昨年10月、不登校の状態にある小中学生の数が、過去最多になったことが大きく報道されました。子どもには元気に学校に行ってほしい、不登校になってほしくないと考えるのは、親ならだれもが思うことかもしれません。しかし「子どもに『休みグセ』をつけると本格的な不登校になってしまうのではないか」と恐れるあまり、子どもの初期のSOSを見逃してしまうと、かえって状況が悪化してしまう場合も。

ここでは、『「発達障害」と間違われる子どもたち』などのベストセラーで知られ、不登校の子どもたちとも数多く接してきた、小児科医・「子育て科学アクシス」代表の成田奈緒子先生の新刊『誤解だらけの子育て』において、成田先生が解説する、子どもに「学校に行きたくない」と言われたときに親がとるべき反応について説明していきます。

 大人の反応が、子どもの「休みグセ」をつけてしまう

2023年10月、不登校の状態にある小中学生の数が2022年度で29万9000人と、過去最多になったことが大きく報道されました。

文部科学省の定義によれば、「不登校」とは、病気や経済的理由以外のなにかしらの理由で、登校しない(できない)ことにより長期欠席(年間30日間以上)している状態を指します。

●「学校に行きづらい、休みたい」と感じ始めるのは…

不登校の原因については、さまざまな調査が行われていますが、実際に不登校の状態にある子どもたちを対象にアンケートを取った「不登校児童生徒の実態調査」(2021年度)のデータを見てみましょう。

それによると、小学生で最初に「学校に行きづらい、休みたい」と感じ始めるのは小学4年生が30.2%と最多になっています。これは、私がこれまで数多く子どもたちと向き合ってきた体感とも一致するものです。

小4は「こころの脳」が発達し、「ほかの人とうまくやっていく」ことを意識し始める年齢でもあります。また思春期の前段階としてのホルモンバランスの変化が始まるので、不安定になりやすい時期なのです。

きっかけは多岐にわたりますが、この調査によると、小学生でもっとも多いのは「先生のこと」、そして「身体の不調」「生活リズムの乱れ」「友達のこと」と続きます。

もし、お子さんが「学校に行きたくない」と言い出したら、皆さんはどのような反応をされるでしょうか。

一日、二日であれば休むこと自体は問題ないと考える一方、「これで『休みグセ』がついてしまうのではないか」と本格的な不登校になることを恐れ、「大した理由もないのに、学校を休むべきではない」「そうやってイヤなことから逃げていたら、ろくな大人になれない」などと正論をかざす親御さんは少なくありません。

しかし、これでは子どもは「自分の親は、私の気持ちを聞いてくれないのだな」と諦め、二度と本心を打ち明けなくなります。親御さんが無理やりクルマで学校に送ったり、先生が迎えに来て「さあ、学校に行こう」などと声をかけたりするケースがありますが、こうした大人の行為こそが、かえって休みグセをつけてしまうのです。

●「学校に行きたくない」と言われたら

もし、お子さんが「学校に行きたくない」と言い出したら、親は取り乱したり過度に心配したりせず、「そっか、行きたくないんだ」とそのまま受け止めるようにしてください。

理由を追及されたり、なじられたりするとばかり思っていたお子さんは驚き、自分の気持ちを親にそのまま受け止めてもらえたことに、まず安心感を覚えます。そこから、なぜ学校に行きたくないのか、自分から理由を話してくれるかもしれません。その際にうなずきながらきちんと傾聴し、共感してあげることで、「勉強に遅れちゃうし、やっぱり行こうかな」と、学校へ行く気持ちがおのずと復活することも、よくあります。

しかし、そもそも最重要なのは家庭生活です。それがしっかりできていないことが不登校の一因になっていることも多いのです。もし心当たりがあるなら、子どもが学校に行かないことは、むしろ「家庭生活の再構築」のチャンス! と捉えるべきと私は考えます。

前出の調査で、不登校になったきっかけの第3位に「生活リズムの乱れ」が挙げられています。不登校のお子さんは、昼夜逆転してしまったり、丸一日ゲームに没頭してしまったりして生活リズムが乱れがちです。

呼吸・体温調整など、生きるのに欠かせない機能を担う「からだの脳」がきちんと働かないために、学習がうまくいかない、友だちとの関係が構築できない、「おりこうさんの脳」(勉強やスポーツにかかわる部分)、「こころの脳」(想像力や判断力にかかわる部分)の問題が積み重なるケースが不登校の子どもには多く見られます。

であれば、家庭生活を見直すことでここにテコ入れすることが最重要課題です。まずは早起きから「からだの脳」をつくり直す。そして、お子さんに食器洗いや洗濯物の取り込みなど、家にいるからこそできる、家庭生活を円滑に回すための役割を割り振るのです。

これは決して、学校に行かないことへの「罰」ではありません。生活を回すことによって親は「助かった、ありがとう」と感謝の気持ちを伝えられます。

じつはこれが「自分は学校では多少の不適応があったけれども、少なくともこの家庭という社会の中では、重要な役割を持つ、役に立つ人間である」という自信につながります。そしていつの間にか家庭外の社会に対する不安や恐怖をもたなくなるのです。