「夏の甲子園ベストナイン」を現地取材記者5人が選出! 強打から堅守へ、新時代で輝いた選手は?
夏の甲子園は、京都国際の初優勝で幕を閉じた。低反発の新基準バットになって初めての夏。大会本塁打数7本が示すように、これまでの打撃戦から一転、1点を争う好ゲームが続出。強打者よりも投手、さらに好守の選手の活躍が目立った。そこでこの夏、現地取材した記者5人に今大会のベストナインを選出してもらった。
2試合連続完封など、圧巻の投球を披露した京都国際の2年生左腕・西村一毅 photo by Ohtomo Yoshiyuki
投手/西村一毅(京都国際)
捕手/石原勇翔(大社)
一塁手/越後駿祐(関東一)
二塁手/柴田元気(東海大相模)
三塁手/花田悠月(智辯和歌山)
遊撃手/市川歩(関東一)
外野手/飛田優悟(関東一)
外野手/上川床勇希(神村学園)
外野手/佐藤洸史郎(青森山田)
しがないライター。プロのスカウトほどの観察眼は望むべくもなく、試合を見ての印象、つまりノルディックの純ジャンプで言えば飛型点(これも、ほとんど飛距離に比例するようだが)からの選出ということをお許しあれ。
ピッチャーは2試合連続完封し、リリーフした準決勝の青森山田戦まで23回連続無失点、決勝も1回を1失点(自責は0)の西村一毅。「止まって見える」というチェンジアップだけでなく、決勝タイブレークの土壇場では、「今日はええ」というスライダーが威力を発揮した。
捕手の石原勇翔は、馬庭優太を支える好リードと、敗れはしたが神村学園との準々決勝で盗塁を3つ刺した強肩、さらに石飛文太監督が、ピンチでのタイムにほとんど伝令を出さないほどの信頼を買った。
一塁手は、準決勝まで打率6割の越後。バッティングだけではなく、むずかしいワンバウンド送球を事もなげに処理し、関東一の攻める守備を盛り立てた。二塁手は同じ関東一の小島想生ら、捨てがたい選手が多かったが、大会第1号ホームランの柴田元気を選出。三塁には、甲子園では1974年の銚子商・篠塚和典以来、木のバットでのホームランを記録した智辯和歌山・花田悠月に敬意を表する。初戦で敗退したが、もうちょっと見たい選手だった。
多士済々のショートは、18打数2安打と打率こそ低くても、「守備でレギュラーをとった」と米澤貴光監督が明言する市川歩。難ゴロをたやすく処理し、いったい何本ヒットをアウトにしたことか。ことに東海大相模戦で見せた、併殺につながるバックトスが芸術的だった。兄・祐は、関東一OBで現在日大のエース。大会前、「エラーするなよ」とLINEをもらい、エラーこそあったものの十分お釣りのくる鉄壁な守備だった。
外野にはやはり関東一から「奇跡のバックホーム」を見せた飛田優悟、5試合すべてで適時打を放った上川床勇希、ケガでセンバツはスタメン落ちながら、大会第2号を放った佐藤洸史郎。関東一が3人を占めたのは、担当する機会が多く、無意識のうちに「飛型点」にゲタを履かせたかもしれない。悪しからず。
準々決勝の東海大相模戦で本塁打を放った関東一の4番・高橋徹平 photo by Ohtomo Yoshiyuki
戸田道男氏(編集兼ライター)
投手/西村一毅(京都国際)
捕手/東野達(小松大谷)
一塁手/國光翔(早稲田実)
二塁手/小島想生(関東一)
三塁手/高橋徹平(関東一)
遊撃手/才田和空(東海大相模)
外野手/佐藤洸史郎(青森山田)
外野手/入耒田華月(神村学園)
外野手/長谷川颯(京都国際)
低反発の新基準バットの採用で、従来に比べ、投手優位の傾向がみられる大会だった。投手部門には、そのトレンドに乗って無双の投球を続けた京都国際の2年生左腕・西村一毅を選出。先輩左腕・中崎琉生との「ダブルエース」の一角を担い、2試合連続完封→5イニング無失点リリーフ→タイブレークを1失点で切り抜けた決勝と24イニング自責ゼロで優勝投手になった。捕手の奥井颯太が「分かっていても打てない球」と評するチェンジアップが武器。それでも、決勝ではチェンジアップのキレがいまひとつと見るや、勝負球をスパッとスライダーに切り替えて左打者を抑え切った。感性の鋭さと物怖じしないハートの強さで2025年も甲子園を沸かせる期待十分だ。
