MVPに選ばれた秋山幸二氏

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「われわれには、ふるさとがない」

 西武ライオンズは3月16日に本拠地ベルーナドームで「LEGEND GAME 2024」と銘打ったOB戦を開催した。OB戦は球団史上初めてのこと。往年の名選手たちの共演はオールドファン垂涎の的で、チケットは早々と完売に至った。一方でその日、OBたちが失望する球団首脳のひと言があったという。黄金期のOBの1人は「これではOB戦の盛り上がりも一過性のものに終わってしまう。われわれに、ふるさとがないのは変わらないですね」と落胆を隠さない。

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 満員の2万7795人が詰めかけ、大盛況のうちに幕を閉じた、あの試合の裏で何が起きていたのか――。

MVPに選ばれた秋山幸二

 草創期を支えた東尾修、田淵幸一が「チームLIONS」「チームSEIBU」、それぞれのチームで指揮を執った。バッテリーでは工藤公康と伊東勤の黄金コンビが復活した。秋山幸二は現役時代をほうふつさせる躍動感あるプレーを攻守に披露し、MVPに。郭泰源、オレステス・デストラーデら一時代を築いた元外国人選手も姿を現した。

 レジェンドたちの一投一打にファンは大いに沸いた。前出のOBが振り返る。

「西武にはOB会が存在しません。チームを去ってから、これだけのメンバーで集まることはなく、懐かしかった。毎年でも開催してほしいのですが……」

 しかし、次回開催については、球団首脳から「5年後ぐらいに」と伝えられたという。

「折角これだけの盛り上がりを見せたのに……。オリンピックより長いブランクと聞かされ、がっかりしましたね。球団がOBのことを軽視していることはこれまでと同じようです」

 現状、OBたちの間でOB会を立ち上げようとする機運は高まっていないという。球界でOB会は阪神などでは強い存在感を示している。時には新監督の人事でさえ球団がOB会の顔色をうかがうほどだ。巨人もOB会の結束は強く、リーグ優勝15度、日本一9度に輝き、12球団でも屈指の戦歴を誇る西武に、OB会が存在しないのには違和感を覚える。

希薄な帰属意識

「所沢に移転したときは寄せ集めに近かった。そこから清原(和博)の入団があり、黄金期に入っていったのですが、その後、清原をはじめ主力選手は他球団へ移籍していていきました。数少ない残ったメンバーの伊東さんは監督時代に当時のフロント陣と対立し、退任後は疎遠なままでした。OB会の発足は(高齢で)東尾さんや田淵さんにお願いできないのであれば、前監督だった辻(発彦)さんとか、あの世代の人が動くしかないとは思うのですが……。球団もバックアップする気はないようです」(チームスタッフ)

 悲願でもあるOB会発足への道は依然険しく、OB戦の恒常化も遠いようだ。

 OB会が存在しないことは現役選手のチームへの帰属意識を希薄にしていると見る向きも多い。「OB会は良くも悪くも互助会的な側面があって、引退後のセカンドキャリアで仕事を斡旋し合ったりします。球団が仲介することもあります。それがないのですから選手は簡単に出て行くし、帰ってこないのも当然だと思います」と前出のOBは嘆く。

 西武は昨オフにも、山川穂高内野手がソフトバンクにフリーエージェント(FA)移籍したように、FA移籍した選手は12球団断トツである。在京セ・リーグ球団編成担当の分析はこうだ。

コストパフォーマンスが最優先?

「西武は基本的にFA交渉で他球団とのマネーゲームには応じません。他に好条件を出す球団があるならどうぞ(出て行ってもらっても構わない)というスタンスを貫いてきました。今の銀行出身のオーナーが就任してから、その傾向は顕著になりました。松坂(大輔)や秋山(翔吾=広島)のように、たとえメジャーから帰ってくることになっても、過去の功労者という視点よりもコストパフォーマンスを優先し、是が非でも獲得には向かわないという方針が徹底されているようです」

 昨オフは断念したものの、エースの高橋光成は早期のポスティングによるメジャー移籍の希望を持っている。また先発陣の一角、平良海馬もメジャー志向が極めて強く、辣腕代理人のスコット・ボラス氏と契約するなど以前から渡米の準備を進め、昨季から米国でより好条件での契約が望める先発へと転向した。

松坂の成功体験も

 2022年オフにSNSで「エースって言われる人が、どんどん抜けてる球団だからなあ、今のところ」としていた今井達也投手ら後続の選手も成長次第では当然、メジャーが視界に入ってくるに違いない。

「みんな出て行ってしまうんじゃないですか、FA権を取る前に。メジャー球団からの譲渡金が発生するポスティングなら、特にピッチャーは山本(由伸)がドジャース入りした際の70億円のように、球団に莫大な利益をもたらす可能性が高い。西武にはかつて松坂で、同様の成功体験があります。メジャー挑戦を望む選手は引き留めず、タダで出て行かれるFA前にポスティングを容認し、日本に帰ってくるときもなりふり構わずには獲りに行かない流れは続くでしょう」(前出のOB)

 成功裏に終えたOB戦も、血が通ったとは言い難い球団方針を変える転換点にはならないということか。(OBは敬称略)

デイリー新潮編集部