従来比130〜180万円アップしたランドクルーザー250

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2024年4月18日に発売となったランドクルーザー250(写真:トヨタ自動車

SUV人気が高い今、新車で販売される小型/普通乗用車に占めるその割合は、30%を超える。その販売規模はミニバンを抜いて、コンパクトカーと同等だ。

人気の車種は、トヨタなら「ヤリスクロス」「カローラクロス」「ハリアー」、ホンダなら「ヴェゼル」や「WR-V」で、いずれも乗用車と共通のプラットフォームを使う。つまり、売れ筋はシティ派だ。


シティ派SUVの代表格ともいえるハリアー(写真:トヨタ自動車

一方、これらシティ派SUVが増えた反動もあり、悪路向けのヘビーデューティーなSUVにも注目が集まる。もともと悪路向けのSUVは優れた走破性能を発揮しづらく、重いボディやそれによる燃費の悪さ、価格の高さといった欠点も多い。

その結果、1990年代に一世を風靡した三菱「パジェロ」や日産「サファリ」「テラノ」、トヨタ「ハイラックスサーフ」などは生産を終え、選べる車種が大幅に減った。

そんな中で、再び注目を集めたものだから、新型車が登場すると過剰に注目される。この人気を急上昇させた悪路向けSUVの代表車種が、トヨタの「ランドクルーザー」シリーズだ。

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国内でもっとも長い歴史を持つクルマ

ランドクルーザーは、もともと「トヨタジープ」として1951年に発売。この名称が当時のウイリス・オーバーランド社の商標に抵触するため、1954年にランドクルーザーへ改称され、その歴史をスタートする。

初代「クラウン」の発売が1955年だから、国内ではもっとも長い歴史を持つクルマだ。悪路向けの4輪駆動車として世界的に高い支持を得てきており、車名も知れ渡っている。そんな中で、最近は新型車が多い。

2021年に「ランドクルーザー200」が14年ぶりにフルモデルチェンジして、「ランドクルーザー300」になった。2023年には、1984年に誕生したロングセラー「ランドクルーザー70」が、大幅な改良を受けて国内販売を再開した。

そして2024年4月には「ランドクルーザープラド」の新型が、新たに「ランドクルーザー250」の名称となって発売されている。直近でもっとも注目されるのは、この250だ。


無骨さが押し出されたデザインも注目される理由のひとつ(写真:トヨタ自動車

エンジンは旧プラドと基本的に同じで、直列4気筒2.7リッターのガソリンと、2.8リッターのディーゼルターボを搭載する。ディーゼルのATは6速から8速に進化したが、エンジン本体に大きな変化はない。ガソリン車は、6速ATのギアを含めてプラドとほぼ同じだ。

それなのに、価格は大幅に上昇した。旧プラドの価格は367万6000円〜554万3000円だったが、新しい250は520万円〜735万円(特別仕様車を除く)に達している。

ディーゼル/3列シートの中級グレード同士で比べると、プラドTX・Lパッケージの499万7000円に対し、250のVXは630万円。ほかのグレードも含めて、250はプラドに比べて実に130万〜180万円も値上げされた。

300と共通するメカニズム

250が高価格となった背景には、複数の理由がある。昨今の原材料費や輸送費の高騰もあるが、もっとも大きな理由は、シャシーや各種のメカニズムが刷新され300と等しくなったことだ。

250と300のボディサイズを比べると、1980mmの全幅と1925mmの全高、そして2850mmのホイールベースが共通。全長は250のほうが60mmほど短いが、サイズ感としてはほぼ同じだ。


ランドクルーザーシリーズの最上級車となる300(写真:トヨタ自動車

以前のプラドとの比較では、全長で100mm、全幅で95mm、全高で75mm上まわる。ホイールベースも、60mm拡大された。プラドは200/300のコンパクト版ともいえるモデルであったが、250は位置付けが変わり、300の姉妹車的な存在になったのだ。

従って価格も高まったわけだが、それでも250は300よりも割高感が強い。

250のZXディーゼルは4気筒2.8リッターターボで735万円だが、300のZXはV型6気筒3.3リッターツインターボで760万円。価格自体は300のほうが25万円高いが、4気筒2.8リッターと6気筒3.3リッターでは、動力性能や静粛性は大幅に違う。

エンジンスペックも、250の2.8リッターは最高出力204馬力(3000〜3400回転)、最大トルク51kgm(1600〜2800回転)だが、300の3.3リッターターボは、ツインターボの効果もあって、309馬力(4000回転)と71.4kgm(1600〜2600回転)を発揮する。

さらに300はランドクルーザーシリーズの最上級車種だから、内外装も豪華で上質だ。動力性能に加えて、各部をていねいに仕上げている。


ランドクルーザー300の運転席まわり(写真:トヨタ自動車

もちろん250ならではの美点もあり、300のZXディーゼルには装着されない3列目シート、JBLプレミアムサウンドシステム、さらに悪路走行時にスタビライザー(ボディの傾き方を抑える足まわりのパーツ)の制御を切り替えて走破力を高めるSDMなどが標準装着されるが、25万円の価格差なら300の買い得度が勝るといえるだろう。

VXのガソリン車同士では、250が545万円で300は630万円と、85万の違いがある。しかし、250は4気筒2.7リッターで300は3.5リッターツインターボだ。


VXは3つあるうちの中間グレードとなる(写真:トヨタ自動車

250の2.7Lガソリンにはターボが装着されず、最高出力163馬力(5200回転)、最大トルク25.1kgm(3900回転)に留まる。しかもATが6速だから、2240kgの車両重量に対してパワー不足が著しい。推奨しにくいエンジンだ。

そうなると250で選ぶべきエンジンはディーゼルに限られ、一般的な選択はガソリン車と同価格のVXの(630万円)か、ZXは(735万円)となる。250のディーゼルは価格が割高で、買い得度で300に負ける。

値上げを許した原因は「納期遅れ」に?

