OB戦で実現した巨人OB・江川卓氏vs阪神・掛布雅之氏の同い年対決【写真:小林靖】

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かつての巨人エースと阪神4番「気持ちだけは対決していた」

 巨人と阪神のOB戦「伝統の一戦〜レジェンズOB対決」(5イニング制)が15日に東京ドームで行われ、巨人が3-2で競り勝った。特に注目されたのが、巨人OB・江川卓氏vs阪神・掛布雅之氏の同い年(1955年生まれ)スター対決だった。

 OB戦はデーゲームで行われた巨人-阪神戦に引き続いて始まったが、スタンドには4万1994人のうち3万5000人が残って歓声を送った。2回、阪神OBの先頭打者として「4番・三塁」でスタメン出場していた掛布氏が打席に立つと、江川氏が2番手でマウンドに上がった。両雄は対決を前に、何やらひそひそ話。江川氏は「私の方から『なるべく早く打ってください。多少ボール球でも打ってください』とお願いしたのですよ」と明かした。

 江川氏は往年を彷彿とさせる投球フォームを披露するも、ボールは全て山なり。3球目まではストライクゾーンを大きく外れ、カウントは3-0となった。「スイングしろよ」とジャスチャーで伝える江川氏に、掛布氏は苦笑いを浮かべた。

 ところが4球目、掛布氏は初めてストライクゾーン付近に来た球を見逃さず、センター前へ運ぶ。69歳とは思えない鋭いスイングだった。現役時代は巨人のエースと阪神の4番。江川氏にとっては絶対に抑えたい、掛布氏にとっては絶対に打ちたい相手だったが、江川氏は「今となっては楽しい。でも緊張感は昔と一緒で、それも楽しかった。ボールは行きませんが、気持ちだけは対決している気持ちでした」と述懐した。

江川氏にボールを返球せず、手渡しした村田真一

 不思議だったのは、マスクをかぶっていた捕手の村田真一氏が1球1球、返球せずにマウンドへ駆けつけ、ボールを江川氏に手渡ししていたこと。村田氏は「江川さんは最近視力が落ちたそうで、ボールがよく見えず、返球が顔に当たったりすると危ないので、ああいう形になりました」と舞台裏を明かした。肉体的な衰えはOB全員に当然あるが、体にしみついたフォームや技術の一端を披露し、ファンを楽しませた。

 江川氏は試合後、久々に背番号30のユニホームに袖を通した感想を問われ、「自分の背中は見られないですけど……愛着があって大事にしてきた番号なので」と感慨深げ。報道陣を見回しながら「みなさん、お若いから知らないでしょうけれど、どうして30番を付けたかというと、昭和30年生まれで、誕生日も5月25日(足すと30)だから」と“秘話”を明かし、「縁があって付けさせていただいたので、一生大事にしていきたいです」とうなずいた。

 現役の巨人、阪神の選手たちは、DeNA、広島を含めた4チームが0.5ゲーム差内にひしめく大混戦のペナントレースを展開中だ。江川氏と掛布氏はOB戦の前に行われた巨人-阪神戦のテレビ解説も務めた。「1点の大事さを感じさせる素晴らしい投手戦でした。掛布とも話し合ったのですが、こういう試合が9月までずっと続くと思います」と江川氏。“伝統の一戦”と称される対戦を盛り上げてきた巨人、阪神両チームの精神は、今も脈々と受け継がれている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)