2023年の主要なカルチャーテーマだったAI。2024年にはその性能がさらに向上することは間違いない。

この点を考慮して、美容業界は2023年1年間、バックエンドビジネスとフロントエンドの消費者向けの取り組みの両方においてChatGPTなどのAIを試してきた。テキストベースのChatGPTに加えて、Speechify(スピーチファイ)やRespeecher(リスピーチャー)などのAI音声プラットフォーム、Midjourney(ミッドジャーニー)やDall-E 3(ダルイー3)といったAIアートジェネレーター、Ludo.AI(ルドAI)やPika(ピカ)といったAI動画ジェネレーター・編集ツールが活用されている。ブランドが選択肢と機会を見極めているなか、2024年は美容業界にとってAI実験を消費者に提示するさらに大きな舞台を提供する年になると思われる。

「マーケターなら、来る年も来る年も、ゲームやテクノロジー、メタバースなどあらゆる分野の専門家でなければならない。ディスラプションを起こすブランドになりたければ、知識を持ち、アーリーアダプターとなり、尽力すべきだ」と述べているのは、ブランドエージェンシーロンドン(Brand Agency Londo)のグローバルマーケティング・ディレクター、ノラ・ズカウスカイテ氏だ。ブランドエージェンシーロンドンは、メイクアップブランドのシアテ ロンドン(Ciaté London)とロッティ ロンドン(Lottie London)、Z世代向けスキンケアブランド、スキンプラウド(Skin Proud)を所有している。

Glossyは、美容業界におけるAIの現在のユースケースと2024年に登場する消費者向けアプリケーションについて理解するために、ズカウスカイテ氏をはじめブランド幹部や消費者向け企業のAIリーダーに話を聞いた。

ブランドエージェンシーロンドン:市場リサーチ結果のクロスチェックは必要



ブランドエージェンシーロンドンは、2023年5月初旬から、ChatGPTを使い、マーケティング、コミュニケーション、製品開発に生成AIの導入を開始した。ChatGPTは、プレスリリースの作成、ソーシャルメディアのキャプションの作成、競合ブランドの調査を支援している。

ズカウスカイテ氏は、注意すべき点があると述べている。ChatGPTには誤情報や真実ではない情報を提供する傾向があるため、社員には依然として市場調査結果をクロスチェックする必要がある。同氏は、ChatGPTは何かにとって代わるものではなく、跳躍台として機能するものだと付け加える。プレスリリースにおいてさえも、その利用は単なる補助にすぎない。リリースにはブランドの声が適切に反映されていなければならず、それは人のみが正確に行えるからだ。

「(5月以降のこの期間は)当社全体のチームが、どこまでが機械に頼ることができ、どこにまだ人の関与が必要なのか、その可能性を理解するために、実験したり試したりするための期間だった」とズカウスカイテ氏は語る。

このAI導入期間後、ブランドエージェンシーロンドンは消費者向けの方法でAIを使うことに着目し始めた。ロッティロンドンは、自社のハロウィーンキャンペーン中にAIアートジェネレーターのMidjourneyを使ってアートデザイン3点を作成した。それらの画像は、同社のインスタグラム、TikTok、LinkedInなどのソーシャルメディアプラットフォーム全体で使われた。以前のキャンペーンと比較して、エンゲージメントが710%、そして、高いソーシャルセンチメントでのインタラクションが180%増加した。

AIにはパフォーマンスマーケティング用のアプリケーションもあり、ブランドエージェンシーロンドンは生成音声AIを導入している。英国拠点の同社は、音声広告で現地のアクセントを使うとオーディエンスとリスナーのエンゲージメントを向上できることを発見した。ブランドエージェンシーロンドンはSpeechifyと協力して、音声広告用にアメリカとオーストラリアのアクセントを生成した。2024年には動画にも拡大して、動画制作向けに社内のブランドスタジオを建設する予定がある。たとえば、動画では背景に異なる市場を反映することが可能で、Speechify AIを使えば俳優やプレゼンターが(対象市場の)ネイティブに聞こえるようにすることもできる。

ズカウスカイテ氏は、2024年はEUにおけるAI規制に対して重要な年となり、企業が消費者とのやり取りにおいてAIを使用するためのフレームワークを成文化する年になると予想している。たとえば、コンテンツの生成にMidjourneyやChatGPTが使用されたとブランドが宣伝すれば、画像が本物か偽物かを顧客に伝えるのに大いに役立つだろう。また、テクノロジーとそのユーザーがさらに進化するにつれて、ブランドが新機能を他社と異なる方法でどのように使用できるかという課題も忘れてはならない。誰もが同じツールを同じ方法で使っているなら、ブランドはどのようにして差別化し続けることができるのだろうか。生成AIはインターネット全体でトレーニングされているにもかかわらず、創造性においてかなり制限されている可能性がある。ズカウスカイテ氏にとって、これは2024年の主なマーケティング課題だという。

「その点が、パワーなのは、やはり人の創造的な才能と創造的な心だと私が感じているところだ」とズカウスカイテ氏。「ロボットが誰かの仕事を奪うというわけではないが、マーケターとクリエイティブな人々とテクノロジーのあいだでどのように作業するか、そのバランスを見つける必要がある」。

