シリーズ読者投稿〜あの時、あなたに出会えなければ〜 投稿者:Sさん(東京都・30代女性)

その日、Sさんは慣れない松葉杖をつきながら、スーパーで買い物をしていた。

すると1人の女性客が「さっきから気になってて」と話しかけてきて......。

<Sさんの体験談>

2012年の夏、左足首の靭帯を傷めた。ギプスと、初めての松葉杖を使うことになった。

そんなある日、整形外科の帰りに駅前のスーパーに寄った。

カゴと杖を乗せたカートに半分体重を預け、ケンケンしながら商品をカゴに入れていく。

そのスーパーは、売場は地下でレジは1階にあるタイプ。一通り商品を選んだ後、上の階に行くエスカレーターの前で松葉杖とカゴをどう処理しようか考えていると......。

エスカレーターの前で話しかけられて...

ある女の人が「大丈夫?さっきから気になってて」とカゴを持ってくれた。そのまま上まで運んでくれるという。

ご自分のカゴもあるのに、「いいからいいから」と言って......。なんて優しいひとだろう。

何度もお礼を言うと「娘が今、眼を怪我しててね。なんか他人事じゃないのよ」と微笑んでくれた。

素敵なひとだなと思った。

そのままレジまで運んでくれて、ついでにキャッシャーのお兄さんに「彼女怪我してるから持ちやすいように入れてあげて」と声をかけてくれた。

「それじゃあ」とその人はさらりと違うレジに立ち去ってしまって、きちんとお礼を言う機会を逃してしまった。

次に会えたら改めてきちんとお礼言いたいな、また会えるかな。

爽やかな気持ちでスーパーを出た。

松葉杖で必死に家に戻っていると...

外は炎天下だった。

普段なら僅か3分の道のりが、松葉杖だと15分はかかる。

歩みに合わせて大きく揺れる買い物袋。ボトリボトリと落ちる汗。

あと、100メートル。

暑さとしんどさで買い物袋を投げ出してしまいたい気持になりながら、必死で一歩一歩を繰り出していると、突然、後ろから声がした。

「やだ、汗だくじゃない!」

顔を上げると、さっきの女性が目の前で自転車から降りたところだった。

「ほら、貸して」そう言って私の買い物袋を自転車のカゴに乗せていく。

「おうち、どこ?」
「あ...すぐ、そこです。そこに見えてる、あのマンションです」

彼女は炎天下の中、私に付き合って自転車を押してゆっくりゆっくり歩いてくれた。

お昼時だというのに...

家の前で「本当にここで大丈夫?部屋まで持って行こうか?」と念を押してくれたけれど、さすがにこれ以上は甘えるわけにいかなくて、袋を受け取った。

多分お家は逆方向だと思う。

時間帯を考えるに、お昼ご飯のお買い物だったに違いない。

もう午後1時近いから、もともと彼女は急いでいたんじゃないだろうか。

おうちでお嬢さんが待っているんだと思う。

それを私のために、こんなに......。

「本当にありがとうございました。お嬢さんの眼、早く良くなりますように」
「ええ、ありがとう」

言い終わる頃には自転車は遠くなっていて、やっぱりさらりと行ってしまった。

次に会えたら、絶対に話しかけてちゃんとお礼を言おうと思っていたのに、そのひととは結局会えず終い。

お嬢さんの眼は良くなっただろうか。

見も知らぬ人にあそこまでできるひとは、本当に滅多にいないと思う。

できることならまたお会いしたい、お礼が言いたい。

......それができないのならせめて、自分が受けたこの恩を、誰かを通じて返したい。

日々出逢っては別れていく知らない人たちのことも大事にできたら、めぐりめぐってあのひとに届くだろうか。


誰かに伝えたい「あの時はありがとう」「あの時はごめんなさい」、聞かせて!

名前も知らない、どこにいるかもわからない......。そんな誰かに伝えたい「ありがとう」や「ごめんなさい」を心の中に秘めている、という人もいるだろう。

Jタウンネットでは読者の皆さんの「『ありがとう』と伝えたいエピソード」「『ごめんなさい』を伝えたいエピソード」を募集している。

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(※本コラムでは、読者の皆さんに投稿していただいた体験談を、プライバシー配慮などのために編集している場合があります。あらかじめご了承ください)