2月11日に行われた宮古島駅伝、美しい海を背に坂を駆け上がる3区の田中愛睦(國學院大)【写真:長嶺真輝】

写真拡大 (全2枚)

箱根5位の國學院大、6位法政大、11位東海大など健脚競う

 沖縄本島から海を挟んで南西に約300kmの場所に位置する宮古島。「ミヤコブルー」とも称される美しい海に囲まれた国内有数の観光地であるこの島で、毎年2月に大学駅伝の大会が開かれていることをご存知だろうか。大会は宮古島市陸上競技場を発着点に島内5区間、総距離100.5kmのロングコースを駆ける「宮古島大学駅伝ワイドー・ズミ」(以下、宮古島駅伝)。昨年の第3回から強豪大学も参戦するようになり、2月11日に開かれた第4回大会は、今年の第100回箱根駅伝で5位に入った國學院大が優勝を飾った。駅伝というコンテンツを使った“島おこし”を掲げる事務局は「大会を通じて宮古島を『ランナーズパラダイス』にしたい」と意気込んでいる。

 宮古島駅伝は2020年に始まり、コロナ禍で21年は中止になったが、その後は継続的に開催している。宮古島の方言でワイドーは「頑張れ」、ズミは「最高」「素晴らしい」などの意味。毎年気温が20度前後に上り、主に海岸沿いを走る各区間ともアップダウンのある過酷なコースとなっている。

 当初は既に島内で合宿を行なっていた立教大と芝浦工業大が、地元宮古の学生らと練習を兼ねて競い合う交流色の強いだった。しかし昨年から箱根駅伝の後援企業である報知新聞社が実行委員会に参画し、各大学に出場を呼び掛けたところ、第3回大会に青山学院大、順天堂大、東洋大、東海大という箱根常連校が新たに参戦することが決定。一気にレベルが上がったほか、各大学が世代替わりしたタイミングで1区間約20kmという箱根に匹敵する距離を走ることもあり、大学駅伝ファンから注目を集めた。

 今年は年始の箱根で5位の國學院大、6位の法政大、11位の東海大、17位の順天堂大、箱根予選会で18位の専修大、23位の芝浦工業大が参戦。そのほか、4人のみで参加した東京国際大、3校の選手で構成した大学連合(法政大、立教大、芝浦工業大)、5区を沖縄の中学生、高校生、大学生、社会人の11人がタスキを繋いだ沖縄選抜チームを合わせ、8大学9チームが健脚を競った。

 2月11日の当日は午前中から晴れ。午前9時に号砲が鳴り、正午にかけて気温が上がって20度を超える時間帯もあった。

國學院大が全区間で区間賞 1区・野中が抜け出す

 レースは、2カ所に1kmほど続く上り坂がある1区(19.5km)から動いた。野中恒亨(國學院大1年)、鬼澤大樹(順天堂大3年)、橋本章央(芝浦工業大4年)が終盤まで競り合っていたが、そこから野中が抜け出し、59分16秒で区間賞を獲得。10000mで28分台の記録を持ち、有力と見られていた兵藤ジュダ(東海大2年)は1時間2分16秒で1区7位と出遅れ、タスキを繋いだ後に道に倒れ込んだ。

 野中は「すごく起伏が大きく、海風もあってめちゃくちゃ足にきました。すごい汗をかいたけど水分補給をして脱水対策はできました。残り4km過ぎくらいで全体のペースが落ち着き、自分がちょっと前に出たところで『このまま行き切っちゃおう』と思って、そのまま行きました」とレース展開を振り返った。新チームとなってから初めの駅伝だったため、「大事な一歩目の駅伝でチームに流れをつくれたことは良かったです」と笑顔を見せた。

 國學院大は今年の箱根でアンカーを務めた2区(21.8km)の高山豪起(2年)がさらに後続との差を広げ、特に高低差の激しい3区(20.2km)の田中愛睦(1年)と4区(20.4km)の佐藤快成(3年)もトップを堅持。最終5区の本山凛太朗(3年)も単独走ながらペースを乱さず、後続に背中を見せることなく陸上競技場に戻り、詰め掛けた島民から「ワイドー!」の声援や拍手を浴びながらゴールテープを切った。

