東大に在籍する女性たちが周囲から投げかけられてきた「言葉の逆風」とはーー(写真:東京大学多様性包摂共創センター提供)

東京大学では、5月頭から「なぜ東京大学には女性が少ないのか?」と問いかけるポスターが学内に掲出されている。

その答えのひとつとして、実際に東大に在籍する女性たちが周囲から投げかけられてきた”言葉の逆風”が理由だとする内容が話題になっている。

その中には、「東大女子はモテない」「高学歴の女性は結婚できないよ」という恋愛・結婚にまつわるものや、「子どもの送り迎えは女性の仕事でしょう」「お金に困ってないなら家にいればいいじゃん」といった家庭に入ることを前提とするような言葉もある。

いまだに女性の社会的な活躍や、高学歴を歓迎しない風潮が日本では根強く、苦労している女性が多いことをうかがわせる。

このような逆風を浴びてきた人たちがいることは事実だが、では実際に東大卒業生の女性たちは、本当にモテなくて、結婚もできていないのだろうか。仕事はほどほどに、家庭で役割を果たすことを求められているのだろうか。

東京大学の卒業生の母親グループである私たち「東大ママ門」は、すでに大学を卒業している30〜40代を中心に約560人が集うグループだ。子育て関連の情報交換を主目的としているため、大半が結婚して、子どものいるメンバーだ。さまざまな領域に残る不平等や、家庭との両立を前提としない社会に苦しみつつも、それぞれに活路を見出したりもしている。

「言葉の逆風」はなくなっていくに越したことはないが、この記事では、逆風をときに跳ねのけてきた私たちの葛藤や、経験を紹介したい。東大に限らず、これから社会に羽ばたく若い女性たちの参考になればと思う。

私たちの「こうすればよかった」

「東大ママ門」は昨年度、すでに社会人となり、母親となったメンバーから、「22歳の私に送りたいメッセージ」を募集した。仕事選び、配偶者との出会い、子どもを産むタイミング……「こうしておけばもっとよかった」という後悔をさらけ出し、お伝えしたい。

※2023年10月21日の東大ホームカミングデーイベントで東大ママ門が、東大女子が贈るフリーペーパー”biscUiT"とパネルディスカッションを実施。それに際して、主に20代から50代の東大卒業生の女性にアンケートを実施し、85名から回答を得た。


(グラフ:東大ママ門作成)

まずは仕事に関して見ていこう。女性は一般的に職業選択に「手に職」傾向が強いとされるが、東大卒の女性は、弁護士などの専門職に就く女性が多いのだろうか?


(グラフ:東大ママ門作成)

アンケートによると、実際には回答者の66%は一般企業で勤務する会社員だった。想像以上に多い、という印象を持った人もいるのではないだろうか。

集まったコメントからは、働く中でそれなりに苦労をしていることも見受けられた。中でも、就職活動に関する声が多く、「視野が狭かった」「もっと人に会っておけばよかった」……と、準備不足を後悔する声が目立った。

「就職活動の時期に、あまりにまだ視野が狭かった」

「専門にとらわれず、世の中にどういった職業があるのかという視点を、少しでも広げるのが大切」

「女性のモデルケースをもっと聞いて回ればよかった」

一方で、身の回りに「こうなりたいと思えるロールモデルになる女性を知らなかった」「そもそも女性が少なく、ロールモデルにできる人の数が少なかった」とする声はアンケートでも見られた。

「大学の常識と社会は違うという心構え。私は全く知らず、男女平等を疑ってもいなかった。無知とは恐ろしい。きちんとジェンダー教育を受け、社会や各会社の状況を把握した上で、就職すべきだったと思う」

