三笘薫「先発完投型」スタイルで復活 今季開幕弾、相手の一発レッド誘発プレーも
サッカーは監督の選手評価に均一性が少ないスポーツだ。監督交代を機に浮上する選手もいれば、後退する選手もいる。今季、ロベルト・デ・ゼルビからファビアン・ハーツラーに監督が代わったブライトン。昨季途中まで、左ウイングとして活躍した三笘薫はどうなのか。ザンクトパウリからやってきた、プレミア史上最年少(31歳)となるドイツ人監督との相性に注目が集まるなかで、ブライトンの新シーズンが始まった。
開幕戦のエバートン戦で先制ゴールを決めた三笘薫(ブライトン)photo by Reuters/AFLO
昨季15位のチーム、エバートンとのアウェー戦。昨季11位のブライトンにとっては勝っておきたい相手である。だがポンポンとボールを離してくるかつてのイングランドスタイルを彷彿とさせるエバートンのサッカーに、ブライトンは立ち上がり、苦戦した。
ブライトンの布陣は4−2−3−1。ビルドアップに重きを置くスタイルに大きな変更はない。エバートンと比べるとその違いは鮮明だ。しかし"蹴ってくるサッカー"はホームで有効な手段になることがままある。三笘に確かな形でボールが回ってきたのは、前半17分が経過した頃だった。
ブライトンのスタメンはオランダ色が増していた。オランダ代表の正GKバルト・フェルブリュッヘンこそケガで欠いたが、最終ラインにはジョエル・フェルトマン(元オランダ代表)、ヤン・ポール・ファン・ヘッケ(元U−21オランダ代表)が、守備的MFには新加入のマッツ・ウィーファー(オランダ代表)が配された。右ウイングには同じく新加入のヤンクバ・ミンテ(ガンビア代表)が並んだ。ウィーファー、ミンテはともにフェイエノールトからやってきた選手。昨季チャンピオンズリーグ(CL)を沸かせた実績がある。
その右利きの右ウイング、ミンテが17分、中央に切れ込み逆サイドを走る三笘にボールをさばいた。エバートンの右SBアシュリー・ヤング、CBジェームス・タルコフスキー(いずれも元イングランド代表)を前にした三笘は、ふたりをかわしながらグラウンダーのシュートを放った。今季初シュートである。
【試合を決定づける痛快プレー】2本目はその9分後。三笘にパスを送ったのはまたもやミンテで、その縦突破からのマイナスの折り返しに、三笘はファーポストに飛び込む格好となった。ブライトンに今季初得点が生まれた瞬間である。三笘はプッシュするだけだった。
ブライトンに三笘あり。記録上では存在感をアピールするゴールになった。しかし、"ごっつぁんゴール"とまでは言わないまでも、1点のうち半分はミンテにつけたくなる、なにより右ウイングの縦突破を称賛したくなるゴールであることも確かだった。それぐらいミンテが対峙する左SB(ビタリー・マイコレンコ/ウクライナ代表)の逆を突くアクションは、目を見張るものがあった。
少なくともこの段階では、ウインガーとして活躍度が高かったのは右ウイング、ミンテのほうだった。三笘は41分にタルコフスキーをかわして縦に出ているが、前半を振り返れば総じてプレー機会が少なかった。
名ウインガーが数多くひしめくプレミアにあって、現在、筆者の心をとらえて放さないのはベルギー代表としてユーロ2024を沸かせたジェレミー・ドク(マンチェスター・シティ)のプレーになる。対峙する右SBに1対1を幾度となく挑み、縦突破を高確率で決めるその姿に比べると、三笘は劣って見えた。
ちなみにミンテは前半終了間際、脳しんとうの疑いありとの診断でベンチに下がり、右ウイングには代わってシモン・アディングラ(コートジボワール代表)が入った。ブライトンの右ウイングはソロモン・マーチ(元イングランド代表)を負傷で欠きながらも人材豊富である。
後半11分。今日イチのプレーを披露したのはダニー・ウェルベックだった。ウィーファーが中盤でエバートンMFイドリッサ・ゲイェ(セネガル代表)のパスをカットすると、その足で前方を走るウェルベックにパスを送る。元イングランド代表の33歳がここから見せたゴールに至るまでの動きは、テクニカルで頭脳的、かつおシャレだった。
一方、その10分後に、この日2番目と言いたくなる痛快なプレーを見せたのは三笘だった。ルイス・ダンク(元イングランド代表)のロングフィードを、対峙するエバートン右SBヤングがカットとしたシーンだ。三笘はそのトラップの瞬間に狙いをつけて急接近すると、ボールをかっさらいドリブルで前進。するとヤングはたまらず三笘の腕を引っ張り、主審から一発レッドの判定を受けたのだった。三笘は試合を決定づける大きなプレーに能動的に関与した。
試合結果は0−3。三笘の動きは尻上がりによくなっていった。プレー機会は前半よりも格段に増え、まさに代えにくい選手となっていた。昨季と同様である。前任のデ・ゼルビ監督は、そのまま最後まで三笘を出場させることが多かった。使い詰めではないかと日本人をやきもきさせるほどだったが、新任のハーツラー監督はさすがに代えた。ただし、ベンチに下げた時間は後半44分だった。
前半は飛ばさずに抑えながら走り、後半勝負に懸けるマラソンランナーのようである。前半のプレー機会の少なさについて先述したが、それは三笘の気質と深い関係があると見る。
アタッカーのプレータイムがいまや1試合平均約70分の時代を迎えているなかで、三笘は優に80分を超え、90分に限りなく近い時間までプレーする、まさに「先発完投型」だ。息切れ覚悟で飛ばすことは絶対にしない。終盤にいくほど活躍が期待できる、現代サッカーにおいては珍しい選手だ。
ただ、強力なライバルが現れたときどうするか。最初から飛ばさざるを得ない環境下に置かれた時はどんなプレーを見せるか。もうワンランク上のチームでプレーする姿を見たいと考えるのは、筆者だけではないはずだ。