古江彩佳は五輪代表を逃すたびに逞しく、強くなってきた 永久シードプロが語る彼女のゴルフの真髄
アムンディ エビアン選手権(7月11日〜14日/フランス)で、日本勢4人目のメジャー優勝を飾った古江彩佳。大会直前、パリ五輪のゴルフ競技における日本代表選手の決定が発表され、古江は前回大会の東京五輪(2021年)の時と同様、最終段階で代表入りを逃していた。
東京五輪の際、失意の古江は海外メジャーのアムンディ エビアン選手権で4位という好成績でフィニッシュ。代表漏れの無念を晴らすと同時に、自らのゴルフに対する自信を取り戻した。そして今回、パリ五輪代表を逃した雪辱も、再びアムンディ エビアン選手権で果たした。しかも、メジャー制覇という快挙を遂げることによって――。
日本勢4人目のメジャー制覇を遂げた古江彩佳 photo by Getty Images
まさに悲運を味わうたび、逞しく、強さを増していく古江。あらためて、JLPGAの永久シード保持者である森口祐子プロに話を伺って、彼女のすごさ、強さの理由に迫ってみたい。
「東京五輪では、稲見萌寧さんとの争いに敗れて代表の座を逃した古江さん。母親のひとみさんによると、その直後は『まるで魂が抜けたような状態だった』と言います。その姿を見て心配したひとみさんは、『思いきって、エビアンに出たら』と古江さんの背中を押したそうです。
そうして、エビアンに出場して4位に入った古江さん。自分のゴルフが海外メジャーの試合で通用したことで、自信を取り戻せたようです。さらにそれが、以降の海外での躍進につながっていきました」
森口プロが語るとおり、古江はその年の年末に米女子ツアーのQシリーズ(最終予選会)に挑戦。7位という結果を残して、翌2022シーズンから米女子ツアーに本格参戦。コンスタントに予選突破を果たし、5月のバンク・オブ・ホープLPGAマッチプレーで2位になると、7月のスコットランド女子オープンで米女子ツアーでの初優勝を飾った。
そういった活躍によって、同シーズンの米女子ツアーランキング(CMEグローブ ポイントランキング)は17位。翌2023シーズンも優勝こそなかったものの、トップ10フィニッシュ8回と上位争いを重ねて、年間ランキングは堂々の10位となった。
こうして世界レベルの実力を証明した古江は、世界ランキング(ロレックス ポイントランキング)でも上位をキープ。当初、古江の上をいく畑岡奈紗とともに、パリ五輪代表の本命候補と見られていた。だが......。
「古江さんは、今季もずっと調子がよかったんですよね。初戦から2試合連続で4位タイ、3月のブルーベイLPGAでも3位になるなど、何度も優勝争いに加わっていました。でも、あと一歩足りなかった。オリンピック代表が確定する6月末の全米女子プロ選手権までに勝つことができませんでした。
ですが、3年前と同じく古江さんはエビアンで躍動。まるで"憑き物が落ちた"ように、彼女らしいゴルフを見せてメジャー制覇を遂げたのです」
森口プロが言う"古江らしいゴルフ"とは何か。8月20日現在、古江の平飛距離は251.64ヤードと米女子ツアー129位だが、バーディー数は252個と並み居る世界の強豪を抑えてトップ。そこに、"古江らしい"というゴルフの真髄が隠されている。森口プロが解説する。
「エビアンの最終日、古江さんは4つあるパー5うち、3つのホールでスコアを伸ばしています。この日、多くのイーグルが出ていた9番は2オンも狙えるホールで、刻むか、狙うか、迷いどころでしたが、古江さんは結局刻んで3オン、1パットのバーディー。
15番でもティーショットのキックが悪かったのもありますが、ここも2打目をレイアップ。3打目はグリーンの右奥に乗って、下り順目の10mほどの距離が残りましたが、見事にバーディーを奪いました。あれは入るとは思いませんでしたが、よく打ちましたよね。
以前、古江さんに話を聞いた時に、『自分はウェッジからスイングを作ったり、マネジメントを考えたりしてきた』と言っていました。彼女はそれだけウェッジのショットに自信を持っているので、この9番、15番のロングホールでも、2打目を無理せず、刻むことを選択できた。つまり、"3オン、1パットでバーディーをとる"というマネジメントを持っているということ。それこそ、彼女の強みになっているのです」
