欧州主要リーグのシーズン開幕に伴い、フランスリーグも新たなスタートを切った。スタッド・ランスを今季から率いるルカ・エルスネル監督は、ホームにリールを迎えた開幕戦で4-3-3システムを採用。3トップは昨シーズンと大きく変わることなく、右に伊東純也、左に中村敬斗を据えた。


フランスで3年目を迎えた伊東純也 photo by Watanabe Koji

 大事が起きたのは、試合開始から11分が経過した時のことだった。

 ランスのGKイェヴァン・ディウフが大きく前方にボールを蹴り出すも、リールとの競り合いに負けて左サイドから攻撃を受ける状況となる。その際、ランスのアマドゥ・コネとリールのアンヘル・ゴメスが空中戦で激しく衝突。ゴメスは不自然にピッチに倒れ(というよりも落下し)、意識を失った。

 ピッチ上で30分強にわたる治療が行なわれたが、そのまま救急車で緊急搬送。幸いゴメスは病院で意識を取り戻し、夜の間に家に帰ることができたとリールの公式SNSが伝えている。

 その後、ゴメスは「もうヘディングで飛び上がらないように、僕自身に言っといて」とインスタグラムで無事を報告。ゴメスは現在、フランスフットボール協会の定める脳震盪プロトコルに入っているという。

 この一連の流れを、伊藤は至近距離で見ていた。

「目の前で見ていたので、ちょっと落ち方とか危ないなと。けっこう(衝突が)すごかったなと、近くで見ていて思いました」

 ゴメスの治療が行なわれる間、試合は長時間にわたって中断した。異例の状況のなか、小雨が降るピッチ上で選手たちは各自、体を動かしていた。

「ペース(を崩した)というか、身体も冷えましたし、メンタル的にも難しかったですね」(伊東)

 ゴメスと激突したコネは、このプレーで一発レッドカード。退場後の中継画面には、うなだれたコネの姿が映し出されていた。翌日、コネは意識を取り戻したゴメスとの2ショットをインスタグラムに掲載し、「(意識を取り戻すニュースを)待っていた。ピッチ上で仲間を傷つけたくはなかった」と投稿。まだ19歳のコネにとって、ショッキングな出来事だったようだ。

【伊東は不慣れな1トップで「らしさ」出せず】

 結果的にコネが退場したスタッド・ランスは、残り80分ほどを10人で戦うことになった。

 前半は守勢にまわり、じっと耐えて0-0のまま折り返すかに思えた。しかし、試合中断のため30分以上も追加されたアディショナルタイムの前半75分、コーナーキックの流れからバフォデ・ディアキテが左足で蹴り込み、リールに先制を許してしまう。

「めっちゃきつかった。なんとか粘っていたんですけど、セットプレーで1本やられてしまった......。最後の最後で失点。ただ、チャンスも作れていなかったので、10人になってからの戦い方もあったんじゃないかとも思います」

 伊東は前半終了間際の失点を悔やみつつ、攻めきれなかった自分たちの戦い方も反省した。

 10人になったランスは4-4-1システムに変更し、伊東を1トップに置いた。だが、チームとして慣れないことでもあったため、ゴールまでの形を作ることができず、伊東のシュート数も2本に終わった。

「監督は『前半はがんばって守備をして、後半は攻撃にフォーカスしてワンチャンスを狙おう』と話していた。攻撃のところでうまくボールを受けてチャンスを作れればよかったですけど、ちょっと難しかったですね。裏に抜けてのワンチャンスとか、何回かミスったところもあったし」

 1トップでのプレーについて伊東は苦笑いで話しつつ、センターバックを背負った形では「らしさ」を見せることは難しかったようだ。

 一方、中村は72分に退いた。10人になったことで、中村はフォワード的な動きではなく中盤としてのプレーを求められ、仕掛けよりもつなぐことを意識するように言われたという。

「ゲームを組み立てるミッドフィルダー的な役割を求められて、なかなかゴールに迫るチャンスがなかった」

 伊東と同じく、中村も持ち味を発揮できたとは言いがたい試合になってしまった。

 伊東は試合後、自身の騒動について問われると「まだ(完全に)クリアになったわけではない。でも、昨季はフランスで静かにできましたし、ストレスなく生活できたかな。(中村)敬斗もいましたし。(クラブが)信頼してくれた」と心境を話した。

「スッキリしたか?」との質問には「特にそんなのはない」と、なんとも言えない表情を見せた。

 今後は日本代表への復帰も期待されるが、「まだわからないので、とりあえずこっち(スタッド・ランス)でやるしかない」と、あくまでピッチで勝負するのみだと話した。