人生100年時代、第二の人生をガラリと変える人もいます。結婚、子育て、離婚、病気の発症を経て、昨年からスペインへの単身留学を送っている54歳のRitaさん。SNSでも留学生活を紹介し、人気です。今回は、スペインのカフェ事情について教えてくれました。

スペイン人は「どんなに大不況でもカフェの代金は捻出する」と言われるほど、コーヒーを好み、その時間をとても大切にしています。ヨーロッパ各国のコーヒー消費量は、寒い地域のフィンランド、ノルウェー、デンマークが群を抜くようですが、スペイン人も70%以上の国民が毎日必ずコーヒーを飲んでいると言われています。時間帯としては、朝はもちろんのこと毎食後、そして間食時も含めて一日4〜5回飲む人も珍しくありません。

こだわりのカフェが多数建ち並ぶスペイン

コーヒーが飲める場所は、カフェテリアやレストラン、お酒を飲むイメージのバル(Bar)にも用意され、一日中いつでもどこでも、時間があったら立ち飲みでも飲みたい! と思うほど、スペインではコーヒーを欲している人が多い印象です。

街中のカフェはどこも、味だけでなく空間づくりやコンセプトも工夫をしているのが伺え、オーガニックやビーガンを取り入れたり、音楽のセレクトが絶妙だったり、バリエーションが豊富です。

また専門店には、こだわりの豆や手づくり菓子をそろえるところが多く、地元の人たちや観光客、とにかくコーヒー好きでにぎわっています。北欧出身のクラスメイトは「あのお店のコーヒーしか飲まない!」と、自宅の豆がきれると空袋を持ち歩き、お気に入りの専門店で度々購入しています。

豊富すぎるメニューの量に驚愕

スペイン語がさっぱり分らなかった頃に困ったのがメニューの多さです。スペイン人のコーヒー愛のあまり、コーヒーのメニューだけでも10種類ほどあり、値段も違います。見慣れたカフェオレやカフェラテも、店舗によりあったりなかったり…。
基本的には「エスプレッソコーヒーになにを加えるか」、ミルク・水の分量でも名前が変わります。さらにその名前も地域ごとに違いがあることから混乱…。一般的には下記のような考え方です。一部をご参考までに紹介します。

・Café solo=エスプレッソ100%

・Café largo=エスプレッソ75%、水25%

・Cortado=エスプレッソ75%、牛乳25%

・Café macchiato=エスプレッソ75%、牛乳の泡25%

・Descafeinado=カフェインレス

・Carajillo=エスプレッソ50%、ブランデー50%、レモン、コーヒー豆

・Café con hielo=エスプレッソ100%、氷(アイスのコーヒー)

・Café con leche con hielo=エスプレッソ50%、牛乳50%、氷(アイスのコーヒー牛乳)

これ以外にも配合により、もっと名称があります。

お店もお客の細かい要望にも慣れっこ

メニューの中でも、スペインの人たちにいちばん人気なのは「Café con leche=エスプレッソ50%、牛乳50%」です。ミルクたっぷりで甘め、温度も少しぬるめが好まれています。熱々を好まないのは、猫舌の人が多いという説と、ミルクの風味を変えないため、という説があるようです。

お湯やミルクが別の器で提供されたり、コーヒーに浸すビスケットが必ずセットだったり、店舗により様々な特色があります。また、オーダーに戸惑っていると「牛乳はどれくらい? 熱め? ぬるめ? 砂糖は?」と聞いてくれます。自分の好みで細かくカスタマイズできるのもスペインカフェのよさです。

日本のようなアイスコーヒーはない?

また、スペインには日本のようにアイスコーヒーという概念がなく、メニューでもあまり見かけることはありません。もしお店にあって注文した際は、熱々のエスプレッソと氷がゴロゴロ入ったグラスが到着し、自分で氷のグラスにエスプレッソを一気に注ぎ入れます。アイスコーヒー用のガムシロップやミルクもないため、先に砂糖やミルクをエスプレッソに溶かしてから氷へ。キンキンに冷えたイメージとは少し異なりますが、これがスペイン風アイスコーヒーなのです。

自宅でもコーヒー時間を楽しみます

スペインのほとんどの家庭が、コーヒーメーカーを持ち合わせていると言われています。スーパーにはカプセル、スティックなども多種類揃い、遅い時間帯になると空棚となり需要の多さに驚きます。以前のホームステイ先でも毎朝いい香りがし、学生たちにも好みの味を飲ませてくれました。

なお私達へはマグカップに注いでくれましたが、ステイ先のパパはガラスコップを愛用。スペインは昔から温かい飲み物もガラスコップで提供される習慣があり、とくに年配の方は、コーヒーはガラスコップで飲むものだと考えている方も多いようです。店舗でもお願いするとガラスコップに入れて提供してくれます。

スペインではその人なりのカフェの楽しみ方がある

スペインのコーヒーは、エスプレッソコーヒーがベースとなり、苦いのが苦手な人は少しきつく感じるかもしれません。だからこそミルクの量を加減して自分好みに仕上げて飲むんです。地元の人たちが毎日通うカフェでは、メニューにはない「その人なりの分量」が阿吽(あうん)の呼吸で出てくるとも聞きます。まさに第二のリビングです。

思えば私のスペインカフェ初体験は1年半前。スペインへ到着した1週間後、初めての週末でした。どんな観光地よりも、まずは現地のカフェに行ってみたくて意気込んで店頭まで行ったものの、「コーヒー1つください」という言葉が言い出せずに尻込みしてしまい、結局日本でも見慣れたチェーン店で指差し注文しかできませんでした。

あの日おびえていた、たった1杯のカフェ注文。その後、注文もお店選びもたくさんの失敗を繰り返しながら、今では行きつけのカフェが家よりも心地よく感じる空間となりました。スペインの人たちにとっても、毎日通うお気に入りのカフェには、きっとその人だけの大切な思い出が詰まっていることと思います。