ただし、最終18番ホールのロングホールでは、古江は"3オン、1パットのバーディー"という選択をせず、手前に池が待ち受けるグリーンに向かって2オンを狙っていった。その時点で、一緒に最終組を回るステファニー・キリアコウ(オーストラリア)と通算17アンダーで並んでいたが、2オンに成功した古江は、難しいイーグルパットも沈めて劇的な勝利を決めた。森口プロが振り返る。
「手前に池があるグリーンに対して2オンを狙った最終18番パー5。セカンドの残り距離は180ヤード。古江さんのキャディーは打つ前に7番アイアンを勧めたそうですが、彼女は"見た目"で届かないと感じて、6番アイアンで打ちました。
スタンスがつま先下がりの傾斜がかかっていたので、当たりは少し薄くなりましたけど、グリーンぎりぎりにキャリー。そこからは、本人の思ったとおりの傾斜を伝って、ピンそば3mにつけました。
そのイーグルパットを打つ前、彼女は『相手の(キリアコウの)バーディーパットは絶対に入る。もしプレーオフになったら勝てる気がしないので、(このイーグルパットを)絶対に決めようと思い、入れることに集中した』と言います。
この18番ホールでのセカンドショットのチャレンジといい、あのイーグルパットの集中力といい、そこに古江さんのなかで"何か"あったな、という感じを受けました」
古江に"何か"あったとしたら、パリ五輪の代表権に届かなかったことへの思いだろう。
森口プロが先に触れたように、今季は調子がよかった。しかしながら、五輪代表が確定する全米女子プロまでに一度も勝つことができなかった。結果、わずか0.38ポイント差で代表の座を逃がした。
今季の古江は、全米女子プロ終了時点でトップ10入りが8試合。ひとつでも勝っていれば、代表入りは確定していたはずだ。"勝てる時に勝っておけば......"古江自身、そのことはよくわかっていたに違いない。それゆえ、自らのミスを自覚し、パリ五輪での代表落選時には"魂が抜けたような状態"にはならなかった。
そして、オリンピックが終わった今、古江は"ここ"というチャンスを逃さない選手になった。
「エビアンの開催コースは丘陵地に造られたゴルフ場で、フェアウェーに傾斜のあるテクニカルなホールが多く、ただ飛ぶだけでもダメ、正確さだけでもダメ、という我慢強さが求められるんですよね。そういう意味では、日本人向きであり、粘り強い古江さんが得意とするコース。だから、東京五輪代表になれなかったあと、自らの再生の意味でもエビアン出場を選択したことは大正解だと思っていました。
あれから3年後の今回、再び五輪代表争いに敗れたあと、古江さんがどういうチャレンジをするのか、注目していました。代表争いの期間ではそれを意識しすぎて優勝できませんでしたが、今年のエビアンではその争いから解き放たれたというか、(五輪代表争いの最中には)できなかった優勝を狙いにいくというか、そういう気持ちがあったんじゃないかと思うんですよね。
それが、最後の『絶対に入れよう』と思って決めたイーグルパットに表われていたように思います」(森口プロ)
パリ五輪代表争いでは、全米女子オープンで優勝した笹生優花、全米女子プロで2位タイとなった山下美夢有が、当初ランキング上位にいた古江を抜いて代表入りを果たした。古江にしてみれば、"メジャーで受けた傷は、メジャーでしか返せない"と思ったかもしれない。
勝利を決めたあと、「フランスのメジャーで勝てて、(パリ五輪に出場できなかった悔しい)気持ちを晴らせたかなと思います」とコメントした古江。3年前と同じく、五輪代表を逃した悔しさを抱えながら挑んだアムンディ エビアン選手権での奮闘によって、彼女はまたひと回り成長し、逞しくなった。
アムンディ エビアン選手権後に出場したスコットランド女子オープン(8月15日〜18日/スコットランド)でも、古江は3位タイと健闘した。となれば、今季最後のメジャー、AIG女子オープン(全英女子オープン/8月22日〜25日/スコットランド)においても、古江のプレーぶりから目が離せない。