夏の甲子園 スカウトの選手評/投手編 

 低反発バットの導入により、"投高打低"が顕著となった第106回全国高校野球選手権大会。プロスカウトから「今年は候補が少ない」という声も聞こえてきたが、それでも楽しみな選手が出てくるのが甲子園。強豪校が次々と敗れる波乱の大会で、スカウトの目に留まった逸材は誰なのか? 今回、セ・パそれぞれふたりずつ計4人のスカウトに話を聞いた。まずは投手編から。


初戦で敗れたが、スカウトから高い評価を得た報徳学園・今朝丸裕喜 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【ドラフト上位候補のふたり】

 投手のなかで最も高く評価されたのが、報徳学園の今朝丸裕喜。この夏は初戦敗退に終わったが、2年連続センバツ準優勝と甲子園でも実績を残しており、スカウトの評価は揺るがない。

「バランスがよく完成度が高いから、入団後も順調な成長が見込めるね。これだけ大型(188センチ、80キロ)なのに、不安な点がない投手は珍しい。打者を見ながら投げているし、自ら崩れたりしないのは立派。ピンチになってもバタバタするところがなく、淡々と投げるからよく見える。(ドラフト2位までの)上位24人に入ってくるんじゃないかな」(パ・リーグスカウトA氏)

「持っているものはすばらしい。あれだけの長身なのに、指先の感覚がいいのはなかなかいない。フォーム的にも体重移動がしっかりできていて、腕が走る。右バッターのインコースに続けて投げられる気持ちの強さもいいね。あとは体を強くするだけで、プロで通用するというイメージが湧くよね」(セ・リーグスカウトB氏)

「もともとリリースの感覚があるし、いいピッチャーですね。ボールも、センバツの時よりよくなっていた。コントロールがいいし、馬力もある。ピッチャーとしてのセンスがあるから、プロでも十分やっていけるでしょう。上位候補だと思います」(パ・リーグスカウトC氏)

 今朝丸に次いで高い評価を得たのが、東海大相模の藤田琉生。198センチ、96キロの大型左腕だけに、将来性を推す声が多かった。

「希少な存在ですよ。198センチの身長はもちろんだけど、そこから投げる角度がいい。ボールも強いし、ナックルカーブがいい。彼は6月になって急によくなったんだよね。二段モーションにしたら急によくなった。そういうことがあるのが高校生。伸びしろは魅力だね。ただ、体力に少し不安がある。暑いのはあるけど、途中でへばってしまう。神奈川大会の決勝でも途中で降りたしね。まあ、体力はプロに入ってからつければいいから、それも含めて魅力なんだけど。コントロールも悪くないし、変化球も投げられる。しかも2メートルの左腕......そんなピッチャー、そうはいないですよ」(セ・リーグスカウトD氏)

「とにかく可能性を感じます。左で、しかもあのサイズでスピードが出る。1カ月くらい前は、アベレージの球速が135キロから140キロぐらいだったんだけどね。変化球もカーブであれだけストライクを取れるのがいい。現状、まだ完成度は低いけど、将来が楽しみ。上位から真ん中ぐらいで指名があるかもしれない」(パ・リーグスカウトA氏)

「春はよくなかったけど、6、7月で一気に伸びてきた。身長は198センチあるけど、腕の振りはコンパクトだし、球速もあって、変化球もしっかりコントロールできている。体が硬そうなのが少し心配だけど、体力がついてくればもっとスピードも出るだろうし、上位候補でしょう」(パ・リーグスカウトC氏)


関東一の最速151キロ右腕・坂井遼 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【関東一の151キロ右腕・坂井遼の評価は?】

 下級生の時から名前が挙がっていたのが、広陵の高尾響。4季連続で甲子園のマウンドを踏むなど、実績は十分。だが、昨年春はベスト4に進出したものの、今年は春は2回戦、夏は3回戦敗退と力を発揮できずに終わった。

