの応答性を向上させている。なので、真っ直ぐ走って欲しいときには安定していて、曲がりたいときにはスパッとを自転車が向きを変える。

フレームの剛性も、実に適当なバランスを演出している。高級モデルは往々にして剛性の高さをアピールしがちだが、M20i Teamは程よくしなることで上質さをライダーに感じさせる。

たとえば、シートチューブを短くしているのは、シートポストを積極的に動かしてお尻が痛くならないための工夫であり、BB周辺の形状や剛性も過不足内容に調整されている。ぱっと見では分からないが、乗ると良さをしみじみと感じるのは、オルベアのロードバイクにも通ずる美点である。

89万1000円とお世辞にも安いと言えないプライスタグをぶら下げているが、それでも最高級ロードバイクの半額である。しかも、アップチャージなしで、フレームカラーをカスタムできる“MyO”(マイオー)に対応しているので、パーツの構成やサイズも変更可能だ。してみると、かなりお買い得だと言える仕様である。

ダウンチューブにはストレージがある。

菊地武洋 きくちたけひろ 自転車ジャーナリスト。80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。 この著者の記事一覧はこちら