W杯予選に臨んだ日本代表に招集されるも、アウェーの北朝鮮戦が中止となり、出番なくスペインに戻ってきた久保建英。フィジカル面の問題を抱えながら臨んだアラベス戦では右足ハムストリングを負傷し、途中交代でピッチを去った。今回はスペイン紙『アス』および、ラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、久保の昨シーズンと現在の状況を比較してもらった。

【現時点では昨季の数字を上回るのは難しいが...】

 久保建英は今、正念場を迎えている。昨季はシーズンを通じてすばらしいパフォーマンスを発揮したが、今季は日本代表の一員として参加したアジアカップの前と、大会を終えてスペインに戻ってきてから現在に至る、ふたつの側面があると感じている。


直近のアラベス戦は負傷で途中交代した久保建英 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 そんなふたつの側面での出来の違いによって、現時点ではレアル・ソシエダに加入した昨年度の総合成績を上回ることは難しい。しかし数字には表われていないが、今シーズンも成長を続けており、議論の余地がない選手となり、歴史的なチャンピオンズリーグ出場権獲得を成し遂げた昨シーズンより、チームのなかで重要な存在となっている。

 この見解に驚く人もいるかもしれないが、それは私が、サッカーとは選手の貢献度を数値だけでは測れないスポーツだと、心から信じているからだ。サッカーには目に見えない要素がたくさんある。

 それは、久保に関して言えば、その存在によって味方のためのスペースがより増えているようなケースを指す。というのも、ドリブルやフェイント、高い個人技やフィニッシュワークといった、彼のテクニカルな能力を認識している対戦相手が、通常ふたりで警戒する傾向にあるからだ。その結果、必然的にほかの選手がより自由に、よりラクにプレーできている。

 しかしこれは逆に言うと、久保がアジアカップから復帰してから、それほどいい成績を残せていない理由の説明にもなる。

【心身ともにギリギリの状態でシーズン終盤を迎えている】

 久保は、時折高いクオリティーを発揮し続ける将来有望で攻撃的な選手から、その高い攻撃力を無効化するための策を練られるほど、大きな違いを生み出す選手へと変貌している。実際、彼をよく知る対戦チームは、昨季よりもさらに久保のことを研究して臨んできている。

 だから私は、久保が昨季に劣らないすばらしいシーズンを送っていると思っている。場合によっては、今以上の進化を遂げることもできただろうし、それは彼にとって義務かもしれないが、彼は決して停滞しておらず、むしろよくなっていると私は感じている。

 今の彼はあまり個人主義にならず、チームメイトとより深く関わり、チームのために自分を犠牲にできる成熟した選手になっている。それは、ボールを持っていない時のプレーにも表れている。後世に残るプレーや、シーズンのベストゴールを決めるといった、自分のことだけを考えて戦っているわけではなく、チームのためにより多くの犠牲を払っているのが見てわかる。

 もちろん、彼は自分の成績を向上させたいとも思っているだろう。しかしそれに執着しているわけではないことが、彼のプレーや献身的な姿勢に表われている。だからこそ私は、より完成度の高い選手になっていると感じているのだ。

 昨シーズンと数字だけを比べれば、歩みを止めているように見えるもしれないが、彼のラ・レアルでの安定した貢献度、それ自体が価値あるものと考えるべきだろう。

 では、ここから久保は何を目指すのか? ラ・リーガ残り8試合で、彼にはラ・レアルでの初年度に達成した成績を凌駕するという、容易ではない挑戦が待ち構えている。

 彼ならそれができると信じているが、その前に克服しなければならない"障害"がある。幸いにもビトリア(3月31日のアラベス戦)で負ったケガは軽傷とのことで、4月14日にホームで行なわれるアルメリア戦には間に合うだろうが、これは一過性の問題にすぎない。

 私が大いに懸念しているのは、彼が数週間前から抱えている筋肉面の問題のせいで日々の練習を思うようにできておらず、何よりも快適にプレーできていないということだ。

 彼のような選手がそのすばらしさを輝かせるためには、精神的にも肉体的にもフレッシュな状態を保つことが必要なのは言うまでもないが、今の彼からはそれが一切感じられない。これが現状、彼がベストパフォーマンスを発揮できていない主な理由だと思っている。

 つまりこれは、シーズン終盤の決定的な局面を、心身ともにギリギリの状態で迎えていることを意味している。

【厳しい状況は飛躍できる絶好の機会】

 直近のアラベス戦、私たちはメンディソロサ(アラベスのホームスタジアム)で意欲的で勤勉に取り組む久保の姿を再び見ることができたが、そのプレーはこれまでのような輝きからはほど遠いものだった。

 久保をよく知るアラベスのDF陣は、中盤の選手とうまく連係し、常にマークを怠らなかった。久保がボールを持つたびに激しく当たり、ターンを阻止し、ふたりがかりでボールを奪った。

 さらに、久保はコンディションが悪い状態で試合に臨まざるを得なかったため、持ち味であるドリブルで相手DFを突破するのに必要な閃きが不足していたのだ。

 久保は今、キャリアのなかで困難な瞬間を迎えていると言っていい。すでにラ・リーガでスター選手と見なされているため、毎試合、非常にタイトなマークを受け、息つく暇もない。

 ならば今こそ、ボールを非常にうまく扱える選手としての、内に秘めた能力をすべて引き出し、自分のプレーに宿るブラジル人のような魂を解放して逆境を乗り越える、ということを示さなければならない時だ。

 1年前のようなすばらしい成績を再び残すことは難しいかもしれないが、シーズンの正念場を迎えている今、肉体的にも精神的にも厳しいこの状況を乗り越えられたのならば、新たに大きな一歩を踏み出せるだろう。

 それは、より完成度の高い選手になり、より個性を備えたサッカー選手になり、そして誰もが認めるリーダーになる、ということだ。

 久保は今、さらに飛躍できる絶好の機会に直面している。私は、彼にはそれを証明する力があると信じている。傷つき、打ちのめされ、疑念を抱かれながら過ごしているシーズンを、最終的によりよい選手となって終えられると思っている。

 そして、もし彼がそれを達成できれば、ラ・レアルもチャンピオンズリーグ出場権争いに近づくことができるだろう。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)