夏の甲子園もベスト8が出揃い、いよいよ大詰めを迎える。健大高崎(群馬)、報徳学園(兵庫)、大阪桐蔭といった有力校が次々に姿を消す"大波乱"のなか、激戦を勝ち抜いた青森山田、東海大相模(神奈川)、関東一(東東京)、滋賀学園、京都学園、智辯学園(奈良)、大社(島根)、神村学園(鹿児島)のなかから優勝を果たすのはどこか? 夏の甲子園を取材した気鋭の記者5人に優勝校を予想してもらった。


(写真左上から時計回りに)東海大相模・藤田琉生、青森山田・関浩一郎、神村学園・正林輝大、京都国際・中崎琉生

楊順行氏(ライター)
優勝予想:東海大相模

 推しは、東海大相模(神奈川)。198センチ左腕の藤田琉生、2年生右腕・福田拓翔はいずれも150キロに迫る。藤田は2試合13イニングを無失点、福田は1試合2イニングを無失点。藤田は富山商戦では13三振を奪っているが、決して力投型ではなく、ナックルカーブなども交えてクレバーに、テンポよく投げるタイプに見える。日程にも恵まれて、余力たっぷりだ。

 打線は、ひとつのヤマと見られた広陵(広島)戦で12安打8得点。本調子を欠いたとはいえ、大会屈指の高尾響から集中打での5得点は迫力十分だった。ことに、元プロの原俊介監督が「ミート力、ピッチャーとの間の取り方、タイミングの合わせ方など、マネのできないセンス」と評する中村龍之介(2年)は、この試合の4安打4打点を含め、2試合で9打数6安打と乗っている。

 ほかにも、富山商戦で大会第1号本塁打を放った柴田元気(2年)はその試合の打順が8番(広陵戦は2番)と、下位までスキのない打線だ。

 相模が準々決勝で対戦するのは関東一(東東京)で、試合巧者の明徳義塾(高知)に競り勝ったしたたかなチームだ。ただ、むろん比較はできないが、優勝した2015年は準決勝で対戦して10対3と圧倒している。

 また相模は、甲子園での準々決勝以降にはめっぽう強い。準々決勝は春夏つごう11回戦って9勝2敗、準決勝は8勝1敗。ことに夏の準決勝は3戦無敗なのだ。

 ほかの準々決勝の組み合わせを見ると、第2試合は、3回戦に152キロ右腕・関浩一郎を温存した青森山田は打線のレベルも高く、やや有利か。第3試合は、3回戦で敗れた西日本短大付(福岡)の西村慎太郎監督が「いやぁ、強い。勉強になりました」という京都国際に分があると見る。

 気になるのは、神村学園(鹿児島)だ、県立勢が躍進した今大会の象徴といえる大社(島根)は、エース・馬庭優太が頼りだが、神村学園は3回戦で岡山学芸館の沖田幸大に対してそうしたように、球数を費やさせるはず。日程的に、エース・今村拓未が投球数制限に引っかりそうなところ、3回戦を今大会初登板の2年生・早瀬朔が完投したのは大きい。

 で、結論。組み合わせ抽選にもよるが、東海大相模と神村学園の決勝になり、相模がVというのが私の予測である。

戸田道男氏(ライター兼編集者)
優勝予想:青森山田

 大会前の予想記事で青森山田を最有力に挙げたが、幸いにもまだ勝ち残っているのでその予想は曲げずにいきたい。

 青森山田は2回戦から登場して、初戦は長野日大に9対1の快勝。1番・佐藤洸史郎の本塁打などで大差がつく展開になったが、注目のエース・関浩一郎が9回をひとりで投げ切った。3回戦の石橋(群馬)戦は、センバツでベンチ外だった2年生右腕の下山大昂が先発し、同じく2年生の菊池統磨から「二枚看板」のひとり・櫻田朔へとつないで3投手の完封リレー。初回には4番・原田純希が中堅バックスクリーン横に特大の2ランを打ち込んで先制。終始試合の主導権を握って5対0で逃げ切った。