 5区のランナーたちが走った正午過ぎは気温が20度を超え、本山も「景色を楽しむ余裕はなかった。海風も強くて、きつかったです」と苦笑い。それでも「沿道に来てくれた地域の皆さんにたくさん応援していただき、力が出ました」と語り、初優勝を喜んだ。今年の箱根で高山は10区10位、田中は7区7位、野中と佐藤は登録メンバーに入った一方、自身はメンバー入りできなかったため、「この大会をきっかけに自分もチームの核になりたい。箱根優勝を狙っているので、個人としてもチームとしても頑張りたいです」を意気込んだ。

 國學院大は全区間で区間賞を獲得する完全優勝。同大は2000年代に入ってから大学駅伝界で頭角を表し、直近では箱根で6年連続でシード権を獲得しており、悲願の箱根初制覇に向けて幸先のいいスタートとなった。2位には3分33秒差で順天堂大が入った。両大学のタイムは大会新記録。4人のみで参加した東京国際大は途中棄権した。

 最終成績は以下。

1位 國學院大  5時間11分09秒(大会新記録)
2位 順天堂大  5時間14分42秒(大会新記録)
3位 専修大   5時間22分37秒
4位 東海大   5時間24分40秒
5位 芝浦工業大 5時間27分17秒
6位 法政大   5時間27分54秒
DNF 東京国際大
OP  大学連合
OP  沖縄選抜

2月に「箱根の片道」を走る意義は…

 大学駅伝は10月の出雲駅伝(6区間、総距離45.1km)、11月の全日本大学駅伝(8区間、総距離106.8km)、1月の箱根駅伝(10区間、総距離217.1km)という三大大会を終え、世代替わりを迎える。

 先述のように、宮古島駅伝は学生駅伝界で国内最長の距離がある箱根の片道と同程度のスケールがある。暑さや島ならではの強い海風も含め、新チームとなったばかりのタイミングでこの過酷なレースを走る事に対し、各チームの関係者はどのように捉えているのだろうか。國學院大の山口祥太コーチは初出場を決めた理由をこう語る。

「箱根駅伝が終わり、新チームとしてリスタートするタイミングの初戦でこの距離の駅伝を走ることは今後に繋がるのではないかと考え、参加を決めました。三大駅伝で優勝を狙うという雰囲気づくりが大事になってくるので、今回しっかり勝ち切ってくれたことはとても評価しています。ここで満足せず、この先に繋げていってほしいです」

 この時期は2月の香川丸亀国際ハーフマラソンや3月の日本学生ハーフマラソンなど、個人で同程度の長さを走る大会はあるが、「雰囲気づくり」というコメントから見て取れるように、新チームとしての結束力を高めるという効果を見出しているようだ。
 
 今年の箱根で4年ぶりにシード権を逃した順天堂大のアンカーを務めた岩島共汰(3年)も「気象条件も含めてかなりタフな駅伝ですが、自分たち順天堂大としては箱根が悔しい結果に終わったので、ここからまたスタートを切れたことはいい経験になりました」と話し、チームとして新シーズンに向かうタイミングでの開催を歓迎していた。
 
 箱根への出走を目指す個々に選手にとっても、自己研鑽を積む場になったよう。以下は國學院大1区を走った野中のコメントだ。

「1年の出だしは学生ハーフや丸亀という大会もありますが、自分もロングを走れる選手になることを目指しているので、こういう機会を頂けるのはありがたいです。来年の箱根には主力として出場したい。距離が似ているので箱根をイメージし、自分の力を示すことを目的に走れました」

 その他、選手からは「タフな条件なので、記録を狙うというよりは自分を鍛えるという意味でいいレースになりました」との声も聞かれた。

 各校ともトップクラスの選手を揃えている訳ではないため、本気で競い合うという質の大会ではないことは間違いない。それでもチームにとっても、個々の選手にとっても、宮古島駅伝に出走する意義は十分にあるようだ。

 後編では、東急、三菱地所などの著名企業が協賛する理由を大会の仕掛け人が語る。

(長嶺 真輝 / Masaki Nagamine)