騒動が起こる前、仲睦まじい様子の大谷選手と水原一平氏

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 違法賭博の問題が発覚して以降、雲隠れを続ける水原一平氏を巡り、先日ある意外な人物が“プチ炎上”を起こした。今はニューヨークで暮らしているという、タレントの松居一代だ。自身も英会話を勉強中という松居は、水原の通訳を「滑舌が悪い」「カジュアルすぎる」と批判。これが、騒動後にSNSを中心に目立つ水原氏への「死体蹴り」と同一視されたのだ。

(前後編の前編/後編に続く)

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海外駐在員のジャッジは?

 たしかに、落ち目の人物を後出しジャンケンで叩くのはあまり褒められたことではない。ただ、水原氏の通訳英語への「本当の評価」は気になるところだ。そこで、日本人バイリンガルに率直な感想を語ってもらった。

騒動が起こる前、仲睦まじい様子の大谷選手と水原一平

 今回評価を依頼したのは、幼少期からスイスで英語教育を受け、現在は大手IT企業の海外駐在員を務める福原龍太氏(仮名)。

 騒動後、SNSを中心に英語話者が指摘する、「フォーマルさに欠ける」「意訳が過ぎる」「正確性に欠ける」「フランク過ぎる」「大学生の使う英語に聞こえる」といった指摘は、的を射た評価なのだろうか。

 福原氏には、実際に水原氏が大谷とインタビュアーとの間に立ち、通訳をしている動画を複数本見てもらった。

非常に優秀な通訳

 まずは第一印象について、

「確かに、ネイティブスピーカーと比べると発音の抑揚が少なく、すこし聞き取りづらい印象です。ただ、改めて水原さんの通訳の仕事ぶりを観察すると、大谷選手にとって余人をもって代えがたい非常に優秀な通訳だったのだろうな、と感じました」

 と話す福原氏。一部で広がる批判を真っ向から否定する感想だが、どういうことなのだろうか。

「2人の受け答えを見ていると、水原さんの通訳は、長年培ってきた大谷選手との信頼関係の上に成り立っていることがよく分かります。インタビュアーの質問を直訳し全てを伝えるのではなく、質問の意図を踏まえた上で、大谷選手が答えやすいように言い換えたり、省略したりしています」(同)

“言い換え”で大谷の言葉を引き出す

 福原氏が例として挙げたのは、昨年3月のワールド・ベースボール・クラシックでアメリカを3-2で下した試合後のインタビュー。9回に登板し打者3人で抑えセーブを記録した大谷に、インタビュアーがエンジェルスの同僚、マイク・トラウト選手との対戦について尋ねたシーンだ。

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インタビュアー:
You’ve been playing with Mike Trout for the past couple of years now. You guys are brother now. Why you gotta get so nasty on him?
ここ数年マイク・トラウト選手と一緒にプレイしていて、今では兄弟のような間柄ですよね。なぜそんな彼に意地悪をするんですか?

水原一平氏の日本語訳:
トラウト選手と何年もやって、兄弟のような関係で、めちゃくちゃ仲良いと思うんですけど、なんであんなエグい球を投げたんですか?

大谷翔平の回答:
正直、誰よりも彼の凄さというか、本当にネクスト(バッティングサークル)から毎年のように見ていますし、本当にチームメイトが一番彼の凄さっていうのを人間性も含めて、どれだけ素晴らしいかっていうのを分かっていると思うので、自分のベストを超えるような球を投げないと、なかなか抑えられないようなバッターじゃないかと思って、そういう気持ちでいきました。
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「意地悪」を意味するnastyという言葉を、「エグい球」と変換することで、大谷の「リスペクトしているからこそベストを尽くした」という言葉を引き出している。

大谷のことが分かっているからこそ出来る“付け足し”

 今度は大谷の日本語での返答を英訳する場面について。

 例として挙げたのは、昨年のオールスターゲームでのインタビュー。通算210勝、サイヤング賞3回を誇るドジャースの有名選手、クレイトン・カーショウ投手について交わされたやり取りだ。

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インタビュアーの質問の日本語訳 :
カーショーと打席で対戦する機会があると思うが、カーショウはどこが良い選手だと思うか。

大谷翔平の回答:
コマンドがやっぱりいいですし、一球一球の再現性が高いので、クオリティが一球一球落ちないのがすごい。

水原一平の英語訳の内容:
カーショウの良い所は配球だと思います。どんな時でもどんなカウントでも。得点圏にランナーがいても、常に同じボールを投げることのできる再現性の高いピッチャーであることです。
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 実際には大谷は“得点圏”でのカーショウ選手の勝負強さについてはまったく言及していないが、水原氏が大谷選手の言うところの「再現性」の意味をしっかりと理解し、補っていることが分かるという。

むしろ後任のアイアトン氏の方が危うい?

「表面的に見れば、インタビュアーの質問の一字一句を訳しているわけではありませんし、“意訳が過ぎる”というのは一面だけを見ればその通りなのでしょう。ただ、2人の頭の中には、これまで培ってきた質問のパターン事例集みたいなものが出来上がっていて、水原さんは『この質問には翔平はこう答えるだろう』というのが全て分かっている。大谷選手も水原さんのそうした感覚を信じていて、意訳や省略も含めたある種の“誘導”を受け入れているように見えます。心から信頼しているからこそできることだと思います」(同)

 それでは、「フランク過ぎる」「聞き取りにくい」という意見についてはどうだろうか。

「フランクと言うなら、球場のインタビュアーの英語の方がよっぽどくだけているので、この点については気になりません。一方で、イントネーションを付けずに淡々と話しているように聞こえるのはその通りですね。確かに少し聞き取りにくい。ただ、問題というほどではありません。そもそも大谷選手自身、ジョークを駆使したり、喜怒哀楽を表に出したりしながら話すタイプじゃないですよね。内容もこう言ってはなんですが、あまりメッセージ性があるわけではないので、通訳の“自分色”が目立たないのはむしろ好印象です」(同)

 一方、後任のアイアトン氏の通訳は「フォーマルで聞き取りやすい英語」だというのが現状でのもっぱらの評判だ。しかし、福原氏はこのアイアトン氏の通訳の方にこそ、

「気がかりに思う箇所がいくつかあった」

 のだという。

 後編【大谷翔平の新通訳「アイアトン氏」に絶賛の嵐も…注目会見であらわになった“2つの危うさ”】では、騒動の後に大谷が初めて報道陣の前に現れた、3月25日の取材対応について振り返り、アイアトン氏の通訳内容を検証する。日本人バイリンガルが「気になった」箇所とは。

デイリー新潮編集部