 ベスト8入りを決めたこの2試合はまさに盤石の戦いぶりで「青森山田強し」を甲子園のファンに印象づけた。予想を変えないことは変えないのだが、本当の勝負はここからだ。

 準々決勝で対戦する滋賀学園は、ドラフト候補の3番ショート・岩井天史を中心に地力十分なうえ、攻守ががっちりかみ合って勝ち上がってきた難敵だ。2戦目を休養にあて、満を持して登板する関が万全の投球をすることが勝利への絶対条件になるだろう。

 打線は2試合とも本塁打が出て活発に打ちまくってはいるが、「木製バットコンビ」の3番・對馬陸翔が1安打、5番・吉川勇大はノーヒット。タレント揃いの重量打線が額面どおりの力を発揮するには、このふたりと4番・原田を加えたクリーンアップトリオの活躍が必要不可欠だ。

 また、仮に準々決勝を関の力投でものにしたとして、決勝まで戦うとすれば、準決勝はできるだけ関の消耗を避けた投手起用にならざるを得ない。とくに、新チーム結成以降、関とエースナンバーの座を争ってきた櫻田の投球がポイントになるか。

 準決勝に関が投げず、中3日で決勝のマウンドに上がるのが最も理想的な展開。152キロ右腕の関が万全の状態で投げるのであれば、どこが相手でも勝機は十分。筆者も当初の予想を変えることなく、2年ぶりに東北に大旗が翻る瞬間を期待してみよう。

元永知宏氏(ライター)
優勝予想:東海大相模

 大会前の優勝校予想は早稲田実業(西東京)で、「プラスアルファがない限り、夏の甲子園で頂点に立つことはできない」と書いた。チームの完成度よりも伸びしろを買って、優勝候補筆頭に挙げたのだが、彼らは想像以上に甲子園で強さを増していった。

 1回戦で鳴門渦潮(徳島)を8対4で下し、2回戦で鶴岡東(山形)を相手に、和泉実監督が「今までこんな展開は一回もない」と驚いた投手戦を展開したうえで延長サヨナラ勝ち。2年生エースの中村心大の鬼気迫る投球を見て、「もしかしたら」の思いを強くした。しかし、その早稲田実業は3回戦で延長タイブレークの末に大社(島根)に敗れた。

 大社もまた、甲子園という大舞台で一戦ごとに強くなっているチームだ。しかし、日本一になるまでには、あと3試合に勝たなければいけない。いくらエースの馬庭優太の勝利への想いが強くても、これまで3試合連続完投、401球を投げた投手が勝ち上がるのは容易ではない。

 ここ数年、筆者は優勝候補として広陵(広島)を推すことが多かった。1年生の春から伝統校の背番号1を背負うエースの高尾響、捕手の只石貫太というバッテリーがいて、小技を使える脇役が充実しているからだ。初めての夏の日本一を目指した広陵に8対1で圧勝したのが東海大相模(神奈川)だった。

 身長198センチのエース・藤田琉生は140キロ台後半のストレートにカーブ、チェンジアップなどを織り交ぜ、粘りのある広陵打線を寄せつけなかった。今大会は13回を投げて自責点0(失点1)、2試合の投球数は201球だ。まだまだ余力があるし、修羅場をくぐることで大化けする可能性がある。

 彼を盛り立てる守備の確実性、アグレッシブさは広陵戦で証明された。とくに、強烈なゴロを難なくさばいた内野陣はまったく危なげがない。好投手の高尾を打ち崩した打者たちのチャンスでの集中力と、果敢な走塁も見事だ。投手戦、打撃戦のどちらにも対応できる総合力がある。昨年の慶應義塾に続いて(関東勢としては4季連続)、神奈川代表が頂点に立つことになるかもしれない。

田尻賢誉氏(ライター)
優勝予想:京都国際

 41試合終了時点で本塁打数は6本のみ(2023年は23本、2022年は21本=48試合、以下同)、1イニング5得点以上入ったのはわずか1回(23年15回、22年14回)。低反発バットの影響による投高打低の大会となっている今夏の第106回選手権大会。優勝を狙ううえで重要になるのはやはり、失点を計算できるかどうかが第一になる。

 その意味で、もっとも安定しているといえるのが京都国際だろう。投手は左腕の二枚看板。背番号11の2年生・西村一毅が2回戦の新潟産大付戦で3安打完封すると、エース・中崎琉生も3回戦の西日本短大付(福岡)戦で14奪三振完封。

