オリックスは8月15日の楽天戦のサヨナラ勝利から4連勝も、クライマックスシリーズ圏内である3位のロッテまで8ゲーム差(8月18日時点、以下同)と厳しい状況が続いている。長らくオリックスのエースとして活躍し、引退後はオリックスの投手コーチも務めた星野伸之氏に、現在のチームの課題や巻き返しのためのポイントなどを聞いた。


今季初勝利を挙げた山下(左)と、その試合で2本塁打を放った杉本(右) photo by Sankei Visual

【崩れていた投打のバランス】

――オリックスは7月中旬から8月にかけて、10連敗を喫しました。なかなか波に乗れなかった理由は?

星野伸之(以下:星野) 単純に得点力不足というのがまずひとつ。ピッチャーはどうしても「0点に抑えなければ」と力んでしまいますし、「1、2点は取られてもいい」とは思えなかったんじゃないかなと。加えて宮城大弥に関しては、山本由伸(ロサンゼルス・ドジャース)が抜けた穴を自分が埋めようとして、精神的につらい部分もあったと思います。

――山崎颯一郎投手、宇田川優希投手の不在も痛いですね。

星野 実績があるふたりの不在は痛いです。ルーキーの古田島成龍や山田修義らはリリーフ陣を支えてくれていますが、颯一郎や宇田川が本来の存在感を示せれば盤石だったわけです。特に宇田川は、ピンチの場面での"火消し役"を担っていました。チームにとって非常に大きな存在でしたし、そういう働きをするピッチャーを作り上げるのは、なかなか難しいですからね。

 先発ローテーションでは、若い齋藤響介や佐藤一磨、ルーキーの郄島泰都らがプロ初勝利を挙げましたが、投げさせても5回までという段階。そのうえ、リリーフは万全かというとそうでもない。打線が点を取れないのであれば、ピッチャー陣が我慢しなければいけませんが、投打のバランスが崩れていましたよね。

――昨年は点が取れない時も、ピッチャー陣が踏ん張っていました。

星野 そうですね。基本的にはピッチャーが最少失点に抑えて、終盤のワンチャンスでひっくり返すのがひとつのパターンでしたから。先発の柱として計算していた東晃平は右肘の手術をしたので今季は投げられないと思いますし、山下舜平大が誤算でしたね。先日の(8月18日の)日本ハム戦でやっと今季初勝利を挙げましたが、彼の状態がしばらく上がらなかったのは痛かったです。先発でもリリーフでも、投げた試合は失点していましたからね。

【今年の山下舜平大が打たれる理由と改善策】

――山下投手はオフにひとまわり体が大きくなりましたが、星野さんは当初からその影響を注視されていましたね。

星野 僕はそこまでウエイトトレーニングをしたことがないですし、体を大きくすることでいいピッチングができるかどうかはわからない部分もあるのですが、筋肉をつけていい部分とつけないほうがいい部分が、おそらく、あるはずなんです。そのあたりは中垣征一郎巡回ヘッドコーチらが気をつけて見ているとは思いますが。

――ピッチングで気になるところは?

星野 今季初勝利を挙げた日本ハム戦ではある程度改善されていたのですが、基本的に真っすぐが高いです。狙って高めに投げているというよりも"抜けて"しまっている感じ。バッターに高めを振らせることができればいいのですが、なかなか振ってくれませんし、緩急がついてる感じもしません。フォークやカーブを引っかけてしまうこともけっこう多いですね。

 球が高い要因として考えられるのは、体を大きくしたことが影響しているのか、上体が少し高いのかなと。それと、腕を振って前でボールをリリースしようとしているのはわかるのですが、腕が少々横振りになっている。だから150キロ台中盤の球速が出ているわりに、見切られるし当てられてしまうんです。

――体が変化すると、いろいろな部分が変わってくる?

星野 そうですね。思ったところでボールをリリースできないと、マウンドからホームまでの18.44mの距離で、バッタ―は「リリースポイントが変わったな」とすぐにわかると思うんです。そこでリリースポイントが見やすくなったならば、「球は速いけどなんとかなりそうだな」という感覚にもなると思います。

――解決策として考えられることは?

星野 ある程度、球数を投げることによって"投げる体"になっていくはずです。たとえば、マラソン選手でもブクブクとした体では42.195kmを走れないじゃないですか。たくさん走ることで体が絞られて、走れる体になる。僕らが現役の頃は投げ込むことで「型」を作り、投げる時の「バランス」を養っていきましたが、今はそこまで投げ込むことはないですからね。

 でも、投げる数を増やすことによって、投げる動作に合った体にはなっていく。そのうちに「体のこの部分が邪魔だな」とか気づくこともあるかもしれません。

――日本ハム戦で投げる姿を見て、春先に比べてだいぶスリムになったようにも見えました。

星野 投げる時のバランスは今季のなかではよかったと思いますし、そういった体の変化がいい方向に作用した可能性はあります。試合序盤は制球を乱していて、修正点はまだまだあると思いますが、このピッチングをきっかけに自信を取り戻せればいいなと。何よりも1勝できたことが、精神面ですごく大きいと思います。

【先発ローテのやりくり、森や杉本もカギに】

――8月17日の日本ハム戦では宮城投手が7回無失点と好投し、久しぶりの4勝目。また、育成出身の2年目・才木海翔投手は16日の日本ハム戦でプロ初先発し、5回1失点と好投と明るい材料が少しずつ増えてきました。

星野 そうですね。ただ、才木や齋藤、佐藤、郄島といった若いピッチャーには「9回まで投げてくれ」とは言えないので、5回、6回まで頑張るという感じにはなります。なので、彼らが投げる試合ではリリーフの枚数がどうしても増えるのですが、長いイニングを投げられる宮城の次の試合は若いピッチャーを先発させるなど、先発ローテーションの順番をやりくりしていく必要があります。

――CS圏内である3位のロッテまで8ゲーム差。ここから巻き返していくためのポイントは?

星野 宮城、アンダーソン・エスピノーザ、田嶋大樹、曽谷龍平の4人がクオリティ・スタート(先発投手が6イニング以上を投げ、自責点3以内に抑えること)の試合をいかに作れるかでしょうね。バッターでは森友哉がカギです。最近は完ぺきなホームランも出始めましたし、甘い球を捉える確率が上がってきた印象です。好調を維持していますから、彼の前にいかに走者をためられるかが重要です。

それと、(8月18日の)日本ハム戦で杉本裕太郎が2打席連続本塁打を打ちましたが、彼が乗ってくるとベンチが盛り上がり、チームに勢いが生まれます。森の後ろで存在感を発揮できるようになってくれれば打線に厚みが生まれ、森と勝負せざるをえない状況になりますからね。

――Aクラスに入るためには、連勝が必要です。

星野 残り試合が少ないですからね。大型連勝が必要になりますし、他力本願になってしまいますが他チームの状態にも左右される状況かと。とにかく、まずは勝率を5割にしないとAクラスは見えてきません。

ただ、ここにきてやっと投打がかみ合い始めましたし、昨年強かった時のような試合運びも見られるようになってきました。バッター陣には、今まで打てなかった分を挽回してほしいですし、ピッチャーに勝ちをつけてあげてほしい。全員で意地を見せてほしいですね。

【プロフィール】

星野伸之(ほしの・のぶゆき)

1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。