捕手は小松大谷の4番で主将の東野達。初戦の明豊戦は先制打を含む3安打3打点。大阪桐蔭戦はノーヒットに終わったが、エース・西川大智を完封に導く好リード。敗れた智辯学園戦は再び3安打と、攻守に存在感を見せ続け、強豪を撃破する快進撃を後押しした。
強打者ぞろいの一塁手に早稲田実の2年生・國光翔を選ぶのは守備面の貢献度から。鶴岡東戦、大社戦ともタイブレークのピンチにバントシフトで好守を連発。西東京大会まで外野手の背番号を着けていたとは思えないほど一塁守備に天性の職人ぶりが垣間見えた。
二塁手はいぶし銀の攻守を見せた関東一の小島想生、三塁手は関東一の主将で主砲の高橋徹平。東海大相模戦で高校通算61号の先制本塁打を放った高橋は苦手の三塁守備でも努力を重ね、ナインの信頼をつかんだ。
逸材が多く最大の激戦区の遊撃手部門で推すのは東海大相模の才田和空。1番を打ち地方大会で打率6割超に加え、守備範囲の広さは周辺視野の広さのなせる業。広陵戦でショートゴロを処理したとき、一塁送球とかぶりそうな場所にいた二塁塁審に手で合図をして頭を引っ込めさせたシーンは忘れられない。
外野手は1、2番タイプで本塁打を記録した青森山田・佐藤洸史郎と神村学園・入耒田華月のふたりを選出し、3人目は京都国際の右翼手・長谷川颯。同じ2年生の西村と投手の座を争ってきたが、春から野手に専念。準決勝・青森山田戦では決勝タイムリー&三塁返球のレーザービームの活躍を見せた。
大社の93年ぶりベスト8の立役者となったエース・馬庭優太 photo by Sankei Visual
元永知宏氏(ライター)
投手/馬庭優太(大社)
捕手/奥井颯大(京都国際)
一塁手/國光翔(早稲田実)
二塁手/三谷誠弥(京都国際)
三塁手/高崎亘弘(早稲田実業)
遊撃手/藤本陽毅(京都国際)
外野手/上川床勇希(神村学園)
外野手/飛田優悟(関東一)
外野手/藤森海斗(明徳義塾)
今大会のホームラン数はわずか7本。大量得点が望めないために、緊迫したしのぎ合いが数多く見られた。早稲田実業と大社はその代表的な試合だろう。ひとつの四球、守備の綻び、ランナーの判断が勝敗を左右することになった。
京都国際の中崎琉生、西村一毅、関東一の畠中鉄心、鶴岡東の桜井椿稀など左投げの好投手が目立つなかで、ひと際強いインパクトを残したのが大社の馬庭優太だ。4試合で投げた492球すべてに渾身の力を込めていたように見えた。複数投手による継投策はもう当たり前、こんなエースらしいエースはもう出てこないかもしれない。
捕手は複数投手を巧みにリードした関東一の熊谷俊乃介、京都国際の奥井颯大、早稲田実業の宇野真仁朗を完璧に封じた億田知輝の3人で迷ったが、優勝校に敬意を表して奥井を選出。
一塁手の國光翔のバント処理における身のこなしのよさと送球の速さ、正確性は見事というしかなかった。接戦やタイブレーク制で勝つためのお手本となるプレーだった。関東一のセンター・飛田優吾が見せた、準決勝・神村学園戦9回裏のバックホームも、後世に語り継がれる価値がある。
最後に、早稲田実業と大社との試合で、途中出場したふたりの名前を挙げたい。9回のサヨナラ負けのピンチで5人目の内野手としてゴロを処理した早稲田実業の西村悟志、延長11回に代打で三塁線にバントを決めた大社の安松大希だ。今後も1点を巡る接戦が多くことが予想されるなかで、彼らのような仕事人の働きが勝利のカギを握ることになるだろう。
健大高崎の強肩、強打の捕手・箱山遥人 photo by Ohtomo Yoshiyuki
田尻賢誉氏(ライター)
投手/西川大智(小松大谷)
捕手/箱山遥人(健大高崎)
一塁手/佐坂悠登(智辯学園)
二塁手/小島想生(関東一)
三塁手/日賀琉斗(東海大相模)
遊撃手/市川歩(関東一)
外野手/上川床勇希(神村学園)
外野手/入耒田華月(神村学園)
外野手/長谷川颯(京都国際)
投手は、大阪桐蔭を92球で5安打完封した小松大谷の西川大智。球速は130キロ台と平凡ながら、走者なしでもボールを長く持って間を変え、クイックを交えてタイミングを外す投球は見事だった。ぜひ、全国の高校生投手は参考にしてもらいたい。