「ピッチングと人物は最高ですね。すばらしい。ただ残念だったのが、春よりも真っすぐの威力が落ちていたこと。春は突き抜けるような真っすぐを投げていたけど、この夏は普通でしたね。プロで年間を通して投げることを考えた時に、これは厳しいですよね。評価できるのは、高いテクニックと意識。ギアが三段階ぐらいあって、ちゃんと使い分けられている。これができる高校生は、そういないですよ」(セ・リーグスカウトB氏)

「高校生ではトップランクのピッチャー。ただ、プロに入るとどうか......。真っすぐが特別すごいかといったらそうではないし、針の穴を通すコントロールがあるかといったらそうでもない。ただ、熊本工戦の9回に投げた左打者への内角のストレートはすばらしかった。ああいう"渾身の一球"を投げられるというのは、アピールできたと思う」(パ・リーグスカウトC氏)

「完成されている。めちゃくちゃいいピッチャーですよね。熊本工戦で投げた左バッターのインコースへのストレートはしびれました。思わず声が出るぐらいいい球でした。あの球を増やせるかどうかでしょう。それができれば、攝津正(元ソフトバンク)のようになる可能性がある。ただ、やっぱり身長172センチとサイズがないので、1年間投げる体力を考えると厳しいかもしれません」(セ・リーグスカウトD氏)

 準々決勝の東海大相模戦で自己最速の151キロをマークした関東一の坂井遼は、投げっぷりのよさで評価を上げた。

「この夏、印象が変わった投手のひとりです。スピードがあって、ボールの強さもある。真っすぐの質がよくなりました。スライダーもいい曲がりをしていました。抜いた真っすぐを投げていたのでどうかなと思っていたのですが、それもよく言えば相手を見て投げているということ。もっと真っすぐを磨いて、体をつくったら面白い。育ててみたいという球団は多いかもしれないですね」(パ・リーグスカウトA氏)

「身体能力に比例したボールを投げる投手ですね。真っすぐとスライダーを勢いよく投げてくる。スライダーの曲がりはいいから、その球でしっかり空振りが取れるかどうか。これからどんどんよくなっていくピッチャーだと思いますね」(セ・リーグスカウトB氏)

「140キロ台後半の真っすぐだけじゃなくて、抜いた真っすぐを多く投げている。考えてやっているんだろうけど、それはプロの世界では通用しない。ただ、初戦で見せたパフォーマンスは高かった。潜在能力の高さを感じるし、いいピッチャーですね」(セ・リーグスカウトD氏)


大会前はノーマークだった聖カタリナの有馬恵叶 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【夏の県大会が公式戦デビューの新星】

 今回、唯一ノーマークの存在からドラフト候補に浮上したのが、聖カタリナの有馬恵叶。190センチ、78キロの大型右腕で早くから注目されていいように思えるが、高校での公式戦デビューがこの夏の県大会というから無理もない。

「夏に出てきたばかりで、担当スカウトも評価できない状態。それでも甲子園でしっかり投げるんだから、立派ですね。あの身長で真っすぐの速さとフォークがあるのは魅力だけど、この投手の本当の実力というのがまだわかっていないのが正直なところです。指名するなら、支配下ではなく育成ですかね......」(パ・リーグスカウトA氏)

「楽しみですね。ボールに角度があるというのはいい。しかも縦だけでなく、横の角度もある。変化球にもスピードもあるから、面白いと思います。彼を育成で獲れたらラッキーですよ」(セ・リーグスカウトD氏)

 一方で、「志望届を出せば支配下で指名されるのに......」と、スカウトが残念がった青森山田の関浩一郎は大学進学予定だという。また将来性を期待される興南の左腕・田崎颯士や150キロ右腕・大阪桐蔭の平嶋桂知も大学に進学するという。

 だが、それよりもスカウトから期待の声が挙がったのは、現時点で150キロをマークしている健大高崎の石垣元気、大阪桐蔭の森陽樹のほか、同じく大阪桐蔭の中野大虎、中京大中京の宮内渉吾、木更津総合の川端勝利らの2年生投手。はたして、来年は高校生投手豊作の1年になるのか。彼らの成長に期待した。

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