職業選択の時点で結婚・出産といったライフイベントをそれほど意識していなかったという声も、複数見られた。

「就活時は、数歳上の先輩にばかり目が行きがちだが、30代以上や女性役員がいるかも見るべきだった」

東大卒女性に限らないだろうが、会社勤めをした場合に女性のキャリアがどうなるのか、女性の先々の働き方をもっと知っておくべきだったと後悔する声もあった。

東大卒女性も含めた日本女性全体の課題

「子どもがいると自分の時間を30分取ることすら難しいので、若いときにもっと頑張っておけばよかったなあ、と思う」

「子どもを産み育てるつもりであれば福利厚生がきっちり使える職場のほうがよかった」

「出産までの間にできる限り多くの経験を積む。出張や深夜までの業務も育児前までの方がしやすい」

子どもを持った後の働き方として、それまでのやり方では通用せず、育児との両立に悩んだという声も多く聞かれた。そうした経験をふまえ、早めのキャリア形成、早めのチャレンジをアドバイスしている人も多かった。

「いくつになっても学びなおしやキャリアを積みなおすことはできるとは思いますが、20代は体力気力があるから、無理しながらでも思いっきり働きたい人は思いっきり働いてみたらいいのではないかなと思います」

「子どもが産まれてからはどうしてもセーブがかかってしまうから、セーブしながらでも必要とされる人材になれるように、それまでに経験できることはたくさんして能力を高めておいた方がいい」

育児が始まる前に仕事での経験をできるだけつけておく、全力でがんばるのがいい、という声は多く聞かれた。

他方で、やはり大企業で働いている人からは、福利厚生(産休・育休制度、在宅勤務やフレックス勤務制度)が充実していることから、就職先としては安心感があるとの声も。

「最初のキャリアは大企業で始めた方が「育ててもらえる」ので安心だと思います」

「福利厚生は大事。となると結局、大企業が強いのかな…」

また、大企業だとさまざまな職種があるため社内転職しやすく、柔軟な人材配置によってライフスタイルの変化に応じた働き方の変化をつけやすいといった点をあげる人もいた。さらには、海外勤務を通じて経験値を積むことができる、価値観が広がったといった声も多くあげられていた。

「少なくとも日本国内で通用する社会人としての基礎を学べる環境、加えて社費留学の機会に恵まれた」

「海外勤務を2回できたのでそのような機会も含めて考えるのは良いと思います。子どもに海外経験をさせられるのはかけがえのない機会です」

さらに学生時代にやっておけばよかったことの中に、専門性を磨くことや英語の勉強をあげる人もいた。

職業選択も多様化する時代だが、まだまだ女性が働きやすいとはいえない中、結果的に東大卒女性たちが「大企業頼み」になっている様子がうかがえる。

結婚出産に際して仕事をやめるか否かの二択ではなく、育休制度や職種を変えながらも仕事を続けていく。そして専門性を身につけて独立や次のステップへと繋げていくという考えを、多くの東大卒女性がもっていた。

東大卒女性が直面する親や周りの期待と呪縛

キャリアにおけるアンケートの中で印象深かったのが、まさに「言葉の逆風」に抗するような、「親や周りにまどわされないで」というメッセージだ。

「親の言うことに従わず、世間の陰口に怯えず、自分の信じる道を進んで」

「周囲の期待や条件面に左右されることなく、自分がこれは面白そう、意義がある、やってみたいと感じられる仕事に挑戦して下さい」

「組織として社会に貢献しているかより、自分の長所を生かして働けるか、という観点で職場を選んでほしい。自分が成長・活躍できない職場では、自分自身が社会に貢献できるようになることはあり得ない」

東大ママ門の周囲を見渡すと、東大卒女性の中には、親などに敷かれたレールの上を走り、外からの評価を受け続け、周囲の期待に必死に応えようとしてきた人も少なくない。しかしアンケートからは、他人の目よりも自分の好きや得意を生かす道をすすめる声が多く見られた。キャリアと結婚育児の両立を経験するなかで、価値観を変えていった人もいるのかもしれない。

(後編に続く)

(東大ママ門 : 東大卒ママの同窓組織)