また最近は、前述の通りランドクルーザーシリーズの人気が総じて高い。生産が受注に追い付かない状況も生じているから、250の価格が割高になっても、販売に大きな支障はないだろう。これも大幅値上げを許した原因と考えられる。

同様の状況は、新型のレクサス「GX」と「LX」にも当てはまる。GXは、ランドクルーザー250から発展した悪路向けの上級SUVで、エンジンは250とは異なり、V型6気筒3.5リッターのガソリンツインターボを搭載する。このエンジンはランドクルーザー300、これをベースに開発されたレクサスLXと共通だ。


ランドクルーザー250のレクサス版となるGX(写真:トヨタ自動車


LXはランドクルーザー300のレクサス版(写真:トヨタ自動車

つまりレクサスGXとLXは、ランドクルーザーの250と300以上に、類似性の強い間柄になる。「GX550オーバートレイル+」の価格は1235万円で、「LX600オフロード」は1290万円。この2車種も価格が接近しており、最近のトヨタの悪路向けSUVは、レクサスを含めて価格が割高になったといえる。

販売店も困っている「ランクルが買えない」状況

ランドクルーザーに話を戻すと、価格が割高なうえに商品の供給状況もよくない。2024年5月上旬時点で複数の販売会社に問い合わせると、「現時点でランドクルーザー250の生産枠は2025年度分(2026年3月分)まで埋まり、受注を停止している」と言う。

しかも「次の受注開始時期は未定で、再開を待つお客様も多いから、250をいつご購入いただけるかはわからない」とのこと。さらに「ランドクルーザー300も、以前から受注を停止しており、この再開時期も不明」としている。

前述のようにランドクルーザー300は、250よりも買い得感がある。そこで250を諦めて300を買おうとしても、今は注文ができない。さらに、ランドクルーザー70も「今は受注を締め切っており、この再開時期も不明」とコメントした。


ディーゼルエンジンにATの組み合わせでさらに人気が高まる現行70(写真:トヨタ自動車

要は、ランドクルーザーシリーズが非常に購入しにくい状態だ。これではユーザーから見れば、車種が存在しないのと同じ。むしろ、存在を知りながら買えないのだから、欲求不満も溜まってしまう。

その一方でランドクルーザー250は、2024年5月上旬時点であれば、サブスクリプション(定額制カーリース)のKINTOを使うと手に入るとのことだった。KINTOによる納期は、ガソリンエンジンが5〜8カ月、ディーゼルは6〜9カ月という。

KINTOはカーリースだから、販売と別枠になるのは理解できるが、不可解に感じるユーザーもいるだろう。なぜならKINTOでは、リース契約期間満了後の買い取りができず、自分の所有物にする「購入」は不可能だからだ。

KINTOには制約も多く、走行距離が規定以上に伸びたり、ペットや盲導犬の同乗によって車内にニオイが付いたりすれば、原状回復の費用を請求される。喫煙も禁じられ、常に「クルマを借りている」意識で使わねばならない。


KINTOは長期貸与のカーリースとなるため原状回復が必要(写真:トヨタ自動車

このように「購入はできないがKINTOなら使える」状態は、ユーザーにとって悩ましい。販売店からも「KINTOでは1年以内に納車され、購入では受注開始の時期すらわからないのは、お客様にとって不公平だと思う」という意見も聞かれた。

ユーザーのために「不公平」を是正せよ

当然、買えない状態が長く続くから、ランドクルーザーシリーズは、中古車価格も高騰している。2024年5月上旬時点で、ランドクルーザー250の中古車はまだ存在していないが、300は200台以上が流通している。

その価格は高く、ガソリンエンジンを搭載するZXは、新車価格が730万円なのに1.6倍以上の1200万〜1400万円がつく。ランドクルーザー70も、現行モデルの新車価格480万円に対し、2倍以上の1000万円に達する。

この中古車価格は、転売に基づいて価格を吊り上げる業者に問題があるが、そもそも納期遅延が生じなければ希少性も生まれず、中古車価格も高騰しない。ランドクルーザーシリーズの中古車価格が高騰した発端は、新車の納期遅延や受注停止にあるといっていい。


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トヨタは日本を代表する一流企業で、その影響は多岐にわたる。ランドクルーザーの中古車価格もそのひとつで、価格高騰は中古車市場の混乱を意味する。非常に購入しにくい中で、KINTOならば手に入るようにするのは、販売店の指摘通り「不公平」と受け取られるだろう。

すべてのユーザーに優しいトヨタであってほしい。

【2024年5月20日19時51分追記】ランドクルーザーシリーズの受注や購入状況について、一部の記述を修正しました。

【写真】ランドクルーザー250/300/70を改めて見る(47枚)

(渡辺 陽一郎 : カーライフ・ジャーナリスト)