サッポロHDの尾賀社長(写真下、右から2人目)は本社(同上)のある恵比寿など不動産の位置づけも見直すとした(撮影:梅谷修司、今井康一)

「これまでと同じではいられない。攻めの経営がしたい」

2月14日、サッポロホールディングス(HD)の尾賀真城社長は、同社の中長期的な経営戦略についてそう語った。サッポロHDは現行の中期経営計画(2026年12月期最終年度)の先を見据えた「中長期経営方針」を発表した。

これまで酒類と不動産、食品・飲料の3つが併存していた同社の事業を、今後酒類中心の構造へと変革していく。その実現に向けて、不動産については外部資本の導入を検討する方針を明らかにした。従来「恵比寿ガーデンプレイス」などは投資目的の不動産ではなかったが、物件を限定せずに流動化を検討していく。

食品・飲料では、酒類とのシナジーが実現できない事業を根本的にテコ入れする方針だ。中長期経営方針の達成時期は30年度前後を目安としている。

3Dが筆頭株主に

同日、新しく内定した社外取締役も発表された。外資系投資銀行などに在籍した経歴を持つ、藤井良太郎氏と岡村宏太郎氏の2名が選任される予定で、シンガポールの投資ファンド、3Dインベストメント・パートナーズが推薦した。

1月5日、サッポロは3Dの持つ議決権比率が16.19%まで上昇し、筆頭株主になったと発表。3Dは22年からサッポロに経営改革を求めており、不動産賃貸収入により経営の甘えが生じ、酒類事業の低収益性を長年放置したことで悪化を招いたと指摘していた。

株主に改革を迫られたのは、今回が初めてではない。2000年代には、米投資ファンドのスティール・パートナーズがサッポロへ買収提案や経営陣刷新に向けた株主提案を行っていた。最終的にスティールは撤退したが、当時指摘されていた酒類事業の低利益率や、不動産の活用方法などの課題は変わらぬままだ。

サッポロの国内酒類事業の利益率は、過去4年平均で3%台。アサヒビールやキリンビールの同10〜11%台との差は大きい。国内ビール類シェア4位のサッポロは、マーケティングや商品開発に大きな投資を行う余力に乏しい。食品・飲料も、自販機の固定費が重く、商品数の絞り込みが近年まで進まず低収益で推移する。

一方で不動産は、過去15年の平均で年間約90億円 の利益を稼ぎ出してきた。サッポロによると、22年期末時点の投資不動産は2096億円の簿価に対し、時価は3857億円。タイミングを見て物件売却を進め、その利益の一部は酒類事業などの投資に用いてきた。

開業30年を迎えた恵比寿ガーデンプレイス

しかし不動産収益の大半を占める恵比寿ガーデンプレイスは、開業して30年目を迎える。22年から空調設備更新を開始し、10年間で総額260億円の修繕費を予定する。酒類で大型投資を実施するにも、不動産が重荷となりつつあった。

片や酒類事業には追い風が吹く。26年にはさらなる酒税改正でビールが減税となり、商品構成でビールの比率が高いサッポロにとっては「力を入れるタイミング」(尾賀社長)。ここにきて不動産事業を見直す決断に至った。


酒類事業への集中で、サッポロはどう変わるのか。

国内は人口減少で販売数量の大きな増加が見込めない中、ビールへの回帰は確実に進む。発泡酒や新ジャンルのシェアが低いサッポロにとっては好機だ。

さらに22年にビール類全般、23年には業務用ビールの一斉値上げが実施されたように、業界は数量より利益を求める流れを強めている。みずほ証券の佐治広シニアアナリストは、「サッポロはシェア低下が続いてきたが、高収益のビールを伸ばすことでシェアも回復に転じる可能性がある」と指摘する。

「サッポロビル」と揶揄された歴史

サッポロのビール類酒税抜き売上単価は、23年に対前年比で9%上昇し、収益性は上がっている。ブランド力のある「ヱビス」「黒ラベル」を強化することで、利益率改善が期待できる。

海外酒類にも力を入れていく。M&A(合併・買収)を進めてサッポロ商品の販売拡大を狙う。中長期的には海外酒類を国内と同規模まで成長させる方針だ。しかし過去の買収を見ると、数年での減損計上や赤字を脱せないパターンを繰り返している。

経営企画担当役員の松風(しょうふう)里栄子取締役は「過去をしっかり精査し、反面教師にして取り組む」と語る。まずは22年買収の米ビール会社ストーンを軌道に乗せられるかが試される。

これまで不動産頼みの経営に対し「サッポロビル」と揶揄されることもあったが、ついにメスが入ることとなった。再びファンドが筆頭株主となり、背水の陣で構造改革が動き出す。

(田口 遥 : 東洋経済 記者)