「インプレッサらしさ」は進化している一方で…(写真:SUBARU)

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スバルの主力車種のひとつ「インプレッサ」と「クロストレック」の発売1年を振り返る(写真:SUBARU)

スバルの主力モデルとなる「インプレッサ」と「クロストレック」が、発売から1年を過ぎた。発売後、1年を振り返り、その販売状況をチェックしてみよう。

インプレッサとクロストレックは兄弟車で、インプレッサがハッチバック、クロストレックはそれをクロスオーバーに仕立て直したもの……ではあるが、その歴史は少々ややこしい。


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インプレッサをベースとしたクロスオーバーモデルは、2010年に「インプレッサXV」として登場。その後「XV」となり、2022年暮れに発売となった現行モデルより、日本でもグローバルネームである「クロストレック」に統一された。

一応、独立した車種となっているものの、日本市場における販売データ(一般社団法人自動車販売協会連合会)では、いまも兄弟車としてインプレッサと合算されている。そのため、今回もその数値をもとに検証したい。

【写真】現行インプレッサ/クロストレックのデザインを見る(35枚)

XVからグローバルネーム「クロストレック」へ

2台の現行モデルのデビューを時系列で振り返ってみよう。最初に新型として紹介されたのがクロストレックであり、発表は2022年9月であった。

先にクロストレックを世に送り出したのは、インプレッサの派生ではなく、独立したモデルとしてアピールしたいという狙いがスバルにあったためであろう。


車高を高めブラックのクラッディングでクロスオーバーとしたクロストレック(写真:SUBARU)

そんなクロストレックの発表から2カ月後となる、2022年11月のLAショー(ロサンゼルスモーターショー)で、6代目インプレッサがお披露目される。

そして、翌12月に今度はクロストレックの日本での価格が発表された。これが実質的な発売開始と言える。この新しいクロストレックの販売目標は、月間2600台であった。

それから、年をまたいだ2023年1月の東京オートサロンで、日本仕様のインプレッサが公開に。4月に価格が発表されている。こちらの月販目標は、1600台だ。


インプレッサとクロストレックはボディカラーやインテリア素材でも差別化される(写真:SUBARU)

このクロストレックとインプレッサをスバルは、“高い安全性能と動的質感を兼ね備えたSUBARUラインナップのスタンダードモデル”と説明する。基本的なコンセプトは旧型からの踏襲となり、その特徴は他のスバル車と同様に、“走って愉しく、そして高い安全性を持つ”ことにある。

メカニズムとしては、SGP(スバルグローバルプラットフォーム)に2.0リッター水平対向4気筒エンジンを縦置きする4WD(スバルはAWDと表記する)だ。

ボディ生産時、最初に箱型に組み上げるフルインナーフレーム構造を採用し、先進運転支援システム(ADAS)にはステレオカメラの「アイサイト」の最新版を採用。特に単眼カメラを追加し“3眼化”しているのが技術的なトピックだ。


従来のステレオカメラの間に単眼カメラが追加されたアイサイトのカメラシステム(写真:SUBARU)

デザインでは「BOLDER」という新コンセプトが用いられた。従来よりも、より塊感を強くしたデザインと言える。名称的に2台は別車種の扱いとなっているけれど、従来と同じように兄弟車という成り立ちは変わらない。

販売台数は先代の半分!?

では、この2台、発売1年の販売成績はどうだったのか。

先の自販連によると、2023年暦年(1月〜12月)の数字は3万4371台で、前年比149.2%。2023年度(2023年4月〜2024年3月)の成績は3万4379台で、前年比129.6%だった。

インプレッサが前年比プラスになるのは2017年以来で、それだけを見ればうれしい結果ではあるが、新車効果で前年比プラスになるのは当然とも言える。

よくよく見てみれば、価格発表時に掲げた月販目標の1年分(2台合わせて5万400台)には届いていない。ちなみに先代の5代目インプレッサは、2016年10月に発売開始になり、翌2017年は7万3171台と、現行モデルの2倍も売れていた。


5代目インプレッサ。この世代まではセダンのインプレッサG4もラインナップしていた(写真:SUBARU)