 守備は3試合で3失策だが、鍛えられており、大量失点の不安はほとんどない。打撃陣も3試合連続2ケタ安打でチーム打率.377と好調。16安打で4点しか取れなかった西日本短大付のように3試合連続2ケタ残塁を記録しているのが気がかりだが、逆方向への打撃を継続できれば得点力も上がるはずだ。

 神村学園は3試合1失策と守備が安定。1、2回戦で連続完投したエースの左腕・今村拓未に加え、3回戦では2年生右腕・早瀬朔が完投。今後の投手起用に幅ができた。打線も大振りをせず、つなぐ意識は8強のなかでも1、2を争う。

 気がかりなのはふたりで27イニング14四死球を与えている投手陣の制球力と13打数1安打と不振の4番・正林輝大。失点の原因になり、球数が増える無駄な四死球を減らし、悩める主砲が目覚めることができるか。

 この2校は1回戦からの登場。コロナ明けの過去3年は2回戦からの登場チームが優勝している。該当校で戦力がもっとも充実しているのが東海大相模。198センチの大型左腕・藤田琉生はナックルカーブが武器。突然制球が乱れるイニングがあるのが不安要素だが、そこでいかに踏ん張れるか。初戦では本調子ではなかった2年生右腕・福田拓翔の復調は絶対条件になる。打線は8打数5安打と好調の中村龍之介を中心に2試合で9長打とパワーがある。

 青森山田はくじ運にも恵まれ、投手陣が最も疲労していない状態で準々決勝以降に臨める。力むと制球が乱れる傾向があるエース・関浩一郎がいかに冷静に投げられるか。打線は佐藤洸史郎、原田純希のふたりが本塁打を記録。チームカラーとして乗ると強く、青森大会から劣勢を経験していないのが唯一の不安というほどノリノリで来ている。

 昨年はセンバツ出場かつ、2回戦から登場の慶応義塾が優勝。2年連続そのパターンになるか注目だ。

菊地高弘氏(ライター)
優勝予想:青森山田

 大会前に優勝予想に挙げさせてもらった青森山田は、順調に勝ち上がっている。

 好球質のエース右腕の関浩一郎、「ドカベン」を彷彿とさせる大砲の原田純希という投打の軸が甲子園でも活躍。ほかにも3番・對馬陸翔、5番・吉川勇大の木製バットコンビ、甲子園で本塁打を放った佐藤洸史郎、将来有望な2年生二塁手・蝦名翔人と球場のムードを変えられる役者が揃っている。

 ここまでの勝ち上がり方がいい。まず、初戦は2回戦からのスタートで、1回戦から勝ち上がってくるチームより1試合少なくてすむアドバンテージがある。2回戦の長野日大戦は長野大会無失点の変則左腕・山田羽琉を早々に打ち崩して、9対1と完勝。3回戦の石橋(栃木)戦は2試合連続2ケタ安打となる12安打5得点を奪い、関を温存した末に5対0で快勝している。

 エースの関は長野日大戦に9イニングを投げたきりで、しかも要所以外はセーブする省エネ投球だった。今春センバツ以降に急成長し、青森大会で最速152キロを計測した凄味はまだ見せきっていない。体力十分の状態で迎える準々決勝以降、大黒柱の関が覚醒すれば、青森県勢として初の甲子園優勝も見えてくる。

 ベスト8に勝ち上がった高校のなかで、事前に優勝争いに絡んでくると予想していたのは青森山田以外では東海大相模(神奈川)、関東一(東東京)、京都国際の3校。そのなかの東海大相模と関東一が準々決勝で対戦することになったが、勝者は有力な優勝候補になりそうだ。

 東海大相模は身長198センチ左腕の藤田琉生が甲子園でインパクトを残し、2年生右腕の逸材・福田拓翔らリリーフ陣の層も厚い。打線も2試合連続2ケタ安打と活発だ。対する関東一は「9回が終わるまでに1点でも多くとっていればいい」という試合巧者。1番から9番まで自分が何をすれば勝てるか熟知している選手が並び、3回戦で同じくくせ者の明徳義塾(高知)に競り勝った自信も大きい。関東一が接戦に持ち込んだ時、波乱の展開が待ち受ける予感がする。

「高校野球2024年夏の甲子園」特設ページはこちら>>