日焼け止めブランド、バスク:eコマースサイトでChatGPTチャットボットを今月ローンチ



マイアミをイメージした日焼け止めブランド、バスク(Bask)は、いくつかの社内機能を支援するために4つのChapGPT AIボットをSlackに統合した。AIは、ソーシャルメディアの応答やソーシャルポストのコピーライティングの開発に役立つだけではなく、カスタマーサービスポータルを介した問い合わせに対するカスタマーサポートの回答を送信したり、Eメールのマーケティングコピーや画像を作成したりすることもできる。また、ダイレクトメールやほかのダイレクトレスポンスマーケティング活動のコピーのサポートも行う。最後に、プロンプトを使ってAIを一種のオフィスアシスタントとして機能させた。生産性ツールのNotionの使いかたや自社Slackのエチケットについての取り組みを知らせたり、職場の通知などに使われた。バスクは、コンサルティング会社兼ChatGPTラッパー企業のアトラスAI(Atlas AI)と協力して実装に取り組んだ。

バスクの創業者、マイク・ハフステトラー氏は次のように述べている。「全員の生産性が向上した。他人から情報を受け取るのを待たなくてもいい。どの組織でも、特に新興企業では、会社についての知識を多く持っていて答えられるのは組織全体で1、2人しかいない。だが、いまでは、誰もが時間を問わず、いつでも答えを得ることができる」。

このようなポジティブな経験に基づいて、バスクはバスク・プールボーイ(Bask Pool Boy)と呼ばれる特別なChatGPTチャットボットを作成した。これは、1月中旬に同社のD2C eコマースサイトでローンチされる。プールボーイは今日見られる基本的なチャットボットを超えて幅広い会話を行うことができる。たとえば、日焼け止めをいつどこで使うかという質問に対しての回答のほかに、顧客とのやり取りの中でバスクのCEOになるという(プールボーイが持つ)願望を語ることもできるのである。ハフステトラー氏は、Microsoftのクリッピー(Clippy)のようなこのチャットボットを構築したのは、エンゲージメントと顧客サービスを組み合わせて、機能的なものに高レベルでユーモラスな要素を取り入れるためだったと述べている。

「これを、当社製品の販売を促進するツールにしようとは思っていない」とハフステトラー氏。「顧客にとって付加価値となり、顧客が夢中になれるようなものにしたいと思っている。会話の8割が、日焼け止めとは関係なくて、『マイアミに行くならどこに泊まって、どこを訪ねるのがおすすめか?』というような質問だったら嬉しいと思う」。

まつげのエクステサービス、ルーム・プレシジョン・ラッシュ:予測AIを活用し、施術ロボット機能を向上



ルーム・プレシジョン・ラッシュ(Luum Precision Lash)は2017年以来、ロボティクスとAIを組み合わせてまつげのエクステサービスを提供している。ブランドエージェンシーロンドンやバスクとは異なり、ルームはChatGPTを支えている生成AIではなく、予測AIに依存している。予測AIは、テキストや画像、動画やコード、音楽などの新しいコンテンツを作成する生成AIとは対照的に、機械学習を使用して過去の状況のパターンを特定して将来起こることを予測するものだ。

ルームによるサービスでは、テクニシャンに準備されてから、顧客は小型自動ロボットアーム2本がエクステを装着するブースに横たわる。これらのアームは繊細な磁石で取り付けられており、軽く触れただけでもすぐにはずれるので、顧客の怪我を予防できるようになっている。ルームにはラッシュラボが2カ所ある。1つは2021年にカリフォルニア州オークランドに、もう1つは、カリフォルニア州ビレッジオークスのアルタビューティ(Ulta Beauty)に12月にオープンした。アルタビューティも初期投資を行った1社だ。テクニシャンによる従来のまつげエクステは装着に数時間かかる場合があるが、ルームはフルセットのまつげエクステ施術を75分で完了できる。これまでのところ、一度に対応できるのは片目だけだが、同時に両目に対応できるブースが2024年末に登場する予定で、それにより施術は33分で完了するようになるという。

このAIは、画像処理と意思決定を通じて機能する。画像処理の例には、何千という目の画像を使ってニューラルAIネットワークをトレーニングし、上まぶたの端の位置を学習させて、ロボットにエクステを装着する位置を学ばせ、どこで止めるかを認識させることがある。ルームの共同創業者、ネイサン・ハーディング氏によると、AIによる意思決定の例には「アイソレーション」があるという。これは、アームの1本がまつげを1本ずつ選り分けて、もう一方のアームがエクステに接着剤をつけてまつげに装着するという、ロボットアームの動きのことを指す。ルームは2024年に強化学習の展開にも注力している。AIニューラルネットワークがロボットの動きを決定するタスクを完了すると、その成果の良し悪しを判断して、その情報に基づいて次回に備えるのである。

「人間が思いつかない方法で、アイソレーションと応用などのテクニックから強化学習が生じる。なぜなら、我々は機械と同じようには考えないからだ」とハーディング氏は語っている。

ハーディング氏とルームのCEOのジョー・ローソン氏は、まつげエクステサービスの自動化によりテクニシャンが不要になるわけではないと指摘する。施術を受ける顧客の準備をしたり、スタイルについてのアドバイスのためにまだテクニシャンは必要だ。ハーディング氏とローソン氏は、まつげエクステ事業者がこのデバイスを使えば、さらに多くの顧客に対応できるようになり収益を向上させられると主張している。AIがさらに高度になるにつれて、AIサービスがいつ、どのようにして人によるサービスに取って代われるのかどうかは、引き続き懸念事項となっている。

「『AIが人類を滅ぼす』といったようなニュースを耳にすると、AIは少し恐ろしいと思うかもしれない。だが、当社がAIとロボット工学を活用してハードウェアとソフトウェアを連携させている方法は、AIが生活を向上させられるという証拠だ」とローソン氏は述べた。

[原文:How beauty brands plan to embrace consumer-facing AI in 2024

EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)