そうした数字を知ってしまうと、現行モデルの成績は、“少々厳しい”というのが正直なところだ。

とはいえ、筆者は現行インプレッサとクロストレックのデキが悪いとは思わない。スバルは、この2台のほか、「WRX」「レヴォーグ」「フォレスター」「レガシィ」といった主力モデルを、基本的に同じプラットフォームを使って作り分けている。

パワートレインも、縦置きの水平対向エンジンにCVTという組み合わせが基本だ。ハードウェアの数を少なくして、コスパよく複数のモデルを用意しているといえる。

そうしたクルマの作り方のため、1つのハードウェアを改良すると、次のモデルにも改良版のハードウェアが引き継がれる。すべてのモデルに連続性があり、メカニズムは確実に磨き上げられることになる。


水平対向エンジン+シンメトリカルAWDはスバルの主要車種に共通する(写真:SUBARU)

しかも、毎年のように熱心に改良を続けるため、どこかのスポーツカーメーカーではないけれど「最新のスバルは最高のスバル」というようなクルマとなっているのだ。

そういう意味で現在、販売されているスバル車の中で最新のモデルとなる、インプレッサとクロストレックの兄弟は、もっとも熟成され、もっとも進んだスバル車と言えるのだ。実際に乗ってみると、デキのいいクルマであることがわかる。

しかし、結果が今ひとつというのも事実。その理由は何だろうか。

技術的フラッグシップ「レヴォーグ」の存在

個人的に思うのは、先代となる5代目モデルの登場が、“あまりに鮮烈すぎた”ということだ。しかも、先述のように、このモデルはよく売れた。

ちなみに、先々代となる4代目は、2011年にデビューして、翌2012年の販売は5万2017台だった。現行の3万4379台よりは多いけれど、7万台を超えた先代にはかなわない。


4代目インプレッサは新世代BOXERエンジンFB20と新リニアトロニックCVTを搭載して登場(写真:SUBARU)

なぜ、先代モデルは売れたのか。その理由は、内容にある。先代のインプレッサは、SGPをはじめ“スバル初”をうたう新技術を数多く採用していた。

初めて先代モデルに試乗したときは、その進化の大きさに驚かされ、“スバルでもっとも進んだクルマ”だと強く感じたものだ。そうした驚きが輝きとなって、ヒットにつながったのではないだろうかと考える。

ところが、現在のインプレッサは、そうした驚きをもたらす存在ではなくなった。その役を担うのは、スバルが”技術的フラッグシップ”と呼ぶ、レヴォーグだ。

今のスバルは、多くの新技術をレヴォーグでお披露目するようになった。そのためインプレッサとクロストレックに採用される技術は、レヴォーグで既知となったものが多くなる。


現在のレヴォーグが2020年に登場した2代目で、数多くの新技術が投入された(写真:SUBARU)

新世代アイサイトをはじめBOLDERデザイン、縦型ディスプレイ、フルインナーフレーム構造のボディといったものは、すべてレヴォーグが初採用であった。インプレッサとクロストレックが初採用した新技術は、ステレオカメラに単眼を追加したアイサイトの3眼化くらいだろう。

話題性に乏しくインパクトに欠けるため、ユーザーに強くアピールできなかったのではないか。車格やサイズの面でも、フォレスターとアウトバックとの間にレヴォーグが生まれたことは、インプレッサの販売に影響を与えたであろう。


インプレッサのインテリア。基本的な意匠はレヴォーグと共通(写真:SUBARU)

また、現在の自動車業界のトレンドは電動化だ。スバルの場合、独自のハイブリッド「e-BOXER」も用意するが、モーター出力が小さいこともあり、電動感が小さく、なによりも燃費性能が格段に優れるわけではない。強力な低燃費型ハイブリッドの不在も不利になったはずだ。

あっと驚くテコ入れはあるか?

5月28日にトヨタ/マツダ/スバルの3社が合同で開催した「マルチパスウェイワークショップ」では、トヨタのシステムを応用した新型ハイブリッドシステムの存在を発表したから、次世代モデルではインパクトのあるハイブリッド仕様が登場するかもしれない。

いずれにしても、何かしらかの大きなテコ入れがない限り、インプレッサとクロストレックの大幅な販売増は難しいだろう。乗ってみればデキはいいだけに少々残念ではあるが人々を、あっと驚かせるテコ入れを期待したい。

【写真】インプレッサ/クロストレックの内外装(35枚)

(鈴木 ケンイチ : モータージャーナリスト )