by Jun Chen Lab at UCLA

咽喉がんの手術や声帯ポリープなどの影響で声帯が使えなくなってしまった人でも話せるようになる「喉に貼るパッチ」を、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームが開発しました。このパッチは小さくて伸縮性があり、発話に伴う筋肉の動きのみで発電するためバッテリーやプラグも不要とのことです。

Speaking without vocal folds using a machine-learning-assisted wearable sensing-actuation system | Nature Communications

https://www.nature.com/articles/s41467-024-45915-7



New throat patch can turn muscle movements into speech

https://medicalxpress.com/news/2024-03-throat-patch-muscle-movements-speech.html

New self-powered throat patch could help people speak without vocal cords | Live Science

https://www.livescience.com/health/new-self-powered-throat-patch-could-help-people-speak-without-vocal-cords

音声は人間がコミュニケーションを取る主要な方法のひとつですが、さまざまな病理学的理由によって発声障害が生じる可能性は誰にでもあり、人口の29.9%が生涯に少なくとも1回は発声障害を経験する可能性があるとのこと。また、現在進行形で発声障害を経験している人は7%に達し、その影響で仕事を休んだり辞めたりせざるを得ないケースもあります。

論文の上級著者でありカリフォルニア大学ロサンゼルス校の生物工学助教を務めるJun Chen氏は、数時間にわたって講義して声を出すのが大変になった時に、「声帯を使わなくても話せるようにする方法」のアイデアをひらめいたとのこと。

19世紀以降、科学者らは一部の硬い金属が機械的なストレスにさらされると磁気特性が変化することを知っていました。Chen氏らの研究チームは2021年の論文で、薄いシリコンにマイクロ磁石を埋め込んだ柔らかい素材でも、変形させることで磁気特性が変化することを報告していました。

Chen氏らは新たな研究で、このシリコンにマイクロ磁石を埋め込んだ素材を用いて、発話に伴う筋肉の動きから音声に変換可能な電気信号を生成する「喉に貼るパッチ」を作りました。パッチは5層構造となっており、中心にあるシリコンとマイクロ磁石の層が筋肉の動きに応じて磁場を生成し、これを挟み込む銅線コイルの2つの層が磁気変化を電気信号に変換します。これらの3層を柔軟なシリコン素材で包み込むことで、喉に貼れるほどの伸縮性を持つ小さなパッチになるとのこと。



実際にChen氏らが開発したパッチがこれ。



by Jun Chen Lab at UCLA

喉に貼るとこんな感じ。



by Jun Chen Lab at UCLA

研究チームは発話に問題がない8人の被験者を対象にしたデモンストレーションで、パッチを喉に貼った状態で発話してもらい、喉の動きを音声に変換する機械学習アルゴリズムを訓練しました。被験者は「Merry Christmas(メリークリスマス)」「I hope your experiments are going well(実験がうまくいくことを願っています)」といった短いフレーズや文章を100回、歩いたり立ち止まったりしながら繰り返したとのこと。

訓練された機械学習アルゴリズムは、喉の動きによって生成される電気信号を95%の精度で正しい音声に変換することができました。これは、被験者が実際に声を出した場合でも、声を出さずに喉を動かした場合でも確認されたと報告されています。

今回の研究結果は有望ですがパッチは開発の初期段階であり、再生する音声は事前に録音しておく必要があったほか、被験者も発声障害を持たない人々に限られていました。しかし、Chen氏は将来的なアルゴリズムの改善によってパッチの文章翻訳能力が向上し、音声の事前録音なしで筋肉の動きを音声に変換可能になるだろうと期待を寄せました。