【夏の甲子園】本塁打激減の大会でスカウトの目に留まった5人の強打者は?
夏の甲子園 スカウトの選手評/打者編
2024年夏の甲子園は、準決勝が終わった時点で本塁打はわずか7本。低反発の新基準バットの影響をまともに受けた格好となったが、そのなかでスカウトたちの目にとまった打者はいたのか? 4人のプロスカウトに話を聞いた。
打撃だけでなく、積極的な走塁も評価された花咲徳栄の石塚裕惺 photo by Ohtomo Yoshiyuki
チームは初戦敗退だったが、上位候補として真っ先に名前が挙がったのが、花咲徳栄の石塚裕惺。シングルヒット1本に終わったが、盗塁とタッチアップで間一髪セーフになった走塁でアピールした。
「バッティングは、今年の高校生ではトップクラスというのは間違いないです。打球スピード、スイング速度、振る強さなど、バッターとしての才能はある。ただ、プロで速い球、速くて小さく曲がる球にはちょっと苦労するかもしれないね。とはいえ、守備で生きるタイプじゃない。ショートとしてよりも、バッティングを生かしてコンバートしたほうがいいのかな。サードとかセンターとかね。足も速いし、上位候補じゃないかな。右投げ右打ちの内野手は人気が上がりますから」(パ・リーグスカウトA氏)
「腕っぷしの強さと存在感があるのは魅力。ただ、外側からバットが入ることがあるので、木製のバットを持った時に苦労するかもしれないですね。守備もショートではなく、サードに落ち着くかな。そうはいっても、サードでもやっていけるぐらいの打力はある。プロでは中距離タイプだと思うけど、コンタクト能力もあるので内川聖一クラスの打者になる可能性はあると思います」(セ・リーグスカウトB氏)
「総合力が高い。バッティングは広角に打てるし、コンタクトする能力が高い。走塁の意欲もある。守備については、守備範囲はそこまで広くないし、全体的に硬い印象がありますが、しっかりこなせている。大きな欠点のない選手だと思います」(パ・リーグスカウトC氏)
健大高崎をセンバツ優勝に導いた箱山遥人も、高校ナンバーワン捕手として高い評価を集めた。夏は一塁走者をけん制で刺したり、素早いバント処理を見せたりと守備でアピールした。
「スローイングがいいですね。体勢がよくないのにアウトにしたり、バント処理にランニングスローで投げたり......ああいうのは能力ですよね。春からのスローイングの成長に、目を見張るものがあります。あれだけアウトにできるということは、力任せじゃなく、技術が上がっている証拠。バッティングは引っ張り中心だけど、当たれば大きいのが打てるし、フォームも悪くない。それに配球を読んでいるのもわかります。ロッテの田村龍弘みたいなイメージがあります。キャッチャーをほしい球団はいくらでもありますから、志望届を出せば指名されるのは間違いないと思います」(セ・リーグスカウトB氏)
「強肩でいいキャッチャーですよね。夏は制球力が上がって、ベースの上に投げられるようになった。キャッチャーとして落ち着きも出たし、プロでもレギュラーになれる力はある。バッティングはまだ時間はかかるでしょうけど、以前よりもよくなっている。ピッチャーが打たれた時に、『オレがなんとかしてやる』という気持ちが出てくれば、もっといいキャッチャーになるんじゃないかと思います」(パ・リーグスカウトC氏)
早稲田実業の強打の遊撃手・宇野真仁朗 photo by Ohtomo Yoshiyuki
このほかに、スカウトたちの注目を集めたのが遊撃手のふたり。攻撃型の早稲田実業・宇野真仁朗と守備型の宮崎商・中村奈一輝だ。宇野は木製バットでフェンス直撃の打球を放ったのに加え、シングルヒットの打球を二塁打にする好走塁を見せた。
「宇野くんはスイングスピードがあるし、やみくもに振っているわけじゃないのがいい。初戦の2打席目にレフトフェンス直撃の打球を放ったけど、あの打席はしっかり粘って、中身が濃かった。変化球待ちのなか真っすぐへの対応だったり、器用さを感じました。それにレフト前ヒットを放ち、相手のポジショニングを見て二塁打にしたり......野球IQの高さを感じます。守備については、一歩目のスタートがいいし、ボールへの入り方もいいけど、ポジションの適正としてはセカンドかなという気がします」(パ・リーグスカウトA氏)
「打撃に関して、すごく興味を持っていて、強いこだわりがあるのを感じます。フォームもそうだし、打席に入るまでの準備とか、行き当たりばったり感がない。当然、凡打はあるわけだけど、意味のある打席を繰り返す選手だなと思いました。緩い球を苦手にしている印象があるけど、それも克服していきそうな雰囲気を感じます。ただ、ショートとしてプロでやっていけるかといったら、現状ではちょっと難しいかもしれません」(パ・リーグスカウトC氏)
「バットは振れるし、肩口のボールに手を出せるし、勝負強さもある。打者としては、すばらしい選手です。問題は二遊間を守れるかどうか。ファースト、サードだと相当打たないといけないですからね」(セ・リーグスカウトD氏)
宮崎商の中村は試合中に足をつり本来のパフォーマンスは発揮できなかったが、守備で高評価を得た。
「守備は抜群にいい。高校生のなかではトップレベル。守備型のショートとして評価されると思います。バッティングはタイミングの取り方は悪くないけど、スイングが弱い。現状では下のほうで指名されるのではないでしょうか」(セ・リーグスカウトB氏)
「守備はいいし、肩も強い。体の強さもあって、ポテンシャルの高さも感じる。面白い存在の選手です。ただ、木製のバットに変わった時に対応できるのかどうか。変化球の対応もまだまだですし、少し時間がかかるかもしれないですね」(パ・リーグスカウトC氏)
神村学園の不動の4番・正林輝大 photo by Ohtomo Yoshiyuki
外野手で唯一、名前が挙がったのが神村学園の正林輝大だったが、今大会は大不振に陥り、やや評価を落としてしまった。
「去年はすごくインパクトがあって、すばらしい選手だと思いました。コンタクト能力、ボールを捉える能力が高い。ただ、足と肩がそこまであるわけではないので、よほど打たないと厳しい。悪い選手ではないけど、指名を躊躇する球団は多いと思いますよ」(セ・リーグスカウトB氏)
「プロ志望の高校生外野手では、ナンバーワンでしょう。スイングがすばらしいし、プロで1、2年やればそれなりに打つんじゃないでしょうか。鈍足に見えるけど、意外と走れるし、楽しみな選手ですよね」(パ・リーグスカウトC氏)
このほか、プロ志望届を出せば支配下での指名確実と言われた大阪桐蔭・境亮陽、大型遊撃手として攻守に存在感を見せた滋賀学園の岩井天史は、大学進学を表明している。
一昨年は甲子園を沸かせた高松商のスラッガー・浅野翔吾が巨人から1位指名され、昨年は甲子園でインパクトを残せなかったものの上田西の横山聖哉がオリックスから1位指名を受けた。チームによって獲得したい選手はさまざまで、もしかしたら今回挙げた選手のなかからドラフト1位で指名される選手が出てくるかもしれない。
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