「傾聴」とはビジネスパーソンに必須のコミュニケーションスキルです(写真:imtmphoto/PIXTA)

1on1とは上長と部下が1対1で行うミーティングであり、部下の成長を促すマネジメント手法の一つ。1on1が真の効果を発揮するには、上長側に「傾聴スキル」が求められると言われています。「聞く」と「傾聴」では、いったい何が異なるのでしょうか。本稿では、新著『図解入門ビジネス マネジメントに役立つ1on1の基本と実践がよくわかる本』を上梓したグロービスの寺内健朗氏とワ☆ノベーションの代表の島田友和氏が、1on1における傾聴のポイントについて解説します。

「聞く」のではなく、相手の話を受け止める「傾聴」

「 聞く」と「聴く」

相手の話を聞くという行為は、誰もが日常的に行っており、特別なことではありません。ただし、1on1の場面で「相手の話を聴く」といった場合には、日常のそれとは違う「傾聴」だと捉えるのがよいでしょう。

「傾聴」という言葉は、近年ビジネスシーンでも広く使われており、対話相手との信頼関係を築く上で極めて重要なコミュニケーションスキルです。漢字の「聞く」は日常的な聞き取りを指し、「聴く」はより意識的かつ能動的に相手の話を受け止める意味の「傾聴」を表すことがあります。

傾聴とは

傾聴の捉え方・考え方はさまざまありますが、簡潔に表現するなら、「相手をありのまま受け入れ、共感的に話を聴くこと」です。相手の内面にある思いや感情を尊重して寄り添いながら、その世界観を共感的に理解することが傾聴の基本です。要するに、相手の立場に立って、同じ思いを感じながら話を聴くことだと捉えるとわかりやすいでしょう。

傾聴の効果

それでは傾聴を行うことで、どのような効果が得られるのでしょうか?
傾聴の代表的な効果について紹介いたします。

「傾聴」によって生まれる円滑なコミュニケーション

信頼関係が築ける

傾聴を通じて相手の話をありのまま受け入れ、共感的に聴くことは、「何を話しても大丈夫」「理解されている」と感じさせ、安心感や居心地の良さによって信頼関係を深めていくことができます。メンバーが本音を自由に語るためには、この傾聴を通じた信頼関係の構築が全ての土台となっていきます。

問題が整理される

人は頭の中だけで物事を考え、整理しようと思ってもなかなか上手くいきません。傾聴を通じて、問題や課題を具体的な言葉で説明しようとすることによって、情報を客観的に捉えられるようになり、抱えている問題が整理されていきます。

自己理解が進む

私はどのような人間なのか? といった自分自身の客観的な分析は簡単ではありません。しかし、傾聴を通じて自由に話をしていると、自分自身も気がついていなかった本心や感情に気づけるため、より深い自己理解につながります。

自己肯定感が高まる

傾聴による丁寧な話の受け止めにより、相手は「自分は関心をもってもらえる存在だ」と感じ、自己を認めることで自己肯定感が高まります。批判や評価をすると、「自分は責められている」と受け止められることがあるため、傾聴は受容的な態度で行うことが基本です。

傾聴の効果は様々ありますが、人と人との関係性を深め、円滑なやりとりを実現するコミュニケーションスキルだと考えるのがよいでしょう。

傾聴に必要な3つの要素

アメリカの著名な心理学者であるカール・ロジャーズは、カウンセラーの基本的態度として受容・共感・一致という3つの要素を挙げています。傾聴はカウンセリングにおいて絶対要件と言われるほど重要な技術であり、これら3つの要素は効果的な傾聴を行う上での基本的態度と言い換えられます。

受容とは相手に対して批判や評価をしないこと、共感とは相手の立場を理解すること、そして一致とは自分自身に気づくこととなります。これらの3つの要素を意識的に磨いていくことで、傾聴のスキルを身につけることができ、これまで無意識的に行っていた「聞く」という行為から、より意識的、能動的な「聴く」ができるようになるでしょう。

実践する際に意識しておきたいポイント

傾聴実践のポイント1:相手の思いや感情を意識する

傾聴は、相手が本当に話したいと思っていることを話してもらうことで、より高い効果を得られます。しかし、「話したいことを話す」というのは決して簡単ではありません。むしろ自分が話したいことが何なのかを正確に把握しているビジネスパーソンは決して多くないでしょう。

職場においては、自分の話したいことを話すよりも、モヤモヤとした気持ちを抑えこんで働くことが求められています。誰もが「あのお客さんの相手はしたくない」「この仕事は面倒だから嫌だ」などと言い出してしまうと仕事にならないためです。

ただし、1on1の中では傾聴を通じてそのような思いや感情を受け止めることが大切です。抑え込まれている思いや感情を少しずつ言葉にしてもらい、胸の内にある気持ちを発散してもらうことで、次第に不満やモヤモヤした気持ちが薄れ、前向きな意識に変わっていくためです。

メンバーが「仕事でこんなことがありまして…」と出来事や事柄について話をしてくれた際は、「その時、どんなことを感じたのですか?」といった、相手の思いや感情に焦点を当てる質問をしてみてください。これにより、「実はすごく嫌な気持ちになりました」など、これまで胸の内に引っかかっていた思いを話してもらうことができます。

傾聴実践のポイント2:聴いた内容を口外しない

傾聴を実践する上では、相手が「この人なら何を話しても大丈夫だ」という心からの安心を感じることが重要です。そのため、社内における守秘義務の有無とは別に、「ここで聴いた話は口外しないので安心してください」など、聴いた内容を口外しないことを事前に伝え、それを守ることが大切です。

1on1の中では、社内の人間関係や噂話など繊細な話題も扱われるため、このような配慮が重要となるのです。ただし、犯罪に関わる話題などは例外となりますので、社内の関係機関に相談をするようにしてください。

重要なのは「言葉にならない言葉」を受け止める力

傾聴実践のポイント3:五感を駆使して聴く

より深いコミュニケーションのためには、相手の発する様々な情報を逃さず受け取ることが大切です。つまり、五感を駆使して話を聴くということです。

具体的には、相手の話す言葉の意味だけではなく、声の大きさや速さ、目の動き、腕を組む、何度も頭をかくなどといった仕草、表情や姿勢、さらには全身から感じられる雰囲気や印象など、五感を駆使して心のアンテナを立て、相手が無意識的に発信している言葉にならない言葉に耳を傾ける必要があります。

そうすることで初めて、相手は今どのような思いや感情を持っているのか、本心で話しているのかなどが伝わってくるようになるでしょう。


(寺内 健朗 : グロービス)
(島田 友和 : 「ワ☆ノベーション」代表/総合心理教育研究所学術客員研究員/リヴァトレ(公認心理師))