【村上 茂久】このままだと累積赤字800億円…!大量CM「出前館」を待ち受ける「今後のシナリオ」

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赤字続きの出前館の倒産リスクは?

出前館が4月15日に発表した2024年8月期の第2四半期決算は、営業利益が44億円の赤字でした。同期間では6年連続のマイナスです。

前編記事『いったいなぜ…大量CM「出前館」がユーザー数激減&6年連続赤字の「意外すぎる実態」』では、出前館が赤字続きの理由について損益計算書(P/L)を軸に解説しました。

後編では、出前館の倒産リスクについて説明していきましょう。

2019年8月期から2023年8月期までの出前館の累積赤字は706億円です。さらに2024年8月期通期決算では営業赤字を80億円と予想。このまま行けば累計赤字は786億円にまで膨れ上がります。

となると、心配されるのが出前館の倒産です。そもそも、企業はどういった状況で倒産するのでしょうか。筆者は企業研修や学生向けにもファイナンスの講義を受け持つことがありますが、この質問をすると「債務超過」や「赤字が続くといつか倒産する」という回答が返ってくることが多いです。

ただ、残念ながらどちらも違います。企業が倒産するのは、資金、すなわちキャッシュが尽きた場合です。逆に言うと、キャッシュさえあればどれだけ赤字を計上しようが企業は倒産しないのです。

では、出前館は現在どのぐらいのキャッシュを保有しているかというと、直近の2024年2月末時点で376億円です。先ほど、同社は2024年8月期通期決算で80億円の営業赤字を見込んでいると述べました。

もし今後も営業活動で80億円をキャッシュアウトしたとしても、4年は資金が持ちます。 つまり、出前館は潤沢な資金を持っていることから、営業赤字が続いたとしても向こう1〜2年で倒産するような危機的な財務状況ではないのです。

出前館の短期的な倒産リスクは極めて低いことはわかってもらえたと思います。では、なぜこれほどまでの多額なキャッシュを出前館は持っているのでしょうか。

潤沢なキャッシュを提供する「あの企業」

それを把握するために、出前館のキャッシュフロー・計算書(以下、C/S)を時系列で示したものが図表7です。

2019年8月末時点で、出前館は22億円しかキャッシュを保有していませんでした。しかし、2020年8月期に287億円、2022年8月期には830億円のキャッシュ・フロー(財務CF)の調達があったことで、2023年8月末には553億円までキャッシュが増えました。

この2度にわたる財務CFのキャッシュの増加は、LINE(当時)等からの増資によるものです。これらを通じて、LINE出前館の筆頭株主になるとともに、LINEの親会社でもあるZホールディングス(当時)やNAVERが主たる株主となりました。

その後、ヤフーとLINEの経営統合と組織再編が行われ、最新の出前館の主要な株主構成は、持ち株比率が多い順にLINEヤフー、未来Fund有限責任事業組合、LINEの元々の親会社である韓国NAVERとなっています(図表8)。

なお、2番目に持ち株比率が多い、未来Fund有限責任事業組合は2社の出資で設立された投資ビークルです。NAVERのグループ会社・NAVER L.Hubが90%、LINE(現・LINEヤフー)が10%出資しており、実質NAVERによる形を変えた投資になっています。

状況をまとめると、現在出前館LINEヤフーのグループ会社であり、LINEヤフーNAVERから巨額な資本提供を受けたことで、潤沢なキャッシュを有しているのです。 増資による資金調達を実施していることから、2024年2月末時点で出前館の自己資本比率は77%と高く、営業赤字続きではあるものの、財務状況は健全と言えます。

出前館を待ち受ける今後のシナリオ

これまでの話をまとめると次のようになります。

・メニュー価格の25%が出前館の売上となる

出前館原価率は80%で、そのほとんどが配達員への外注費

・粗利率が20%と低い上に、売上高に占める広告宣伝費の割合が19%と高い。人件費等のその他販管費を踏まえると、営業赤字が続いている状況

・営業赤字は続いているが、直近のキャッシュは376億円。今期80億円の営業損失でもキャッシュは十分に確保できる

・キャッシュが多い理由は、LINE等から出資を受けたため

その上で、出前館の今後の成長戦略の一つになり得るのが、クイックコマースです。クイックコマースとは、オンラインで注文した日用品などが即時配達されるサービスを指します。

すでにアクティブユーザーを500万人以上抱えている出前館ですが、その数は昨年同期比で25%減と厳しい状況です。 これらユーザーが料理のテイクアウトだけでなく、日用品などの購入でも出前館を利用するようになれば、今後同社は更なる売り上げの増加が期待できるでしょう。アクティブユーザー数自体が再び増える可能性も十分にあります。

実際、2023年8月期の出前館の決算説明資料にもノン・フード(日用品等)領域の拡大を通じた長期的な事業成長が描かれています。

2024年4月23日終値時点の出前館の時価総額は384億円と、赤字続きの企業にしてはそれほど低くありません。しかし一方で、この時価総額を維持できているのは、出前館が2024年2月末時点で376億円ものキャッシュを有しているからとも言えます。実際、2024年2月末時点の純資産の合計は380.6億円で、時価総額と純資産の比率から計算されるPBRは約1倍です。

キャッシュがある限り、時価総額(株価)が大きく崩れたり、PBRが1倍を割れたりすることはないと思われます。しかし今後営業赤字が改善されず、キャッシュが減少していくと、時価総額も必然的に下がると予想されます。

他方、クイックコマース戦略が奏功すれば、フードデリバリーで売上を大きく伸ばしたと同様に、出前館は更なる成長が期待できるでしょう。時価総額も伸びると考えられます。そういった意味でも、今後の出前館の動きには注目です。

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