捕手は健大高崎の箱山遥人。智辯学園戦では一塁手の森山竜之輔と息の合ったサインプレーで、一塁ランナーをけん制で刺した。バントの打球に勢いよく飛び出してのランニングスローと守備で成長を見せた。今年の健大高崎は秋の関東大会で負けて泣くほどの熱いチームだったが、その熱量も箱山が雰囲気をつくったからこそ。キャプテンとしての姿勢もすばらしかった。
一塁手は智辯学園の佐坂悠登。初戦の岐阜城北戦では5安打と、振ればヒット状態。俊足ではないが、投球がワンバウンドになると見越して軌道でスタートする走塁も見せた。二塁手は関東一の小島想生。球際の強さは、すばらしいのひと言に尽きる。明徳義塾戦の勝利は小島のファインプレー抜きには語れない。
三塁手は東海大相模の日賀琉斗。雨が少なく、高く跳ねる今夏の甲子園で難しいバウンドをいとも簡単にさばく守備力は圧巻だった。遊撃手は優勝した京都国際の藤本陽毅と迷ったが、好守を連発した関東一の市川歩。打力こそないが、その分、失点を何点防いだか。小島との二遊間コンビがいなければ関東一が決勝まで勝ち上がることはなかった。低反発バット元年にあらためて守備の大切さを教えてくれた。
外野手は神村学園からふたり。左翼手・上川床勇希は167センチ、中堅手・入耒田華月は166センチとともに小兵だが、徹底して逆方向を意識する打撃で内からバットを出し、結果を残した。上川床は22打数11安打の打率5割、全試合で打点を挙げる活躍。入耒田は中京大中京戦で貴重な本塁打を放った。
右翼手は京都国際の長谷川颯。元投手で強肩を期待されながら、センバツの青森山田戦ではバックホームで刺せず悔し涙。準決勝で再戦した青森山田戦では劣勢の6回表に同点の2点タイムリーを放ち、その裏は一塁から三塁を狙った走者を見事な返球で刺してリベンジを果たした。
華麗な守備で甲子園を沸かせた関東一の遊撃手・市川歩 photo by Sankei Visual
菊地高弘氏(ライター)
投手/田近楓雅(智辯学園)
捕手/奥井颯大(京都国際)
一塁手/原田純希(青森山田)
二塁手/柴田元気(東海大相模)
三塁手/田西称(小松大谷)
遊撃手/市川歩(関東一)
外野手/上川床勇希(神村学園)
外野手/藤原佑(大社)
外野手/安井康起(報徳学園)
これほど「左投手のチェンジアップ」が存在感を放った大会も記憶にない。決勝戦に進出した京都国際の西村一毅(2年)、関東一の畠中鉄心は象徴的だった。圧倒する剛速球がなくても、打者をのめらせてフルスイングをさせない。「低反発バット時代」を生き抜くためのひとつの方法を示したような気がしてならない。
そのなかでも健大高崎、大阪桐蔭ら強豪がひしめいた「死のゾーン」を勝ち上がった智辯学園のエース左腕・田近のチェンジアップは印象深かった。田近に1失点と封じられて春夏連覇を阻まれた健大高崎の打者は「あんなチェンジアップを初めて見ました。対策のしようがないですよ」と語っていた。まさに「初見殺し」の必殺球だった。
今大会は好捕手も多かった。U−18代表に選出された箱山遥人(健大高崎)、熊谷俊乃介(関東一)はもちろんだが、全国制覇へと牽引した京都国際・奥井颯大のキャッチングに強く惹きつけられた。いかにも脱力した構えで、ミットを下から上へと扱うフレーミング。ミットにボールが吸い込まれる感覚で、「投手は投げやすいだろうな」とうらやましさすら覚えた。フレーミングにかけては坂本誠志郎(阪神)を彷彿とさせた山下諒太(石橋)、低い軌道で正確なコントロールの二塁送球を披露した青森山田の橋場公祐も印象深い。
一塁は、石橋戦でバックスクリーン右に特大の一発を叩き込んだ原田。二塁には攻守で存在感を示した柴田を選出。三塁は、大阪桐蔭戦で貴重な追加点となる一打を放ち、なによりフルスイングが印象的だった小松大谷の田西称。
上位進出校はどのチームもすばらしい遊撃手がいたが、とりわけ関東一・市川歩の守備は神がかっていた。記録上はすべて「遊ゴロ」なのだが、難しいバウンドでのハンドリング、ボディバランス、正確な送球、1プレー1プレーの密度があまりにも濃かった。打者としては17打数2安打に終わったのが些末に思えるほど、貢献度は計り知れない。遊撃手の重要性をあらためて思い出させてくれた。
外野手は、準決勝の神村学園戦で奇跡のバックホームを見せた関東一の飛田優悟など印象に残る選手が多かったが、シュアな打撃が光った3人を選んだ。