ラジオパーソナリティで料理研究家でもある河村通夫さん。ラジオ番組内で紹介するレシピはどれもおいしいと話題になり、昨年7月には、『毎日簡単! イラストおかず』(講談社刊)が発売されました。今回は河村さんに加え、本書ではイラストを担当し、ラジオ番組ではともにパーソナリティを務める若杉佳子さんに“イラスト”レシピに込められた想いや料理の楽しさ、簡単にできるレシピなどお話を伺いました。

75歳・河村通夫さんの「イラスト」レシピに込めた想い

札幌STVラジオ『桃栗サンデー』を50年、全国ネット『大自然まるかじりライフ』を35年、と長きにわたり番組を担当している河村さん。今回発売した『毎日簡単! イラストおかず』で特長的なのが、名前の通り、レシピが「イラスト」で紹介されているということです。多くのレシピ本が写真で紹介されているなかで、なぜ「イラスト」を用いることになったのでしょうか?

【画像】イラストで描かれた”焼き魚”のレシピ

「番組のコーナーでは、日常で手軽につくれるおいしい家庭料理を伝え続けていますが、文章で読むよりも、パッと見て分かるのが“絵”なんですよね。もともと番組スタッフ用の資料として書き始めましたが、ホームページなどで公開したところ、リスナーさんから『分かりやすい。ぜひ本にしてほしい』との声をたくさんいただきました。あえて写真は使わずに、普段通り全部イラストで紹介させていただいてます」(若杉さん)

「“6歳の子どもに説明できなければ、理解したとはいえない”という先人の言葉があるように、料理の工程も小学生でもパッと見て分からないといけない。だから、“絵”で紹介するのが最適だと思いました。工程を細かく書いてしまうと、読んだ人が難しく感じてしまう場合もありますよね。

でも、料理で大切なことは『自分でもつくれるんじゃないか』と思うこと。だれでも簡単にできるように、グラタン皿1枚でできるレシピをメインにして、調味料も、みそやしょうゆ、塩などの基本的なものだけ。その方が手間は省けて、かつ、素材のおいしさが楽しめますからね」(河村さん)

子どもが「料理好き」になるきっかけにも

「料理は本来シンプルで楽しいものである」。その河村さんの想いがぎゅっとつまったレシピ本には、家族で楽しんでいるという声も寄せられています。

「これは50代男性の投稿ですが、この本を読んでいるときに、お孫さんがちょうど来て『本を貸してほしい』と言ってしばらく真剣にながめていたそうです。そしたら、そのお孫さんが『これならパパにもご馳走してあげられる!』ってコメントしたのだとか。すてきな話ですよね。

実際に小さいお子さんひとりではつくれないかもしれません。でも、その子が料理を好きになるきっかけにはなります。イラストは白黒にしているので塗り絵で使ってもらってもいい。そうやって料理に興味を持ってもらえる、だれかの大切な一冊になってくれたらうれしいな」(河村さん)

調理工程もオーブントースターがメインなので、料理が苦手な人や子どもでもつくることが可能。また、“だれでも”できるレシピ本だからこそ、大切な人にプレゼントして欲しい…、と河村さんは考え、本の帯には「○○さまへ ○○より」と印字されている、贈り物仕様にしたそうです。

完成図がないからこそ、料理を楽しめる!

そんな“料理心”に寄り添っているレシピ本には数多くの声が届き、河村さんと若杉さんもそのお便りを読むたびにうれしい気持ちになっているそう。そこで、とくに印象に残っているものを尋ねてみました。

多くのレシピが、過熱時間10〜15分、20分という時間設定になっていてこれが絶妙。15分あれば、トースター調理をしている間に、コンロでもう1品つくれるので食事の幅が広がります。また、ひとつのレシピに多くの材料を入れないため、食材かぶりの悩みも少なく、つくりおきできるのもラク。

日常生活でいちばん大切な「食」の部分の手間をかけないのに豊かにできる魔法のような本で、食事を用意する人への優しさに満ちあふれていると感じました。本の題名にもある“毎日簡単”。そのとおり。

いちばん感銘を受けたのが、イラストが、トースターに入れる直前になっているところです。写真やできあがりのものだと、「これが正解!」というように感じますが、イラストのおかげで想像の余地が生まれて、こんな感じでいいかな…という余裕も。あえて完成図がないことによって、自分のつくった料理をみて初めて、「こんな風にできるんだ!」と驚きと満足を得られます。イラストに込められているお気遣いに若杉さまの優しい人柄が出ていて温かい気持ちになりました。

(札幌在住・40代女性)

このコメントを読むと、実際にどんなレシピなのか気になりますよね? そこで、本の中からイラストレシピを2品教えてもらいました。

毎日簡単!イラストおかず2品

1つ目は、「焼きもやしのナムル」。つくり方は、グラタン皿にモヤシを入れて、10分ほどオーブントースター、もしくは魚焼き器などで焼く。焼きあがったらそこに、しょうゆとゴマ油を和えれば完成。

「イラストではしょうゆとゴマ油で和えていますが、味つけはお好みで大丈夫。とんかつソースでつくるのも絶品ですよ! 常備菜にもなるし、盛って焼くだけなのでとても簡単。あとは、好きなキノコでつくってもOKです」(河村さん)

2つ目は、カップ麺の入れ物でつくる「温泉卵」です。

カップ麺のどんぶりに、冷蔵庫に入っている冷たい卵2つを入れてお湯を注ぎ、フタをして15分待てば完成します。

板のりをちぎってのせても絶品! 意外と温度調整が難しい温泉卵も、このレシピを使えばとても簡単につくれますよ。

家庭料理の原点は“縄文時代”の料理にある!?

レシピは試行錯誤を重ね、今の分かりやすい形にたどり着いたという河村さん。なぜ“グラタン皿”を使った料理が完成したのでしょうか?

「お店と家庭での料理は違う。家庭料理はすごくわかりやすく言えば、縄文人の“たき火をしてそこに石を置き、そのうえで焼いて食べた”といったシンプルな食事だと思うんです。だから縄文時代の石焼をグラタン皿で再現しました。焼き魚も、グラタン皿でつくれば、遠赤効果で外側はパリッと、内側がふわぁっとできます」(河村さん)

河村さんのレシピは素材を生かした調理が大事にされています。また、それと同時に料理をつくる人のことも考えているそうです。

「焼き魚など、グリル網を洗うのはちょっと面倒ですよね。でも、このグラタン皿調理法なら洗い物も少なくてラクです。この調理でどれだけ料理をする人が解放されるか。僕は、料理で幸せになってほしいんです。だから、自分が幸せになったことをこれからも伝えていきたいですね」(河村さん)

そう笑顔でしめくくってくれた河村さんと若杉さん。「イラストおかず」は料理の大変さから解放されるだけではなく、それを“楽しさ”に変えてくれるので、多くの人の生活に寄り添ってくれること間違いなし。これからもおふたりのつくるレシピが楽しみです。